侯爵領からの旅立ち
領都(の焼け跡)を出発して、いくつかの村や街に寄った。
ナイトドレス一枚で飛び出した私だったが、とりあえず最低限の服装だけは確保できた。いやむしろ最低限にして貰ったというのが正しいかも。
「フラン様にはもっとしっかりとした物を纏って頂かなければ!」
馬車に揺られながらも、ふんす! と鼻を鳴らすレヴァン。気分はすっかり私の従者だ。
雇うって言ってないのに……。この人真面目なんだけどどこか馬鹿だ。
「そんなもの王都に着いてからでも何とかなるんじゃないですか? むしろ大荷物になったら大変だと何度も言ったはずですよ?」
「それはそうでありますが……」
これは納得してないな。仕方ない話題を変えよう。
「それよりレヴァン。貴方王都ではどのようなお仕事をされてらしたの?」
興味ないけどね。
大層な役職だったらなんだかんだ理由をつけて従者採用を無かったことにしてやるんだから。
「自分は騎士団にて騎士隊長をしております! 配下にはそれぞれ騎士小隊を三つ束ねた騎士中隊が二つあり、それを一纏めにして騎士大隊として運用しております!」
自慢げに胸を張るレヴァン。それにしても結構な大物さんじゃない!
「騎士大隊なんて凄いじゃない! でも今回の救援隊はそこまで大きな規模では無いようですけど、どうしてですか?」
そう。今回私が連れられている救援隊は騎士大隊と呼ぶには些か規模が小さいのだ。聞いている話だとせいぜい小隊以上中隊未満。
領都があんな惨事に見舞われているにもかかわらず、その規模でというのは何か訳があるんだろうけど……。
「フラン様にこの様な事を申し上げるのはとても心苦しいのですが、本来災害救援であれば中隊……今回の規模であれば大隊を派遣するのが妥当かと思われます。しかし、今回は報告を受けた時点で火災の規模がとても大きかったので、機動力を優先して少数精鋭で駆けつけた次第で御座いました」
そう言うレヴァンの顔は曇っている。
「本当にフラン様にはなんとお詫びを申したら良いか……。我々がもう少し早く到着していたら状況は如何様にも変えられたというのに……」
彼なりに心を痛めているみたい。領都のあの惨状は私が無責任にそう設定してしまったからだというのに……。少し彼がかわいそうになってきた。
「ですから今後はフラン様に忠誠を誓い、一心不乱にお守りする所存で御座います!」
前言撤回。やっぱりこの人真面目だけど面倒くさい人だ。
「守ると言ったって、貴方騎士隊長の役職はどうするおつもりなんです? そう簡単に放り出せる様なお仕事じゃないでしょう?」
本音半分嘘半分。騎士隊長の役職に縛り付けて関わり合いを持ちたくないというのもあるけど、実際騎士大隊を指揮するような立場ならそう簡単に投げ出す事なんてできないと思う。
現実世界だって、自衛隊の人が役職を放り出すなんて話し聞いたこと無い。
自衛隊の階級なんて詳しくないけど漫画や小説だったら佐官クラスの人する仕事だった気がする。結構なエリート? だよね?
「もちろん騎士隊長の職務は投げ出したりなどできません。しかし、それがフラン様の従者となれない理由にはなりませんよ」
「ふぇ? どういうこと?」
あ、びっくりして変な声出ちゃった。
そんな私の反応を気にせず、レヴァンは自慢げに話を続ける。
「なにせ騎士団所属の人間のおよそ半数は貴族諸侯のお抱えですから!」
どういうこと? お抱え? 王国の騎士団なのに王国の配下では無いの?
「その様子ですとフラン様は軍部に明るくない様子ですね」
そりゃそうだよ。こっちはさっきこの世界に生まれたようなもんなんだからさ。
「騎士団……。つまりこの国の軍隊ですが、半数は貴族諸侯に仕える騎士を兼任し、普段は貴族諸侯の護衛等の任務に就いております。残りの半数は王家に直接仕える騎士と冒険者をしている者とに分かれます。ですので騎士団の任務とフラン様に仕えることは競合しないのです」
「でも騎士隊長をつとめるレヴァンみたいな立場なら、すでに王室もしくは他の諸侯に仕えているのではないですか?」
騎士隊長と言うくらいだから相当なお偉いさんだろうし。であればフリーの冒険者なんていう事はあり得ないって。
「ご安心ください。私は歴史上初であり唯一の冒険者騎士隊長。それこそが私レヴァン・ドロスの自慢であり、今回の救援隊長に抜擢された理由なのです」
「え? でも名字……。貴族ではないのですか?」
この世界の名字制度なんて私は知らないけど、どう考えてもこういうファンタジー世界じゃ貴族か豪商以外は名字なんて名乗らないでしょ?
「確かに普通の冒険者では役職付きになることはまれです。ましてや騎士隊長にとなりますと対外的にもよろしくないのでしょう。しかし私はとても評価して頂けたようでして、ドロス性を名乗ると供に、男爵相当の地位を頂きました」
うっそでしょ? なんかもうこの人めちゃくちゃだ。
「と言っても、貴族では無いので領地や使用人などはございませんが」
そう言ってウィンクするレヴァン。イケメンだから絵になるけど……。絵になるけどもさ。
「そうなんですか……。レヴァンは優秀なのですね。……はぁ」
もうため息しか出ないよ。
「ですので私がフラン様にお仕えする事は問題にはなりませんので、どうかご安心くださいませ」
うん。何に安心したら良いんだか。
「そうですか。解りました」
もう諦めるしか無いか。この人引き下がらなそうだし。
その後もしばらく馬車に揺られると、目の前に大きな街が見えてきた。
「あちらに見えるのがドレアノ伯爵領の領都でございます。本日はこちらに滞在する予定です。その後は二日か三日ほど有れば王都へ到着するでしょう」
ドレアノ伯爵の領都は、ボアーズ家の領都と比べると多少小さいが、交易の要衝として栄えているとのことだった。
まあボアーズ家の領都は燃えているところしか見てないから、規模とかよくわからないけどね。
「さすがに素通りとはいきませんので、フラン様にもドレアノ伯爵へご挨拶して頂く事になります。申し訳ありませんがおつきあいくださいませ」
え? 挨拶? そうか、そうだよね。仮にも侯爵令嬢だものね。挨拶もなしに素通りはマナー違反って所かな?
中身は日本の一般家庭の娘ですけど。
「解りました。たしかに素通りなんて失礼なことできませんからね」
嗚呼どんどん貴族としての外堀が埋まっている気がする。慣れない貴族令嬢としての振る舞いを、今後も続けなければいけないなんてこの先が思いやられる。
自称神様もどうせだったら村人Aとかにでもしてくれたら良かったのに。
そんなことを考えながら、私は馬車に揺られドレアノ伯爵領へと向かった。




