騎士団長
「あー疲れたー」
手合わせを終えた私はその場で座り込んだ。
結果から言うと手合わせは引き分けだった。
私が繰り出した必殺の突きはシュタフゲートに炸裂した。
と言っても彼は体を半身にし、体の軸をずらしたため彼の利き手をかすめただけだった。
逆に彼が放った攻撃は私の脇腹に直撃したが、彼が軸をずらし太刀筋を曲げて追撃したため、十分な攻撃力が乗っていなかった。
利き手に攻撃を受けた彼も、脇腹に攻撃を受けた私も剣を取り落としていた為、引き分けという形になった訳だ。
「どうもありがとうございました。なかなかの力量をお持ちでいらっしゃいました。正直最後の一撃は目を見張る物がありました」
「お褒め頂光栄です。ですがまだまだ未熟者ですので無理に褒めなくてもいいんですよ?」
「いえいえ、後半は私も本気でしたよ? 貴方のスピードについて行くのがやっとでした」
攻撃を受けた利き手を押さえながらシュタフゲートはにっこりと笑う。
終わった後そんな顔できるくらい何だからまだまだ余裕なんだろうな。日本に居たときは師範代たちみたいな化け物は除くとして初見でいなされた事は無かったんだけど。ちょっと悔しい。
「ぜひ共に剣技を磨いていきましょう」
そう言ってシュタフゲートは手を差し出してくる。
私はその手を掴み立ち上がり握手をする。
すると外野から拍手をする音が聞こえた。
「素晴らしい!」
拍手をしながら近づいてきたのは、騎士団長のエルディアだった。
「その若さでそれだけの技量とは恐れ入りました。騎士団内でもシューと渡り合えるのは私やレヴァン位のですからね」
その言葉を切っ掛けに騎士団が一気にざわめき出す。
「シュー隊長と互角だぞ?」
「騎士隊長レベルの使い手って嘘だろ?」
「あんなに若いのにどうやってあの技量を手に入れたんだ?」
騎士団の面々は私がここまでやれるとは思っていなかったようだ。
というか私今十三歳か。そりゃ驚かれても仕方ないか。
「でも騎士隊長様は手加減成されたのでしょう? でなければ私みたいな小娘なんて一瞬で地に伏してます」
私がそう答えると騎士団長は黙って顔を横に振る。
「いえ。シューは手加減なんてしてませんでしたよ? 確かに最初は様子を見ておりましたが、最後に至っては本気も本気でしたね」
なんてこった。って事は私派手に目立っちゃった? ていうか高校剣道全国優勝程度の力量で騎士隊長になれるとかこの国の騎士のレベルの方が心配になってくるよ。
「特に最後の突きは見事でしたね。シューが焦った顔を見るのは久しぶりでした」
いまいち騎士団長の言うことが信じられない私はレヴァンの方を見る。
お願い! 嘘だと言ってよ! レヴァン!
私の期待に反するようにレヴァンは驚いた顔で固まって居た。こりゃ私最大級にやらかしたっぽい。
「まあ実践では刃引きしてない本物の剣を使いますし、一騎打ちも滅多にありませんから、そう言う意味ではシューの方が圧倒的に強いでしょうけどね」
盛大にやらかした感が顔に出てたんだろう。騎士団長がフォローを入れてくれたみたい。フォローになってるかわかんないけど。
「そんな貴方を気に入りましたよ。フラン嬢」
騎士団長は満面の笑みでこちらを見てくる。うん。ここは社交辞令で返しておこう。無難にやり過ごそう。
「騎士団長に認めて頂き光栄です」
「ぜひ今後は親しき仲として交際させて頂きたい位にね」
今度は別の意味で騎士団の面々がざわつく。
何? どういうこと?
「まさか騎士団長まで気に入るとか」
「交際ってやっぱアレだよな?」
「馬鹿かお前! そりゃアレしかないだろう」
なんとなく解ってきた。もしかして私口説かれてる?
「ちょっと執務室まで来て頂いてよろしいですか? 貴方と色々お話がしたいんです」
あ、これビンゴだ。あまりに予想外な口説かれ方で最初わかんなかったけど。
「さあこちらへ」
私の手を引き執務室へ向かう騎士団長。下手に抵抗して揉め事になるのも嫌だったので、私は不本意ながら執務室で騎士団長とお話をすることになった。
私は日が暮れるまで騎士団長と色々お話させて貰った。いや、お話しさせられたが正しいね、この場合。
好きな食べ物とか、どういう音楽が好きかとか、どうして剣をとりたいと思ったのかとか。なかなかに直球な人だなぁなんて思いながら、この世界の料理とか作曲家とか全然解らないから、ふんわりとオブラートに包んで答えたり。~とかですか? って質問にそんな感じですって答えたりとか。
正直こっちに来てから一番疲れたかも知れない。精神的に。
今日は女性騎士が寝泊まりする宿舎に一泊させて頂く事になり、宿舎までレヴァンに案内して貰う事になった。
「なぜ騎士団長様は私なんかを気に入ったのでしょう」
宿舎までの道中レヴァンに聞いてみた。正直私のどこが良いのかさっぱりなんですよ。
「団長は日頃から自分の理想は強く気高い女性だって言ってましたからね。それが物理的に強い女性だとは思ってませんでしたけど」
「でも強い女性なんて騎士団にもたくさん居るでしょう? たとえば今日止まらせて頂く宿舎にいらっしゃる方々とか」
「いやぁフラン様の強さは別格でしたからねぇ。正直私だってフラン様の力量に驚いて固まってしまいましたから。これで嗜み程度って仰るんですからフラン様が本気で学ばれたらどうなるか見てみたい気もします」
まあ本当は小さい頃から剣道漬けだったから、嗜み程度では無いんだけどね。聞かれてないから黙っておくけど。
「正直領都があの惨状ですから、今は余計なことを考える余裕は無いんですけど」
「確かにフラン様の現状では色恋は難しいと思います。団長も奔放な人とはいえそこら辺の線引きはきちんとされると思いますよ?」
だと良いんだけどね。なんか嫌な予感がするんだよねー。
レヴァンと話をしていたら宿舎の入り口が見えてきた。
「あちらに見えるのが女性騎士の宿舎です」
「わかったわレヴァン。女性の宿舎ですからここからは私一人で大丈夫です。レヴァンは明日もお仕事があるでしょうから、今日はこれで」
「承知いたしました。明日は朝一で侯爵家の別邸にお送りいたします。では私は失礼させて頂きます」
そう言ってレヴァンは騎士団本部へ戻っていった。
私は一人宿舎に向かって歩き出す。まあ後数十メートルくらいだから特に危険も無いでしょう。仮にも王都だし、王宮のすぐ側だし。
「千里」
宿舎の入り口が目の前になったとき、後ろから声をかけられた。
え? どういうこと? 何でその名前を知ってるの?
慌てて振り返るとそこには一人の男が立っていた。彼はその顔に笑みを浮かべている。
「やっぱり千里だったか」
「どうして? 何故その名前を?」
私はいつでも逃げられるような体勢をとりつつ、目の前の彼に問いかけた。
(物理的に)強い女性フラン。
お付き合いありがとう御座いました。




