王国騎士団
「こちらが騎士団の本部になります」
レヴァンに案内され私は騎士団本部へ訪れた。調度品は中世ヨーロッパみたいな感じだけど、全体的な雰囲気は会社のオフィスみたいな感じだった。
ざっと見た感じ騎士団各自の机があり、書類も積まれていた。おそらくいろいろな雑務はここで行っているんだろう。
きょろきょろと辺りを見回す私に気が付いたレヴァンが私に声をかける。
「どうされました?」
「騎士団のイメージと少し違っていて驚きました」
「たしかに騎士団という名前とここの雰囲気は内部を知らないと驚くでしょうね。以外と書類のとりまとめとか色々事務仕事もあるんですよ」
レヴァンの話によると地方への騎士団の派遣や、巡回の報告書とかいった書類をまとめる仕事も沢山あるみたい。日本でも警察や自衛隊にだって書類作成とか色々あるだろうし、当然と言えば当然かな? ただ訓練して戦うだけの集団ということじゃないんだね。
「あちらの扉の奥が訓練場になっております」
レヴァンは奥の扉を指さす。その奥からは剣を合わせる音や、騎士のかけ声のような声が聞こえた。
「それでは騎士団長にご挨拶しましょう。あちらの団長室にいらっしゃいますので付いてきてください」
レヴァンに手を引かれ騎士団長の執務室へと連れて行かれる。
レヴァンはドアをノックし声をかける。
「団長、お時間よろしいでしょうか?」
「入れ」
扉を開くと中には二〇代半ば位の男性が書類に手をつけていた。
「失礼いたします」
「ああ、今回はご苦労だったなレヴァン。そちらの女性が例の侯爵令嬢様かい?」
騎士団長はそう言って私に視線を投げる。
「そうです。国王陛下の命により、しばらく騎士団預かりとなる予定です」
「フラン・ボワーズと申します。しばらくお世話になります。至らない天も多々あるかと存じますが、何卒よろしくお願いいたします」
そう自己紹介して頭を下げる。
「別にそんなにかしこまらなくて良いですよ。職務上の上下はありますが、我々は連帯感を重視しますので、気を張らくて大丈夫です」
「そうですか。それは助かります」
よかった。とりあえずずっとかしこまって気を張らずにすむのはありがたいなぁ。
「私は王国騎士団長のエルディア・グレイスと申します。こちらこそよろしくお願いいたします。あなたの件については、なにぶん急な決定のようでこちらもドタバタするでしょうが、ご理解ください」
「はい、解りました」
私はそう答えると騎士団長の事を黒歴史情報から検索してみた。
名前:エルディア・グレイス
身分:王国騎士団長
性別:男
年齢:二十八歳
登場作品:風の記憶シリーズ(やっぱり一行も書いてない)
備考:グレイス伯爵家の長男。四歳の頃、誘拐事件に遭い命からがら逃げ出すも、伯爵領から遠い地まで連れ去られたため領地まで帰れず、そのまま餓死しかける。
孤児院に拾われ一命を取り留めるが、五歳の頃その孤児院に憲兵から追われた野党が乱入し、院長を含む多数の犠牲者がでる事件に遭遇。
運良く逃げ出すことは出来たものの、幼く収入を得るすべを知らなかった彼は、八歳まで貧民街で物乞いとして過ごす。
八歳の時偶然グレイス伯爵家の関係者が彼を見つけ、彼が幼い頃、両親から渡されたブローチが切っ掛けとなり伯爵家へ戻る。
貧民街で暮らしていた経歴から、家族や使用人以外の周囲から疎まれ、陰湿ないじめを受け続けるも、貧民街での生活からこういう人たちも守れる偉大な人になりたいと、強く温厚な性格に育つ。
一五歳で成人を迎えると騎士団に入隊。
その後、一八歳の時両親の事故が不幸な事故で亡くなる。しかしその不幸を乗り越え、その類い希なる才能を開花させ、二四歳の時に騎士団長まで上り詰める。
うわー……。何この不幸てんこ盛り設定……。
確かに当時悲劇のヒーローが格好良いとか思ってた記憶があるけどさ。
それにしても悲劇設定積み重ねすぎっていうか、これ一般人の精神力なら完全に壊れちゃうよね? よくまあこんな穏やかな好青年になれたもんです。
ていうか設定見るだけで疲れてきたわ。
私が遠い目で呆然としたい気持ちを抑えつつ笑顔で居ると、騎士団長はレヴァンに話を振った。
「ところでレヴァン、令嬢への対応に関して陛下は何と?」
まあ、さっき謁見したばっかりだもんね。そのままこっちに来たわけだから伝令とか届いてる訳無いか。
「一応騎士団預かりで、訓練や簡単な仕事は手伝って頂く事になるようですが、実践に参加させる意図はないようです」
「なるほど、まあただ一人の伯爵家本家筋のご令嬢だ、当然と言えば当然だな」
団長はそう言うと背もたれに体重をかける。そしてレヴァンが口を開く。
「それともう一点。領都があの惨状でフラン様の護衛もだいぶ痛手を受けているかと思います。なので私がフラン様の護衛としてフラン様に使えようと思います」
あ、まだそんな事言いますかレヴァンさん。私すっかり油断してたよ。
「当然騎士団の仕事に支障が無いよう努力いたします」
「そうだな。それは当然としても断る理由が無い。令嬢をしっかりお守りするんだ」
「了解しました」
なんということでしょう。私が口を挟む間もなくレヴァンの従者化が決まってしまいました。油断した。
「それでは私はフラン様を連れて、騎士団本部のご案内に参ります」
「わかった。くれぐれも失礼の無いように」
「解っております」
そう言うレヴァンに手を引かれ、私は訓練場へ案内された。
いつ見ても黒歴史情報は頭を抱えたくなりますね。
泣いて良いですか?
お付き合いありがとう御座いました。