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 その晩私は夢を見た。


 気がつくと私は、この世界にやってくる切っ掛けとなった黒、赤、紫の例の部屋で、ごてごてと飾り立てられた椅子に腰掛けていた。

「よう! 目ぇ覚めたか?」

 そこにはあの自称神様が厭らしい笑顔でそこに居た。

「どうしてここに?」

「まあちょいちょいお前さん見てて、難儀しとるみたいやなーっておもっててんけど。違うか?」

 確かに難儀してるよ。全くもって思った通りに行動できないもん。

「そうですね。よくわからない世界で右も左も判らないし、と言うよりその世界の情報も全くないし、侯爵令嬢として転生されてもこっちは元々平凡な一般家庭の娘だからマナーとかわかんないし。あと十三歳からスタートなのにそれまでの記憶が無くて人間関係が全く把握できないとか、そもそも地名やら文化やら根本的な物がわからないなんて致命的だと……」

 私の中に溜まっていた数々の不安が爆発する。

 ちょっとくらい八つ当たりしても罰は当たらないでしょ? だって全く白紙の状態で始めなさいなんて無理難題誰もできないよ?

「あははは! 予想以上に苦労してるようやなぁ!」

 いや、笑い事じゃ無いでしょ? こっちは死活問題だっての!

 目の前で腹を抱えて爆笑する自称神様に軽い殺意を覚える。まあ殺すのは勘弁してあげるからとりあえず殴らせて下さい。笑いすぎて涙流すほど面白かったですか?

「なんやウチを殴りたそうな顔しとるな? おーこわい!」

 あら、顔に出てたみたい。隠すつもりも無いけど。ていうか煽ってるよね? 絶対怖がってない。

「で? こんな所に呼び出して何のようですか? どうせ元の世界に返してくれるとかそう言う話じゃ無いんでしょ?」

「せやな。話進めよか」

 そう言うと、自称神様は笑いすぎてあふれた涙を拭きながら話し始めた。

「さっきあんたが言うてた様に、あんたはこの世界に関する知識がなさ過ぎる。あんなに大事そうに抱えとった癖に中身をほとんど覚えとらんとか正直こっちが驚いたわ」

 そりゃそうでしょうよ。それ完全に勘違いだもの。

 あの恥ずかしいノート、誰の目にも触れずに完全に処分したいとは思って抱えていたけど、中身なんてほとんど覚えてる訳無いじゃん。

「そんな状態じゃ遅かれ早かれぼろが出て詰んでしまうやろ? 正直元の世界に戻れるかどうかはあんた次第やけど、手も足も出ないまま終わってまうのはさすがにウチも可哀想やと思う」

 同情なんてして欲しくないけど、確かにこのままじゃ何も手かがりないし、どうすることもできないよね。

「せやから特別に手ぇ貸したろ思てな」

 自称神様が私に向かって手をかざすと、手のひらから青白い光の球が現れ私に向かって飛んできた。

 その光の球が私にぶつかった瞬間、いろんな情報が頭に直接流れ込んできた。強制的に理解させられるというよりかはただただ情報が流れ込んでくる感覚だった。

「今あんたの中にこの世界の情報、正しくはあのノートに書かれていた内容をコピーさせて貰ったで」

 なるほど、さっきの感覚はノートに書かれていたことが流れ込んできた感覚だったのか。それにしては量が多かったけど、私そんなに細かく設定描き込んでたっけ? あれ? 情報があるはずなのに思い出せない。

「あの……情報を貰えたみたいだけど、全然思い出せないんですが……」

 おそるおそるどういうことか聞いてみる。

「そりゃそうや。今渡したのはただの情報。散らばったノートに宿ったあんたの魂を入れた訳やあらへんから、まだ完全に情報を使いこなすことはできひんはずや」

「それってあんまりい意味ないんじゃ……」

 思い出せない情報なんて持ってないのと同じじゃない。

 でも自称神様はなぜか不敵な笑みを浮かべている。

「本当に意味ないと思うか? 情報はあるんや。後は思い出す手段が有ればええ。それだけや」

「じゃあどうやって……」

「簡単に説明したる。この情報は基本的に、思い出したい事が目の前に起こってへんと思い出せへんのや。逆に言えば目の前に有ったり起こったりしてれば思い出せるっちゅー事や」

 そっか、それならまだ使い道はあるよね。

「ただし、気を付けなあかんのは、散らばった魂を回収した量に応じて開示される情報量が変わるっちゅー事や」

「思い出すタイミングによってはわからない事もある。って事?」

「せやな。ただ一度思い出したことに関しては、またそのことについて考えれば、追加情報として知ることができるやろから心配せんでええ」

 じゃあ思い出すタイミングが早すぎて情報を取りこぼすって事もないか。

「じゃあウチはもう戻るわ。用件も済んだしな~」

 なんとも軽く言ってくれるけどまだ聞きたいことが有る。

「待って! いくらノートの世界と言ったって、そのノートに散らばったノート事態の情報なんて書いてない訳だから、見つけられないかもしれないじゃない!」

 私が問い詰めると自称神様はちょっと不機嫌な顔になった。

「甘えるんやない。本来ならウチがこうやって手助けするんやって珍しいんや。ノートに書いてあった情報を与えて貰ただけありがたく思い!」

「でも……」

 そんなのあんまりだよ。確かに日本に有る私は危ない状態かもしれないし、チャンスを貰えただけ良いのかも知れないけど……。

「まあええ。ウチもあんたのことはちょっとだけ気に入ってるさかい、ヒントだけ教えたるわ」

「気に……入ってる?」

 本当なの? この自称神様の態度明らかに暇つぶしの面白い生き物を扱うように感じてるんですけど。

「気に入っとらんかったら助けんかったわ! そもそもそのまま死んで貰ても良かったんやしな」

 なんか腑に落ちないけど今は置いておこう。

「ノートを見つけたかったらノートに書かれていた事件を追いかけることや。ノートとして散らばっとるあんたの魂は、必ずノートに書かれた事に引き寄せられるはずや。それがなんなのかはウチにも判らんからいえるのはこれだけやけど、ノートに書かれた人・物・出来事を手当たり次第追いかければいずれノートにたどり着けるはずや」

 ノートに書かれた出来事? つまり作品にされることが無かった、ただただ妄想を書き連ねたエピソードに関われば良いって事?

 正直精神が耐えられる自信ないんですけど……。

「じゃあウチはもう行くで? ほなな!」

 自称神様の周りに色とりどりの光が集まり、その体を包み込んでいく。

「まあせいぜい頑張りや? ウチの暇つぶしとして呼んだんやから、長いこと楽しませてくれへんかったら大損やからな」

 そう言い残して自称神様は消えてしまった。

「や……やっぱり暇つぶしだったんかーい!」

 私の心からの叫びは中二病空間にむなしく響き、私の意識もそこでまた薄れていくのだった。


 うん。これは夢だ。誰がなんと言おうと悪い夢だ。そう思うことにしよう。

 でないとこの先やっていける自信がないもの。

過去の黒歴史情報を頭にぶち込まれたら私なら発狂しますね。


お付き合いありがとう御座いました。

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