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***************************************************


 息がうまく出来ない。粘液が喉に引っかかり、ごろごろと音を立てる。

 げ、と喉が鳴った。こみ上げる嘔気を耐え切れず、紫呉は吐いた。胃液だか何だかがびちゃびちゃと土を汚し、顔にまで跳ねる。

 咽が焼かれて痛んだ。咳きこむ度にあばら骨が軋んだ。肩口から腕にかけてひどく痺れている。

 立ち上がれない。腕に、脚に力を込めるのだが、思うように体が動かない。

 ぐらりと視界が揺れて霞み、気がつけばすぐそこに地面があった。

 己の吐き散らかした血やら何やらが目の前にあって、酸と鉄錆のにおいが鼻を突いた。

 這い、進む。立てずとも良い。まだ意識は有る。しがみつけ。手離すな。

 雪斗の血はまだ乾ききっていなかった。大丈夫だ。助かる。助ける。

 雪斗が死ぬなんて絶対に嫌だと、声の限りに叫びたかった。

 だのに喉はうまく機能せず、ただ荒く掠れた息を漏らすのみだ。

 嫌だ。彼を失うのは、絶対に嫌だ。死なせてたまるものか。

 優しい男だ。子供にも慕われている。奪う以外に能の無い己の友でいてくれる。

 なあ、奪わないでくれ。彼の命を。手を。腕を。

 大切な手なんだ。あの手で、傀儡を器用に操ってみせるんだ。

 大切なんだ。

 大切な、友人なんだ。

 これが報いだっていうのか? 罰ならば僕自身が何だって受けるから。

 だからどうか。

 指先が雪斗の腕に触れた。力を込めて痛みを追いやり、上体を起こす。

 取り出した止血帯で、雪斗の腕をきつく縛った。脈はある。生きている。

 だが傷は深い。このままではいけない。早く血をとめなければ。傷を塞がなければ。

 袖を裂き、直接傷口を圧迫する。それでもじわじわと血は滲み、止まりを見せない。

 畜生。

 どうして、友一人助けられない。

 影は目の前で足を失った。

 師は目の前で首を失った。

 また、何も出来ずに失うのか?

 否!

 断じて許すものか。

 諦めるな。無力に酔うよりも、まだ出来る事があるだろう。

 息を吸う。声はまだうまく出せない。指を咥え、高く指笛を鳴らした。

 何度も鳴らす。肺腑がじくじくと疼くが、どうでも良かった。

 日生、お前の狙いは何だ。何がしたい。その笑みの奥で、お前はいったい何を考えている。

 追えと言ったな。捕まえろと言ったな。

 良いだろう。その言葉、後悔させてやる。

 泣いて喚いて許しを乞うても、逃がしてなどやるものか。

 笑みに塗り込められたお前の思惑、必ず淵から引きずりだしてやる。



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