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 白、白、白――どこまでも果てがないような、白い空間が広がっていた。

 空なのか、床なのか、それすら判別できない。ただ、目が痛くなるほどの白が、視界を埋め尽くしている。


 気づけば、僕はその中に立っていた。

 足元の感覚はあるのに、地面がある気がしない。


 ――ここは、一体どこなんだ?


 恐怖、混乱、不安、好奇心。様々な感情が渦巻く中、空中に黒い文字浮かび上がる。


 ◆◆◆

 名前:シロ

 年齢:21

 性別:男

 種族:人間

 保有スキル: 【剣術I】【料理人Ⅰ】【苦痛耐性Ⅰ】


 スキルリロール可能 yes/no


 ◆◆◆


 ――これ、は、ステータス?


 不思議と理解できてしまう。

 これは、おそらく――僕のものだ。


 心臓が、大きく脈打つ。

 鼓動が耳の奥で反響し、思考を揺らす。

 さっきまで胸を支配していた不安も恐怖も、今はどこかへ消えていた。

 代わりにあるのは――純粋な高揚。


 リロール。

 この三つのスキルを、別のものに変えられる……?


 脳裏に浮かぶのは、これまで読んできた物語の数々。

 【剣聖】【賢者】【勇者】――そんな規格外の力。


 もし、それが手に入るのだとしたら。


 ――欲しい。


 強い力が。

 迷う理由なんて、どこにもなかった。


 僕は、震える指で「yes」を選択した。



 ――【剣術I】LOST

 ――【料理人Ⅰ】LOST

 ――【苦痛耐性Ⅰ】LOST


 ――【棒術Ⅰ】new!

 ――【生活魔法Ⅰ】new!

 ――【隠蔽Ⅰ】new!


 思った通りだ。

 リロールでスキルを変えられる。


 何度でも変えることができるのなら――強いスキルを引くのみ



 リロール三回目


 ――【盾術Ⅰ】

 ――【計算Ⅰ】

 ――【睡眠効力向上Ⅰ】

 弱い。



 リロール十四回目


 ――【弱点看破Ⅰ】

 ――【怪力Ⅰ】

 ――【付与術Ⅰ】

 まだ弱い。



 リロール五十七回目


 ――【魔力増大Ⅰ】

 ――【麻痺耐性Ⅰ】

 ――【火魔法Ⅰ】

 まだまだ弱い。




 リロール百二十一回目。



 ――



 表示が、遅れた。



 今までとは違う。


 わずかな間。ほんの一瞬のはずなのに、嫌な“間”が空く。



 ――【女神の寵愛】new!



 その文字だけが、浮かび上がった。



 ……一つだけ?



 今まで必ず三つ表示されていたはずのスキルが、今回は一つしかない。


 それに――どこか、歪んで見える。


 だが。


 ……当たり、か?


 心臓が高鳴る。

 直感が告げていた。これは“上”だと。


 だが同時に、胸の奥に小さな違和感が残る。


 ――もっと、上があるんじゃないか?


 その思考は、まるで誰かに囁かれたように、自然に浮かんできた。


 ここで止まる理由はない。


 僕は、迷いなくリロールを選択した。


 その瞬間――


 ◆ ERROR ◆

 禁忌指定スキルを確認


 危険度:超越


 ――処理を開始します


 ……は?


 転送先を再設定


 ――魔の世界


 ちょ、待――


 視界が、黒に塗り潰された。




 ――――



 視界に飛び込んできたのは、荒れ果てた荒野だった。


 ひび割れた大地。

 乾ききった風。

 生命の気配は、どこにもない。


「……っ」


 遅れて、不安と焦りが押し寄せてくる。


 だが、深く息を吸い、無理やりそれを押し殺した。


 ――落ち着け。


 こういう状況は、知っている。

 これまで読んできた“物語”と同じなら――やることは一つだ。


「ステータス……表示」


 呟いた瞬間、視界に半透明のウィンドウが浮かび上がる。


 ◆◆◆

 名前:シロ

 年齢:21

 性別:男

 種族:人間

 保有スキル:【剣聖】【運命の放浪者】【人間】

 ◆◆◆


「……はは」


 思わず、乾いた笑いが漏れた。


 さっきまで必死に引き直したスキルが、そこに並んでいる。

 現実感が、まるでない。


 その時だった。


 視界の端、少し離れた場所で何かが“揺れた”。


 紫色の光。


 それは一点に集まり、ゆっくりと膨張していく。


 嫌な予感がした。


 本能が、叫んでいる。


 ――逃げろ。


 だが、足が動かない。


 次の瞬間。


 光が、弾けた。


 轟音と共に現れたのは――


 全長五メートルを超える、異形の猪。


 黒く濁った瞳。

 地面を砕くほどの巨体。

 そして、こちらを捉え――


 低く、唸った。


「……マジかよ」


 ――刹那。


 心臓を鷲掴みにされたような、不快な予感が走る。


 考えるより先に、身体が動いていた。

 僕は全力で右へ跳ぶ。


 その直後――


 轟音。


 さっきまで自分が立っていた場所が、爆ぜた。


 遅れて振り返る。


 信じられない光景が、そこにあった。


 猪が、岩を砕いている。


 それも、自分の何倍もある巨岩を――まるで紙のように。


「一瞬で、この距離を……?」


 理解が追いつかない。


 いや、それよりも。


 視線が、合った。


 黒く濁った瞳が、こちらを捉える。


 その瞬間。


 世界が、遅くなった。


 呼吸が浅くなる。

 指先が震える。

 喉が、ひくりと引きつる。


 逃げなければいけない。


 分かっているのに、足が動かない。


 ――来る。


 猪の筋肉が、わずかに収縮する。


 次の瞬間、死ぬ。


 そう確信した――その時だった。


 低く、深く、世界の底を震わせるような音が響く。


 ――鳴き声。


 だが、それは知っているどんな生き物のものとも違った。


 空気が震え、内臓の奥まで揺さぶられる。


「……なんだ、これ……」


 思わず、顔を上げる。


 猪のことなど、頭から消えていた。


 そこにいたのは――


 空を埋め尽くす、影。


 巨大。


 そんな言葉では、まるで足りない。


 かつて博物館で見たクジラ。

 その記憶が、かろうじて“それ”に名前を与える。


 だが。


 目の前の存在は、その何百倍――いや、何千倍。


 空そのものを泳ぐ、超巨大なクジラだった。


 再び、鳴き声が響く。


 そのたびに、理解する。


 ――これは、生き物じゃない。


 災害だ。


 視線を落とす。


 さっきまで殺意を向けてきていた猪が、動かない。


 いや、動けないのだ。


 巨体が、わずかに震えている。


「……嘘だろ」


 あの化け物ですら、怯えている。


 鳴き声が、三度響いた。


 その瞬間――


 空が、割れた。


 青が砕け、落ちてくる。


 最初に落ちてきたのは、一滴の水だった。


 次の瞬間には、それが“壁”になる。


 ――海が、降ってきた。




 ――個体名:シロの死亡を確認――


 スキル【人間】が発動されます。

 残機が1消費されます。

 のこり残機:荳榊庄隱ャ荳榊庄隱ャ霆「




 ――目を覚ました。


 肺に空気が流れ込む。

 激しく咳き込みながら、僕は地面に手をついた。


「……は、ぁ……っ」


 生きている。


 確かに、さっき――死んだはずなのに。


 震える手で、周囲を見渡す。


 そして、息が止まった。


 そこにあったのは。


 あの猪の死体。


 全身が引き裂かれ、原型を留めていない。


 まるで、“何かに蹂躙された”かのような無惨な姿。


「……は?」


 理解が追いつかない。


 だが、それ以上に。


 視線を上げた先。


 森の向こうに横たわる、異様な“影”。


 それは――


 空を泳いでいたはずの、あのクジラだった。


 大地に叩きつけられ、動かない。


 死んでいる。


 ありえない。


 あれは、災害そのものだったはずだ。


 それが、死んでいる。


「……誰が?」


 呟いた瞬間。


 ぞくり、と背筋が粟立つ。


 まるで、この場に“何か”がいるかのような。


 見えない何かに、見られている感覚。


 ゆっくりと、周囲を見渡す。


 ――そこで、ようやく気づいた。


 景色が、違う。


 さっきまで広がっていたはずの荒野は、どこにもない。


 代わりにあるのは、鬱蒼とした森。


 生い茂る木々。

 湿った土の匂い。

 確かに感じる、“生命”。


「……なんだよ、これ」


 喉が、ひくりと震える。


 死んだはずなのに、生きている。

 倒せるはずのない存在が、死んでいる。

 世界そのものが、変わっている。


 何よりも、さっきまで無かったはずだ。


 あの()は。



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