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六つの運命と深淵の眼  作者: toritoma
第8章 ワイバーン討伐と国境の村
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第8章 その6

 一行が山を下り、アルダ村の入り口に姿を現した時、村はまだ昨夜の恐怖を引きずったように静まり返っていた。しかし、見張り台にいた若者が一行の姿を認めると、甲高い声で叫んだ。

「も、戻ってきたぞ! 冒険者様たちが、山から戻られた!」

 その声が引き金となり、固く閉ざされていた家々の扉が、少しずつ、おそるおそる開かれていく。人々は遠巻きに、信じられないものを見るような目で一行を見つめていた。その誰もが、彼らが生きて帰ってくるとは思っていなかったのだ。


 一行はまっすぐ村長の家へと向かった。老いた村長は、一行の姿、そして彼らがその身にまとった激戦の痕跡を見ると、言葉もなくただ震える唇で問いかけた。

「……ワイバーンは」

「ええ、二体とも、我々が仕留めました。もう、この村を襲うことはありません」

 ルードが静かに告げると、村長は杖を取り落とし、その場にへなへなと座り込んだ。目からは、とめどなく涙が溢れている。

「おお……神よ……!」


 その夜、アルダ村ではささやかな、しかし、心の底からの喜びと感謝に満ちた宴が開かれた。食料も酒も潤沢ではなかったが、村人たちは自分たちの持ちうる最高のものを持ち寄り、英雄たちをもてなした。


「あんた、本当にすごいんだな! あのデカいやつを、どうやって倒したんだ!」

 レンは、村の男たちに囲まれ、酒を注がれながら、ぶっきらぼうに答えていた。

「俺一人の力じゃない。仲間がいたからだ」

 その言葉に、男たちは一層の尊敬の眼差しを向けた。


 エイリンとフィアは、昨夜助けられた少女とその母親に礼を言われていた。

「本当に、ありがとございました。このご恩は、一生忘れません」

「気にしないで。……あなたたちが、無事でよかった」

 フィアが、普段は見せない穏やかな表情でそう言うと、少女ははにかみながら、手作りの花の冠を彼女の頭にそっと乗せた。


 ミアルヴィは、宴の輪から少し離れた場所で、黙って酒を飲んでいた。そんな彼女の元に、少女が小さな足で駆け寄ってきた。そして、何も言わずに、ぎゅっとミアルヴィの服の裾を握りしめる。

「……なんだい」

 ぶっきらぼうなミアルヴィの言葉にも、少女は離れようとせず、ただ潤んだ瞳で彼女を見上げていた。その純粋な感謝の気持ちに、ミアルヴィは居心地悪そうに顔をそむける。


 そして、宴の中心には、リアンの姿があった。彼はリュートを奏で、ワイバーンとの激闘を壮大な英雄譚として歌い上げていた。レンの鉄壁の守りを、エイリンの神がかりな一矢を、フィアの万物を揺るがす魔法を、ミアルヴィの疾風の奇襲を、そしてルードの全てを浄化する奇跡を。その歌声は、村人たちの恐怖を完全に拭い去り、明日への希望を心に灯していった。


 宴が終わり、宿屋に戻った一行は、静かに傷を癒しながら、改めて今回の事件について話し合った。

「やはり、教団の狙いは混乱そのものにあるようですね。魔物を使って人々を襲わせ、領主の不作為を招き、国への不信感を煽る……。そうやって、内側から国を腐らせていくつもりなのでしょう」

 ルードの言葉に、皆が頷く。

「だとしたら、俺たちの次の目的地、メイキルクじゃ、もっとでかいことをやらかすつもりかもしれねえな」

 レンの言葉に、一行の表情が引き締まる。


 翌朝、一行が村を出発する時、そこには村人全員が見送りに来ていた。彼らの手には、旅の足しにと食料や水が握られている。

「本当に、世話になった。この村のことは忘れない」

 村長に深々と頭を下げるルード。

「何を言うか。あんたたちは、この村の救い主だ。……これを持って行ってくれ」

 差し出されたのは、村で採れた薬草を詰めた袋だった。

「大したもんじゃないが、きっと旅の助けになるはずだ」


 別れの挨拶を終え、一行が歩き出そうとした時、あの少女がミアルヴィの元へ駆け寄ってきた。

「お姉ちゃん、これ……」

 差し出されたのは、木を削って作った、不格好な猫の彫刻だった。

「……お守り?」

「うん。きっと、守ってくれるから」

 ミアルヴィは一瞬戸惑ったが、やがて黙ってそれを受け取ると、小さな声で「……ありがとよ」と呟き、懐にしまった。


 村人たちの温かい声援を背に、一行はメイキルクへと向かう道を、決意を新たに歩き出す。混沌の辺境を越え、物語は次なる舞台へと移ろうとしていた。


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