第8章 その4
ミアルヴィはルードの回復を受け、すぐさま体勢を立て直すが、ワイバーンは依然として上空を旋回しており、攻撃の隙を見出せずにいた。
その一瞬の膠着を破ったのは、手傷を負っていない方のワイバーンだった。狙いは、後衛で詠唱を続けていたフィア。魔術師が無防備になる詠唱完了の瞬間を、的確に狙ってきたのだ。
「しまっ……!」
回避が間に合わない。急降下してきたワイバーンの強烈な体当たりがフィアの体を捉え、彼女はなすすべもなく地面に叩きつけられ、意識を失った。
それと同時に、エイリンの矢によって翼を負傷した方のワイバーンが、ついに地上へと降り立った。これ以上の飛行は困難と判断したのだろう。だが、その凶暴性は衰えていない。狙いをルードとレンに定めると、ルードには鋭い牙で、そしてレンには尾の先端にある毒針で、同時に襲いかかった。
「させん!」
レンは毒針の薙ぎ払いを盾で受け流し、見事に回避する。しかし、ルードは牙による噛みつき攻撃を避けきれなかった。再び神の加護が光を放ち、致命傷は免れる。だが、連続する攻撃によって、聖なる光は目に見えて弱まっていた。
「フィア!」
ルードは倒れたフィアの元へ手をかざす、すぐさま中回復の奇跡を行使する。光に包まれたフィアは、うっすらと目を開き、意識を取り戻した。
上空では、エイリンが孤軍奮闘していた。フィアを襲った方のワイバーンに向け、矢を放つ。矢は確かに命中したが、敵はまだ空を飛び続けており、決定打には至らない。
好機は、地上に訪れた。
「――今だ!」
ルードがフィアの治癒をしている隙を、ワイバーンは見逃さなかった。再びルードへと襲いかかろうと向き直る。その巨体が、レンに対して完全に無防備な側面を晒した。
「もらったぁっ!!」
レンは、待ち続けたその一瞬のために、全身全霊の力をバスタードソードに込めた。祝福された刃が、ワイバーンの胴体を深々と切り裂く。致命的な一撃を受けたワイバーンは、断末魔の叫びを上げる間もなく、その場に崩れ落ち、絶命した。
リアンの歌声が、なおも響き渡る。戦いは、まだ終わっていない。
残る一体。仲間を討たれた怒りからか、その動きはさらに凶暴性を増していた。狙いはミアルヴィ。憎しみを込めた急降下攻撃が、彼女に襲いかかる。
ミアルヴィは再びカウンターを試みるが、怒りによる予測不能な動きに、今度はショートソードが空を切った。そして、回避する間もなく、ワイバーンの鉤爪が彼女の体を再び打ち据える。今度こそ、ミアルヴィは受け身も取れずに地面に倒れ、気を失った。
「ミアルヴィ!」
ルードの声が響く。意識を取り戻したばかりのフィアも、ふらつきながら立ち上がった。
ルードは三度、倒れた仲間へ手をかざし、中回復の奇跡をかける。ミアルヴィは、かろうじて意識を取り戻した。
その治癒の隙を、エイリンの矢が繋ぐ。ワイバーンの翼を狙った一矢が、再びその皮膜を貫いた。敵の動きがさらに鈍る。
レンは、天を舞う最後の敵を睨みつけ、次の攻撃に備えている。リアンの歌は、仲間たちの尽きない闘志を支え続けていた。




