表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
六つの運命と深淵の眼  作者: toritoma
第4章 追跡者との死闘
41/94

第4章 その13

 長かった。

 森を抜け、丘を越え、川を渡り、山の麓を巻いて進む。時に野営し、時に山間の小さな宿で身体を休めながら、一行はひたすらに歩き続けた。

 十日弱の行程。激しい雨に打たれ、獰猛な獣の群れを退け、血豆の潰れた足の痛みに耐え――


 そしてその日。夜明けの冷たい霧が、昇り始めた太陽の光に溶けていく、その瞬間だった。

 「――見えたぞ!」

 先頭を歩いていたレンの、喜びとも驚きともつかぬ声が、乾いた風に乗って響いた。


 その指差す先、遥か彼方。山間の高台に築かれた街が、朝霧の海に浮かぶ島のように、その姿を現していた。

 「……あれが、リスターラ」

 フィアが、ほう、と感嘆の息を漏らす。街の中心にそびえる高塔の鐘楼が、朝の光を受けて鈍くきらめいていた。


 「ようやく……本当に、たどり着いたのね」

 エイリンは荷物の肩紐を握り直し、仲間たちの顔を順に見渡す。誰もが旅の疲れを色濃く滲ませてはいるが、その目には、厳しい道のりを共に歩んできた者だけが持つ、確かな自信と信頼の色が浮かんでいた。


 「さて、と。詩人としては、そろそろ新たな英雄譚の序章を考えねばならんな」

 リアンがリュートを軽くつま弾き、芝居がかった口調で歌う。

 「♪長き旅路を越えし者、彼の地に立つ時、破滅を呼ぶ風が吹く……なんてのはどうだい?」


 「縁起でもないこと言わないで」ミアルヴィが眉をひそめる。だが、彼女もまた、空を見上げていた。「……でも、確かに変ね。空の色が……澱んでる?」


 言われてみれば、上空には薄気味悪い灰色の雲が低く垂れ込め、太陽の光を鈍く遮っている。それは朝霧の残滓などでは断じてない、まるで街そのものが発しているかのような、重苦しい“気配”だった。

 「……風が、止んでいる。鳥の鳴き声も……ほとんど聞こえませんね」

 ルードが、静かに、しかし警戒を込めて言った。


 フィアの澄んだ瞳が、街の上空をじっと見つめている。

 「何かが、起きている。あるいは、これから起ころうとしているのかもしれない」

 それは、誰もが肌で感じていたことだった。

 この街には、平穏などない。新たな戦いが、彼らを待っている。


 「……行こう」

 レンが、仲間たちを振り返って言った。

 「どうやら、ゆっくり宿を探している暇はなさそうだな」

 そして、六人は再び歩き出す。灰色の空に覆われた都市、リスターラへ向かって――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ