第4章 その12
閃光が世界を白く染め上げ、一瞬、すべての音が消えた。
「ぐっ……目があっ……!」
エイリンは弓を構えたままうずくまり、ルードもまた、必死に目を細めるが、焼かれた視界は戻らない。
だが、その絶望的な暗闇の中で、いち早く動いた二つの影があった。閃光が放たれる瞬間、反射的に視線を逸らしていたリアンとミアルヴィだ。
「――見える俺たちで、決める!」
リアンが叫び、邪神官へと疾風の如く駆ける。彼のレイピアが銀の閃光を描くが、神官はそれを紙一重でかわした。
「まだだ!」
その背後から、ミアルヴィが音もなく躍り出る。
「今度こそ、逃がさない……!」
二人の完璧な連携から繰り出された斬撃が、ついに神官の脇腹を深く切り裂いた。
「ぐ、あああ……!」
神官は明らかに致命的な傷を負い、その場に崩れ落ちる。
だが、彼はまだ生きていた。憎悪に満ちた目で一行を睨みつけ、最後の力を振り絞って、何かを呟こうとした――その瞬間。
「――そこだッ!」
暗闇の中で、レンの咆哮が響き渡った。彼は光に焼かれた視界の代わりに、研ぎ澄まされた聴覚と気配だけを頼りに、渾身の力を込めてバスタードソードを振り抜いた。
その一撃は、寸分の狂いもなく、倒れた神官の体を横薙ぎに断ち割った。
「……っ……」
声にならない声が漏れ、邪神官は完全に沈黙した。
戦場に、静寂が訪れる。それが、この長い死闘の終わりを告げていた。
やがて、光の残滓が消え、仲間たちがゆっくりと視界を取り戻していく。
「……終わった、の?」
エイリンが、まだ震える手で弓を下ろしながら呟いた。
「ああ、終わったよ」
リアンの声には、深い安堵が滲んでいた。
ミアルヴィが、血に濡れた剣をしまいながら、そっとため息をつく。
「本当に、ぎりぎりだった……。あの神官、やはり禍ツ神の眷属だったのね」
「ええ」ルードが険しい表情で頷く。「あの力は、明らかに人の、そして神の理から外れたもの。仮面の男も……彼らは、深き目の徒の中でも、相当な手練れだったのでしょう」
傷つき、疲れ果てた仲間たち。しかし、その瞳に宿る光は、以前よりも強く、そして覚悟に満ちていた。
「行こう。リスターラは、まだ先だよ」
レンが、仲間たちを見渡して言った。その声には、新たな決意が宿っている。
これはもはや、ただの冒険ではない。世界の運命を左右する、真の旅が今、始まったのだ。
一行は、夕暮れの森を背に、再び前へと歩き出した。




