第4章 その10
黒鉄の騎士が放つ明確な怒り。その殺気に満ちたプレッシャーに、誰もが息を呑んだ。
「次こそ……!」
エイリンが狙いを定め、渾身の一矢を放つ。矢は騎士の兜の隙間へと一直線に飛ぶが、騎士はまるで未来でも見えているかのように、最小限の動きでそれを回避した。
「……なぜ、当らないの……」
その間にも、ルードは傷ついたレンの元へ駆け寄り、祈りを捧げる。
「主よ、彼の命を繋ぎ止めたまえ……!」
聖なる光がレンの体を包み、深い傷がわずかに癒える。彼は荒い息をつきながらも、力強く頷き、再び剣を握り直した。
「今度は、私よ!」
フィアの両手に、純白の魔力が収束する。放たれた魔弾は、ついに騎士の闇のオーラを突き破り、その胸を穿った。騎士の巨体がぐらりと傾き、荒い息遣いが聞こえる。
「効いた……! でも、まだ倒れないなんて!」
フィアの言葉を待っていたかのように、邪神官が即座に回復の呪文を唱える。
「癒えよ、我が忠実なる僕よ……」
黒い靄が騎士の傷を覆い、傾いた巨体が再び安定を取り戻す。その光景に、誰もが奥歯を噛みしめた。
「――っ!」
ミアルヴィが風のように駆け、騎士の懐へと踏み込む。だが、傷を負ったはずの騎士の動きは衰えていない。彼女の刃は、またしても紙一重で空を切った。その瞬間、騎士の大剣がリアンへと叩きつけられる。
「ぐ……うっ……!」
咄嗟に受け止めたリアンの体がくの字に折れ曲がり、たまらず後方へ吹き飛ばされた。
「リアン!」
レンが叫び、友の痛みへの怒りを力に変えて、反撃に転じる。
「お前だけは……俺が、倒すッ!」
渾身の力を込めた一撃が、騎士の胴鎧に深々と打ち込まれる。
ゴッ、という肉を断つ鈍い音と共に、確かな手応えが伝わった。騎士はついに膝を折りかけるが、大剣を杖のように突き立て、倒れるのをこらえている。
その肩口からは血が流れ、鎧は砕け、満身創痍のはずだった。それでもなお、その兜の奥で、赤黒い瞳は一行を射殺さんばかりに輝いている。
――確実に、しかし、あまりにも少しずつ。彼らは強大な敵を追い詰めていた。




