第4章 その9
「こんの、化け物が……!」
レンの焦燥に満ちた叫びが響く中、エイリンは冷静に弓を引き絞り、黒騎士の鎧の隙間、その首元を精密に狙っていた。放たれた必殺の一矢は、しかし、騎士がわずかに身をよじっただけで、硬い肩当に弾かれ、甲高い音を立てる。
「また防がれた……!」
「リアン、立てますか!」
ルードが、肩を押さえてうずくまるリアンの元へ駆け寄る。
「主よ、彼の傷に癒しの光を――」
聖なる光がリアンの傷をみるみるうちに塞ぎ、彼の顔から痛みの影が消えていく。
「ああ、助かる……! これならまだ、舞える!」
リアンは銀のレイピアを握り直し、不敵な笑みを浮かべた。
その瞬間を、フィアが見逃すはずもなかった。
「牽制する!」
彼女の放った純白の魔弾が、黒いオーラを切り裂き、騎士の胸を撃ち抜いた。
「ぐっ……!」
さすがの騎士もよろめき、その動きが一瞬止まる。だが、即座に邪神官が指を掲げた。
「穢れの霧よ、我が僕の傷を覆い隠せ――」
黒い霧が騎士の傷口にまとわりつき、瞬く間にその傷を癒してしまう。
「やっぱり、あの神官をどうにかしないとキリがないわね!」
フィアが忌々しげに呟く。
「――好機!」
だが、その一瞬の隙こそ、彼らが待ち望んでいたものだった。
ミアルヴィが地面を滑るように駆け、騎士の体勢を崩す。
「今だ、レン!」
「うおおおおおっ!」
レンが咆哮と共に、渾身の力を込めてバスタードソードを騎士の脇腹へ叩き込む。
ガギィィン! という凄まじい金属音。
確かな手応え。ついに、騎士の動きが明らかに鈍った。
「やったか……!」
沈黙を貫いていた黒鉄の騎士が、ギギギ、と錆びついた機械のような音を立てて、ゆっくりとレンに向き直る。その兜の奥で、赤黒い光が、明確な怒りの色を宿してぎらりと輝いた。
仲間たちは、確かに感じていた。絶望の闇の中に差し込んだ、反撃の確かな兆しを。




