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六つの運命と深淵の眼  作者: toritoma
第4章 追跡者との死闘
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第4章 その2

 夕暮れの黄金色の光が街を染める頃、一行は「明日の栄光亭」へと帰還した。宿屋の扉を開けば、そこはいつもと変わらぬ活気と、酒と料理の旨そうな匂いに満ちている。まるで、死闘を繰り広げてきたことなど嘘だったかのように。


 「ただいまー……っと、親父、いるか!」

 レンがカウンターの向こうに声を張ると、厨房から宿屋の主、ブルノ・ガルザがぬっと顔を出した。

 「おう、お前らか。ちょうどいいところに」

 ブルノは一行の姿を値踏みするように一瞥すると、にやりと口の端を吊り上げた。

 「話がある。……裏に来な」


 その言葉に、ミアルヴィの猫耳がぴくりと反応する。

 「……まさか、あそこを見せる気?」

 「ああ。お前も、お前たちも、もう無関係じゃいられねぇってことだ」

 ブルノの言葉の真意を測りかね、戸惑う仲間たちをよそに、ミアルヴィは小さくため息をつくと、覚悟を決めたように頷いた。


 案内されたのは、厨房の奥、古びた酒樽が並ぶ薄暗い貯蔵室。その一角に積まれた木箱をブルノが手際よく動かすと、床から黒光りする鉄のハッチが現れた。

 「こっから下は、ただの地下室じゃねぇ。ここで見聞きしたことは、墓場まで持っていけ。いいな?」

 念を押すように言うと、ブルノは重々しい音を立てて蓋を開けた。冷たく湿った空気が、下から吹き上げてくる。

 「……なんだか、冒険の続きみたいだな」

 レンがごくりと唾を飲む隣で、リアンは「こういう展開は、嫌いじゃない」と目を輝かせている。


 石の階段を下りた先は、硬質な空気が漂う通路だった。その奥、鉄の扉の前で二人の見張りが無言で佇んでいる。ブルノが扉を叩き、低い声で呟いた。

 「風のない夜に、目は開く」

 「――そして沈黙の影が、語り始める」

 見張りの一人が合言葉を返すと、重い音を立てて扉が開かれた。


 中は、さながら秘密基地といった様相だった。壁一面の棚には古文書や地図が詰め込まれ、机の上には用途不明の遺物が並び、手入れの行き届いた武器が壁に立てかけられている。

 「ここは……?」

 エイリンの問いに、ブルノは重々しく答えた。

 「“トゥームレイダーズ”オストヴァル支部。……俺たちの、アジトさ」

 その名に、ルードが息を飲む。

 「各地の遺跡を専門に探索する、伝説のトレジャーハンター集団……」

 「それが、ミアルヴィの……」

 エイリンの視線を受け、ミアルヴィは気まずそうに顔をそむけた。

 「……あんたたちには、言うつもりなかった。でも、あの遺跡で“あれ”を見てしまったからには、もう関係ないふりなんてできない」


 ブルノが咳払いを一つして、話を継いだ。

 「本部からの通達だ。お前たちが手にした石板、“目”の紋章、そして“深き目の徒”……すべてが、一本の線で繋がった」

 その言葉に、レンが怒りを滲ませた声で呟く。

 「……待ってくれ。トゥームレイダーズってのは、聞こえはいいが、要するに“盗掘屋”だろ? 遺跡を荒らして宝を盗む、ならず者の集まりだって噂だ」


 その瞬間、部屋の空気が凍りついた。

 「――誰が、盗賊ですって?」

 ミアルヴィが、猫科の獣のように低い、威嚇するような声で言った。

 「あたしたちは、トレジャーハンター。歴史に埋もれた真実を“見つけ出す”のが仕事。価値も分からないまま遺跡を破壊する連中とは違う。……あんたが言ってるのは、ただの盗人よ」

 レンは気圧されながらも、引き下がらない。

 「だが、実際にそうやって私腹を肥やしてる奴らがいるのも事実だろ!」

 「そいつらと、あたしを一緒にするな!」


 一触即発の空気を、フィアの静かな声が制した。

 「二人とも、そこまでよ。レン、あなたの言うこともわかるわ。でも、ミアルヴィは違う。私たちは、この目で彼女を見てきたはずよ」

 その言葉に、ミアルヴィは唇を噛み締め、俯いた。

 「……でも、あたしは……仲間に、そんな風に思われるのは……嫌」

 消え入りそうな声だった。

 レンは、はっとしたように目を見開くと、気まずそうに頭を掻いた。

 「……悪かった。昔、盗賊に騙されたことがあって……つい、カッとなっちまった」

 「……別に、謝ってほしいわけじゃない」

 ぶっきらぼうに返すミアルヴィだったが、ぴんと張っていた尻尾の力が、少しだけ抜けていた。


 ブルノが、やれやれと首を振りながら、場を収めるように言った。

 「まあ、落ち着け。確かに、俺たちの中にもグレーな稼業の奴はいる。だが、少なくとも今ここにいる俺たちは、お前たちと同じものを見て、同じものと戦おうとしてる。それだけは信じてもらおうか」

 その言葉に、リアンが芝居がかった仕草で胸を張った。

 「なるほど。つまり我々は、知らず知らずのうちに、闇に潜んで正義を為す、影の英雄となっていたわけだ!」

 「……調子に乗るな、アホ」

 ミアルヴィの小さな突っ込みに、ようやく部屋の空気が和らいだ。

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