第4章 その1
オストヴァルの丘に聳え立つ、白亜の教会。午後の柔らかな陽光が、その美しいステンドグラスを通り抜け、床に七色の光の絨毯を広げていた。静寂に満ちた大理石の廊下を、ルードを先頭に一行は進んでいく。
「……いかん。どうにも背筋が伸びてしまうな」
リアンが芝居がかった仕草で肩をすくめると、すかさず隣からミアルヴィの呆れたような声が飛んだ。
「あんたは普段が伸びてないだけでしょ。少しは神聖な空気に当てられて、その軽薄さを浄化してもらいなさい」
「はは、手厳しいな」
軽口を叩き合いながらも、その表情にはどこか心地よい疲労と、達成感が滲んでいる。
執務室の重厚な扉が開かれると、中には神官長スメアトンと、数名の高位神官たちが一行を待っていた。部屋の空気が、ぴんと張り詰める。
ルードが一歩前に進み出て、深々と一礼した。
「ただいま戻りました。遺跡の最奥にて、この石板を発見いたしました」
机の上にそっと置かれた石板に、神官たちの鋭い視線が突き刺さる。
「……この紋様……そして、この微弱な魔力の残滓。まさか……」
一人の神官が、息を飲む。
「ええ。おそらくは、古の“門”に関する術式の一部かと」
フィアが静かに言葉を続けた。
「それだけではありません。我々はこの石板に触れた際、過去の“記憶”を幻視しました。古代の賢者たちが、命を賭して何かを封印しようとする光景を……」
「記憶の幻視、だと……?」
スメアトンが、探るような目でフィアを見つめる。
「信じがたいこととは存じますが、事実です」
ルードの真摯な声が、静かな執務室に響いた。
「まるで、何百年も前の出来事を、その場で追体験しているかのようでした」
重い沈黙が流れる。やがて、スメアトンは大きく息をつくと、決然とした表情で一行を見据えた。
「……これは、もはや単なる遺跡調査ではない。世界の存亡に関わる、重大な事態と認識すべきだろう」
彼は神官の一人に合図を送り、ずしりと重そうな革袋を差し出した。
「今回の諸君らの功績に対し、教会より最大の感謝と敬意を表する。報酬として、一人2000Gを受け取ってほしい」
「にっ、にせん!?」
思わず素っ頓狂な声を上げたレンが、慌てて口を押さえる。その隣で、ミアルヴィがやれやれと首を振った。
ルードが代表して革袋を受け取り、深く頭を下げる。
「今後の調査においても、我々にお力添えいただけるのであれば、これほど心強いことはありません」
「無論だ」
スメアトンの力強い声が響く。
「資料、情報、人脈――教会が持つすべてを、君たちのために使おう。もはや君たちは、ただの冒険者ではない。この街と、世界の未来を背負う者たちなのだ」
その言葉の重みに、誰もが息を飲む。互いの顔を見合わせる仲間たちの瞳には、戸惑いと、それ以上の覚悟の色が浮かんでいた。
「……私たち、本当に、とんでもないことに首を突っ込んじゃったみたいね」
エイリンの呟きに、リアンが悪戯っぽく笑ってウインクした。
「なあに、ここからが本番さ。物語は、まだ始まったばかりだ」
「本当の冒険が、ね」
フィアの静かな声が、その言葉を締めくくった。彼女の瞳は、石板が示す次なる目的地を、すでに見据えているかのようだった。




