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煤まみれの騎士  作者: 美浜ヨシヒコ
第六部
219/219

219_来援

 敵が集まり切る前に戦端を開くか?

 だがセルベルは俺の射程外に居て、かつ周りを警護が固めている。


 ならば逃げながらの各個撃破か?

 しかし敵の数はかなり多い。

 そのうえ統率も悪くないようだ。数十騎の敵が、あっと言う間にこの広場へ集まってきた。


 しかも、まだ蹄の音が聞こえる。さらに集まってくると言うのか。

 唇を噛み、警戒感を深める俺に対し、しかしセルベルは不審げな顔をしていた。


「ロルフ。この蹄の音は第一騎士団だ」


「……敵方の、ではなく?」


「ああ。どうやらな」


 ティセリウス団長が頷いた直後、敵たちの背後、村の入口方面から、騎馬たちが押し寄せてきた。

 大軍だ。セルベル隊を明らかに上回っている。

 敵たちは皆、顔色を変えていた。

 対して、騎馬たちの先頭に居た顎ひげの男が号令する。


「総員、突撃!」


 ティセリウス団長の姿を認め、すぐに状況を把握したのだろう。

 第一騎士団が突っ込んでくる。

 セルベル隊にも、反動勢力から遣わされ、第一騎士団へ潜入していた者たちが含まれている。

 仮初(かりそめ)とはいえ僚友であった者たちが、相打つかたちとなった。


「我が団の旗を汚した者たちだ! 容赦はするな!」


「ティセリウスの犬ども! つけ上がりおって!」


 怒号が飛び交い、土煙が巻き上がる。

 ここは広場だが、普通の農村の広場である。

 農村の広場というものは、祭事などを催すため、それなりの広さがあるが、しかし大量の騎馬が戦う場としてはさすがに狭い。

 よって、至近で馬たちが暴れる有り様となっている。


「ティセリウス団長! こっちへ!」


 俺はティセリウス団長の肩を引き、下がらせる。何せ、兵の数で劣っても、敵は手負いの彼女を討てばそれで勝ちなのだ。

 そこへ、一騎が突っ込んで来る。

 俺はひやりとしたが、どうも様子が違った。馬上に居るのは、貴族の格好をした男だ。


「姉上!!」


「エリアス?」


 ティセリウス団長が叫んだのは、彼女の弟の名だった。

 するとこの人物が、この地の領主であるティセリウス伯爵か。


「このエリアス、援軍と共に馳せ参じました!」


 エリアスは手綱を引き絞るが、馬がきちんと止まらず、数歩を通り過ぎてしまった。

 締まらぬと言えば締まらぬが、しかし彼のおかげで助かった。


「騎士たちを導いてくれたのか。よくここが分かったな」


「この村には思い出がありますからね」


「そうか……。覚えていてくれたんだな」


 そこへ、先ほど先頭で号令を発していた、顎ひげの男が近づいてくる。

 彼は巧みな部隊運用で、味方の騎士たちを、敵とティセリウス団長の間へ押し込んでいる。

 さしあたり、彼女の安全は確保されつつあるようだ。

 戦域を見まわし、それを確認すると、彼はティセリウス団長の前で下馬した。


「ティセリウス団長麾下、第一騎士団、参上して御座います」


「ボリス……」


 見事な指揮を見る限り、幹部級なのだろう。

 厳めしい顔をした、野太い声の男であった。エルベルデ河で見た覚えがある。


「……多いな、ずいぶんと」


「ええ、団長。五百七名です。三百は向こうの援護に回っていますがね」


 ボリスが親指で指した背後、高台には、連合軍と第五騎士団の戦闘が見える。

 第一騎士団は、そちらにも兵を回してくれたようだ。

 指揮をしているのは彼らの上官たるベルマンなのだから、容易に指揮下へ入れるだろう。


「あれは?」


「俺が連れてきた連合軍です。ベルマン殿の指揮で第五騎士団と戦っています」


「第五……。そうか、なるほど」


 ダオハン族との戦いに第五騎士団が出てきたことを含め、ティセリウス団長は前後の事情を理解する。

 それから神妙な面持ちで、ボリスへ向き直った。


「なあボリス、皆の気持ちは嬉しいのだが……」


 ティセリウス団長の表情の理由はよく分かる。

 彼女と共に行くということは、王国を裏切るということである。

 だが、王国が造反者の家族を許すことは無い。

 自分に付き合わせることで部下の家族が害されるなど、彼女にとって許し得ない話だろう。


 しかし、ボリスは小さく笑みを浮かべる。

 エリアスも同様であった。


「団長。我々の半数は、家族を連れて王国から離れると決めた者たちです」


「残りの半数は?」


 問われたボリスは、にかりと笑った。

 そして馬に飛び乗る。


「無頼の独法師(ひとりぼうし)ですよ」


 彼が属しているのはそちらだろう。

 そんなボリスへ、ティセリウス団長は、ただ謝意を伝えた。


「分かった……。ありがとう」


「先頭に居た、司祭の出で立ちをした男。奴が頭ですか?」


「ああ」


「承知しました」


 言って、ボリスは馬を走らせる

 そして周囲へ命令を出した。


「このまま敵を掃討せよ! 敵将は司祭だ! 第四部隊は住民の保護と避難誘導にあたれ!」


 この号令を受け、なお騎馬が入り乱れるかたちで戦闘は続く。

 広場の外へ駆け出していく者や、それを追う者も居る。

 俺はティセリウス団長を守りつつ、戦闘からなるべく距離を取った。

 伯爵も下馬し、俺たちに付いてくる。


「ティセリウス伯爵。俺は連合軍将軍、ロルフです」


「おお、貴方が。我が領の連合参加について、後日お話をさせて下さい」


「エリアス。いま言うことでは……」


「変わり得ぬことですから、約してしまった方が良い。姉上、私が領主の責にて決めたのです」


 なるほど。

 ティセリウス団長の弟だ。


「くそ! 退け! 数で押し切られるぞ!」


 見ると、敵たちはここから逃れようとしている。

 それならそれで良い

 掃討出来ずとも、このまま村から去ってくれれば重畳(ちょうじょう)である。

 しかし敵の中には、逃げるより殺す方が好きな者も居るようだ。


「騎士でありながら神敵に与する者どもめ! ここで殺してくれる!」


 それは無理だ。

 あと、そいつは騎士じゃない。


「オラアァァーーー! 死ねやハゲが!」


 その敵はむしろ豊かな頭髪を持っていたが、返り討ちに遭って死んだ。

 それを見ていたエリアスが、こちらを振り返って言う。


「ロルフ将軍。シグ殿を遣わしてくださったこと、感謝に堪えません」


「恐縮です」


 意外なことに、シグは彼と上手くやれたらしい。

 エリアスに大逆犯への忌避感が無いのは、シグのおかげだったりするのだろうか?


「ロルフ。このまま片付くと思うか?」


「そう思いたいですが……」


 状況だけを見れば、戦いの趨勢はほぼ決している。

 だが、まだ不安要素はあるのだ。

 ティセリウス団長の意見も同じらしく、彼女は緊張の糸を切らさぬまま、周囲を警戒している。


 その時、東方向から、こちらの上空へ向けて光が上っていった。

 先ほどは『火球』(ファイアボール)を用いて狼煙を上げていたが、それとは違う。

 あれは…………まさか!


 俺の危惧を裏づけるように、ティセリウス団長が叫ぶ。


「全員、散開しろ!!」


 この広場には、敵と味方が混在している。

 だが奴らにとってそれは関係が無いのだ。

 俺は、すかさずティセリウス団長を抱き上げて走り出した。


「伯もこちらへ!」


 逃げなければならない事態であることを理解し、エリアスも走る。

 俺たちは全力で、この場から離れていった。

 そして数秒ののち、光の雨が降りそそぐ。


「ぐぁーーーっ!?」


「司祭様ぁ!?」


 神器、瑞弓(ずいきゅう)カレドホルムによる攻撃である。

 光雨はその暴威で(もっ)て、地上に居る者たちへ襲いかかった。


「こっちへ!」


 俺たち三人は、どうにか攻撃範囲から離脱する。

 だが、広場は阿鼻叫喚であった。


「がはぁっ!」


「離れろ! 全速で散開!」


 味方の騎士たちは、ティセリウス団長の指示に素早く反応し、一斉に散開している。

 無傷とはいかないが、被害は抑えたようだ。

 シグも一瞬で判断し、広場の反対側へ離脱していた。

 対して、敵たちは行動の選択に迷ってしまった。

 彼らも統制に優れているが、今は正しく動けない。指揮官であるセルベルが姿を消しているのだ。

 当然だろう。先ほど戦った騎士が言っていた。神器を使うのはセルベルだと。

 今、これを撃ってきたのが司祭セルベルなのだ。


「どっちだ! どっちに逃げ……!」


「ぐわっ!?」


 雨粒が着弾するたび、ぼしゅん、という蒸気が爆発するような音が響く。

 そしてその音と共に、すべてが穿たれていった。

 兵たちの胸に、腹に、大穴が開いていく。


『撥壁』(プロテクション)!」


 敵の魔導士が魔法障壁を張った。

 だが、二秒ともたない。

 光の粒一つ一つが凄まじい威力を持っているうえ、それが雨のように降りそそぐのだ。

 障壁はすぐに耐久値を飽和させて消え去り、魔導士は声もあげられずに死んだ。


「ぎぁっ!」


 声をあげることが出来たのは味方の騎士である。悲鳴であっても、まだ幸運かもしれない。

 だが光雨が掠めた大腿は、肉を大きく抉り取られてしまっている。


 そして広場の中央付近では、逃げ遅れた敵兵たちが絶命し、倒れていた。

 降り注ぐ光雨は、その遺体を幾つかの肉片のみ残し、蒸発させていく。


「これほどとは……!」


「ロルフ! すぐに次が来るぞ!」


 ティセリウス団長が叫ぶ。

 俺は即座に行動を定め、傍らを走り抜けようとする味方を止めた。


「すまない! 馬を貸してくれ!」


「こっちもだ!」


 俺と同時に、ティセリウス団長も馬に乗る。

 彼女には離れてもらうのが正しいが、最早そこを話し合う余裕も無い。

 このまま行くしか無いようだ。


「ボリス! 住民の避難を急がせろ! それと味方の救護だ!」


「はっ!」


 ボリスの返答を背に、俺とティセリウス団長は馬を全速で走らせる。

 向かうは東、先ほど光が打ち上げられた地点だ。

 そう遠くはない。


 幾つかの建物を隔てた先、俺たちは大きく広がる麦畑に出た。

 金色の稲穂が揺れる(さま)は美しいが、こちらでも戦闘は行われたらしく、何体かの遺体が横臥している。

 敵兵たちの遺体だ。背の高い稲穂を押し潰し、倒れ伏している。

 平穏だったはずの村に、死が溢れるかたちとなってしまった。


 そして、その麦畑に奴は居た。

 司祭セルベル。左右に二名の騎士を従えている。

 セルベルの手にあるのは、荘厳な装飾が施された一張(ひとはり)の弓。あれが瑞弓(ずいきゅう)カレドホルムだろう。

 俺たちはそこへ向け突入していく。


 黄金の麦畑で、敵将との戦いが始まった。


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書籍版『煤まみれの騎士』 最新第8巻 2026年5月15日発売!!
今回も大幅加筆修正!
Web版では出番の無かった人気キャラも登場!
どうぞよろしく!

8巻カバー


― 新着の感想 ―
狂信者こそ悪・即・斬!ですね。 宗教自体に罪はないけど、政治権力を欲しがる宗教団体はホント害悪にしかならんな。 リアルでも統一ナンタラとか創価ナンタラとかいるからなあ。しかも非課税ってのが腹が立つ。
エステルは死亡フラグが露骨すぎて疑ってくださいっていってるようなものだし流石にないだろうな 王女が生きてる間は王国を裏切ってロルフの元に降るとは思えないから、王女が死ぬ展開の方が納得出来るかな
大丈夫、ティセリウスさんは死なない。 …それにしても、読み返してみて思ったんだけど、作者さん、もしかして初めからティセリウスさんをメインヒロインにするつもりだった? そうだとするとエミリーのあの情けな…
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