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精霊の御子  作者: 壱原 棗
第5章:月の裏側
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潜入


* * *


「さ、寒い」


 定刻通り夜間にトールに到着した一行は、とりあえず船でそのまま一泊した。翌朝船を出ると想像以上の寒さに襲われた。さすが北陸の帝国だが、幸い雪はまだ積もっていなかった。

 しかし観光シーズンでもないはずの港をたくさんの人が埋め尽くしていた。


「なんか騒がしいな」


 ディアンのその声にぐるっと辺りを見回すと、兵士やその他が誘導する声が聞こえた。


「もしかしてもう儀式が始まって…」

「いや、まだそれはないよ。いくら急いでても彼女が戻ってから2週間は掛かる。ギリギリってとこかな」


 表情が曇ったリマにレムが真顔で言った。どうやら彼にもいつもの余裕は無いらしい。

 レイラは群衆を一瞥すると、そこへ向かおうとする男性に声をかけた。


「巡礼者って本部へ行けばいいのかしら?」

「あぁ。式典に出られる一般人はわずからしいよ。今回は城で行われるから」

「城、か…。入れんのか?」

「うーん…………忍び込んじゃう?」


 ややあった間の次に出てきた言葉に各々驚いた。


「はぁ!?」

「え!?レイラさん?」

「とりあえず式典までいられればいいのよ。中に入らないと何も始まらないわ」


 とんでもないことを言うものの彼女はいたって冷静だった。


「で…でも、どうやってお城に入るんですか?正面は不可能だし」

「そうよね~…………」

「…………直通路」


 全員が唸る中、一人がポツリとそう言った。


「ディアン?」

「もしかしたらだけど、城の中庭に外に通じる道があるかもしれない。残ってたらの話だけど」

「マジかよ」

「なにその裏技。どうしてキミが知ってるの?」


 まさかの裏情報に4人は驚いた。どう考えても、他国であるランティスの一介の騎士が持っていて良い情報ではない。


「昔…父親がトールに客員教官として来ていたので、オレもこっちに住んでたし」

「城に出入りしてたの?」

「まあ…」


 リマの問いに、彼が歯切れの悪い返答をした。


「とにかく、そこに行ってみましょ。頼んだわよディアン」


* * *



「で、なんでこの格好なんですか?」


 城下の隅でリマが困惑した表情で言った。


「なんで、ってあんた……一番安全に潜り込めるじゃない」

「なんで私だけ、『メイド』の制服なんですかぁ!」


 やれやれというレイラに対して、リマは自分の足首ほどまであるスカートと腰のエプロンを睨みながら掴んだ。


「リマちゃんが入っててもバウエル家のメイドですって言えばバレないよ。なにしろ似合ってるし」

「それフォローになってない!」

「潜入班はリマとディアンとレム。言い訳は『バウエル家のメイド及び護衛』よ。城の内情把握ができたら呼んでちょうだい」


怒るリマを置き去りに、レイラはそう言った。


「……つまんねぇ」

「アレフは潜入とか苦手そうじゃん。我慢しなよ」


レムがアレフの肩を叩いて制す。


「ここの石像の裏に確か……」


とディアンが城の隅に置かれていた石像の裏に回って力を加えると、ズズズと音を立てて通路が現れた。


「じゃあ行こうか」

「少し狭いね…」

「まぁ、避難用みたいだから」


 一本道の通路は、身を屈めながら進まなければ通れなかった。リマはともかく男性陣は辛い体勢だろう。中は真っ暗だったが、レイラに早急に教えられた魔術でディアンが辺りを照らしてくれる。光の精霊の子は伊達ではない。


「あ、出口じゃない?」

「リマ、走ると危ないぞ」


 先に見えた光に向かって駆け出した。強い明かりが視界を覆って思わず目を瞑る。再び目を開けると、どうやら城の内部のようで、たくさんの花が植えられている。


「うわぁ……」

「寒い地方なのにすごいね~で、ここどこ?」

「中庭だよ。早く儀式を行う場所を把握しなくちゃ」


 感嘆しているリマとレムに、ディアンは早口で言った。

 城の中は重役のような貴族から、たくさんのメイドや執事で慌ただしかったので、あまり目立たないのが幸いだった。レムを挟むようにして歩けば、メイドと護衛にしか見えない。


「教会の関係者はまずいよな~僕は来てないことになっているし」

「いろんな従者さんいるから、私ちょっと話聞いてみるね」

「頼んだよ。オレたちは人が多い西側の広間にいるから」


 リマは了解と手を降って忙しく働く人の中に消えた。


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