灼熱の地
ついに抑制器が出来上がった。以前付けていた装身具よりも細かい装飾が増えているようで、レムは防具なのにもったいない、と恐縮していた。
王都を南へ移動し、ブレイズランドに一番近い海岸の船着き場に着いた頃には、太陽が沈みかけていた。
無事に出航することができたが、日中歩き通しだったためリマたちはベッドに沈んだ。旅慣れていないのでやはり辛い。
「まだ慣れないな。足痛いや」
「お水飲みますか?」
「ありがとう。シルフィは疲れていない?」
ランプの光が揺れる薄暗い船内のなかで差し出されたコップを受けとり尋ねると、シルフィは笑顔で答えた。
「はい。心地いい風が吹いてましたから」
「風?」
いまいち伝わってこない返答に思わず聞き返したところで、外套を外していたレムが助け舟を出した。
「シルフィは風か新鮮な空気があれば元気なんだよ」
「同じ属性の魔力ってこと?」
「そうだね。きっとシルフィは竜巻の中にいてもニコニコしてるよ。んでもって、リマちゃんは渦潮だね」
彼のやや過剰な表現にリマは苦笑しながら、そのまま水を飲む。すると不思議なことに、体が軽くなった気がした冷たい水が、喉から身体中にスッと行き渡って喉を潤すだけではなく少しだけ身体が楽になるのを感じた。
「ほんとだ。体が軽くなった!」
出発までサイモンから受けていた魔術の特訓でも、リマは疲れている時ほど水に浸かっていた。意識はしていなかったが、そういうことだったのかと内心納得する。
「でもリマ、明日は大変そうですね」
「え?」
「ブレイズランドはほとんど砂漠だからだよ」
あたり一面の砂。蜃気楼で揺れる地平線。
砂漠地帯_ブレイズランドは、海底火山によりできた島である。島自体にも中心部の岩石帯に囲まれる火山活動が盛んな小規模な火山が存在しており、所々の水場にも恵まれた土地でもある。
「あ、つ、い!!」
「わっ私も、こっちの、地方には、来たことが……ありませんっ」
「ほら二人とも、もう喋らない方がいいよ」
珍しく騒ぐリマと息絶え絶えのシルフィをレムが制す。昨夜出港した船は、予定通り翌日の早朝に港についた。
レイラが日が出ていないうちに村に寄るかと聞いたらしいが、疲れのせいで誰からも返事がなかった。
「寝かせてあげたかったのよ。3人の可愛い寝顔を見てたら」
日が出てしまうと、砂漠地帯は地獄と化す。砂に足をとられ思ったより進まず、その上ジリジリと焼けつくような強い日差しが襲う。
表皮を冷やすべく身体は絶え間なく発汗するも、熱風が肌を撫でるばかりでちっとも涼しくはならない。
足元からも熱が伝わり、まるでお湯に浸かっているようだ。
「レイラさん平気なの?」
と、なるべくリマとシルフィの影になるように歩いていたレムが言った。
「あたしは何度も経験してるし慣れたわ。あなたは大丈夫?温室育ちなのに」
「僕は地属性だから暑いのは平気。でも寒いのは勘弁かな」
「ふぅ、熱風は……きついです」
村と港は少々離れていたが、幸い誰も倒れずに済んだ。
砂漠の中の村だけあり、地熱が家屋に入らないように、建物は殆ど高床式。緑が生えてる場所は涼しさを感じる。
「少し、涼しいね」
「水場があるからかな?」
「宿で休みましょうか。砂漠越えの道具とか揃えないといけないし…ん?」
宿を探して村の中を歩いていると、人が一ヵ所に集まっていた。
現地の村人であろう人々の肌は日に焼けて健康的な小麦色をしており、髪の色も赤毛が混じるような印象で遠くから見ても同じような毛色が多い。
「また起きたの?」
「あぁ、今回は倉庫だったが」
そんな話が辺りからちらほら聞こえてきた。村人同士が顔を突き合わせて不安げな表情を浮かべている。
「なんかあったみたいだね」
「煙のにおい?」
「ねぇ、宿を探してるのだけど」
あたりの困惑した空気を他所に、レイラが近くにいた村人に尋ねた。
「あぁ旅の人。今この村は危険だよ。魔術師が無差別に火を放ってるんだ」
「砂地で火なんて狂気の沙汰ね。同じ魔術師でも私だったら豪雨を降らせるわ」
「ちょっと、レイラさん」
「あんた魔術師なのか!」
「……そうよ」
止めるように呼びかけたリマだったが、その発言にその場にいたほとんどの村人が反応した。
もはや棒読みで答えたレイラだったが、人だかりの中から壮年の男性が現れた。
「魔術師殿、少し我々の話を聞いてもらいたいのだが」
「いい、けど……早く宿に案内してよ」
先程の無視及び棒読みは暑さのせいだったようで、とうとうレイラが弾けた。




