表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
匂いで番を選ぶ世界で、嫌われ者の文官様に懐いてしまいました  作者: クロミ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/14

11

 その噂を聞いたのは、昼休みの食堂だった。


「えっ、レオンさん地方行くんですか?」


 思わず聞き返した私に、向かいの猫獣人女性文官が頷く。


「なんか王城からの依頼らしいですよ〜。長期になるかもって」

「へぇ……」

「まあレオンさん仕事できるから、中央に引き抜かれても不思議じゃないですよね」


 その瞬間、胸の奥がすうっと冷えた。


(……え)


 長期?中央?引き抜き?


 つまり


(……騎士団からいなくなるの?)


 途端に食事の味が分からなくなった。先程の考えが頭の中をグルグルまわり、その後の会話もほとんど入ってこない。気づけば私は、ぼんやりスープを掻き回していた。


「副隊長?」


「えっ?」


「顔色悪くないですか?」


「だ、大丈夫です!」


 慌てて笑う。でも全然大丈夫じゃなかった。


 ◇


 それから数日、レオンさんは忙しそうだった。総務部へ行っても不在のことが多く、会えても短時間。

 しかも周囲には大量の書類が積み上がっていて、声をかけるのも申し訳ない。私は遠巻きに見る事しかできなかった。


(……忙しそう)


 寂しい。会いたい、話したい、それなのにもうすぐ会えなくなるかもしれない。そう思うたび、胸がぎゅうっと苦しくなる。

 夜もあまり眠れなかった。常に落ち着かず、そわそわする。ここ数日、耳も元気がない。今まで本人の意思など、完全に無視してもれていた鳴き声も、ピタリと止まったままだ。


 同僚の騎士たちに、


「副隊長最近どうしたんです?」


と心配される始末だった。


 でも理由なんて、自分でも分からない。いや本当は、もう気づき始めていた。


 私はレオンさんが好きなんだ。


 ◇


 出発の前日、終業時間をむかえた夕方になっても総務部の灯りは、まだ消えていなかった。


 私はその灯りをみつめて、廊下で立ち止まる。


 胸が苦しい。このまま行っちゃうの?ちゃんと話せないまま?嫌だ、それは嫌。このまま会えなくなるなんて…


 ぽろり、と涙が溢れ頬を伝う。


「っ……」


 自分でも驚く。なんで泣いてるんだろう、こんなのまるで…恋してるみたいじゃない。


(……いや、違う。みたいじゃない)


 好きなんだ。私はレオンさんが好き。顔だけじゃない、冷たそうに見えて本当は優しいところとか、一緒にいると安心するところ。声を聞くと落ち着く、匂いを嗅ぐとほっとする、触れられると嬉しい。もう会えないなんて嫌、それも全部好きだからだ。

 気づいた瞬間、もう駄目だった。抑えきれぬ気持ちを抱えて、私は勢いよく総務部の扉を開けた。


「レオンさん……っ!」


 室内にいた文官達がびっくりした顔で、一斉にこちらを見る。それから涙目の私を見て、全員すっと目を逸らした。


「えっとぉ…今日はもう帰るかぁー」

「お疲れ様でーす」

「よし帰ろ、帰ろ」

「今日は空気が重いですねぇ」

「みんなー帰るぞー」


 レオンさん以外の全員が、逃げるように消えていく。レオンだけがまだ、ぽかんと私を見ていた。


「……エレナ?」


 私はその姿を見た瞬間、たまらなくなった。


「っ……!」


 駆け寄るり勢いのまま、ぎゅっと抱きついた。レオンの身体が硬直する。でも今はそんなことを気にしてる余裕なんかない。

 顔を胸元へ押し付けた瞬間、ふわりとレオンの匂いがした。


 木の香り

 インクの匂い

 お茶の香り


 肺の奥まで深く吸い込むと、安心する。胸がじんわり温かくなる。


 あぁ、やっぱり好きだ。


 私は涙声のまま、服を掴んだ。


「やだ……」


 レオンの呼吸が止まる。


「……エレナ」


「行かないで……っ」


 その瞬間。


 ゴゴゴゴゴゴ……


 空気が震えた。今までの比でないほど、棚の書類が揺れる。窓硝子もびりびり鳴った。


 レオンの低周波だ。とても心地よい振動に安心してしまう。その事実が、また胸を熱くする。


 レオンの腕が、恐る恐る私の背へ回った。


「……それ、反則でしょう」


 掠れた声だった。


「だって……レオンさんが遠くにいっちゃうかもって!」

「俺がどれだけ我慢してきたと思ってるんです」


 ぎゅう、と抱き締められる。力強い抱擁なのに、苦しくなくむしろ落ち着く。


 その瞬間。


 ビリリ……


 私側からも低周波が返った。いつもの無意識ではない、エレナの求愛の鳴き声がレオンの鳴き声と共鳴し、空気が甘く震える。


 レオンが目を見開いた。


「……っ」


 私は涙を拭きながら、必死に言葉を絞り出した。


「好き、です……」


 言った瞬間、レオンはボンッと音がしそうなほど、真っ赤に赤面し体が微かに震えた。それからレオンはしばらく固まっていた。何秒ほどだろうか、3秒、5秒、エレナには永遠に思えるほど長い一瞬の後、レオンは観念したみたいに深く息を吐く。


「……もう離しませんからね」


 吐き捨てるような言い方だったが、声はどこまでも優しい。おもむろにレオンは、机の引き出しを開け、そこから小さな箱を取り出す。


「……え?」


 開かれた箱の中には、銀色のピアスが二つ入っていた。小さな黒曜石が揺れる、シンプルなデザインのもの。


「番の証です」


 私は目を丸くする。


「えっ」

「本当は、もっとちゃんと渡すつもりでした」

「えっ!?」

「でも…受け取ってくれますか?」


 心臓がうるさい。ドキドキドキドキ、倒れてしまいそうだ。でも嫌じゃない。むしろ嬉しくて…


「……はい」


 その瞬間


 ゴゴゴゴゴ……


 今までで一番強い振動を感じ、共鳴した波が空気を甘く揺らす。

 エレナを見つめたまま、レオンが小さく笑う。


「……可愛い」


「い、今それ言います!?」


「だって泣きながら番になってくださいって来たので」


「そ、そんな言い方してません!」


 真っ赤になる私を見て、レオンはくすくす笑ったが、ふと真顔になり思い出したように口を開く。


「ちなみに…」


「はい?」


「異動じゃありませんよ」


 私は固まった。


「……へ?」


「二週間の地方出張です」


 少しの沈黙と、その後


「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 王都中に響きそうな声が、総務部へ響き渡った。

お読みくださりありがとうございます!


「面白そう!」

「もっと読みたい!」

「応援してるよ!」


と少しでも思ってくれたら↓の★★★★★を押して応援していただけると嬉しいです!

ブックマークもお願いします!


あなたの応援が、更新の原動力になります!

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
りかいのあるそうむぶ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ