「瀕死のロピュコロス」(後)
「超回復光が駄目なのなら、あたいが合体して傷を治そう。もともとあたいは、ロピュコロスから生まれたし」
ベルベリイさんが告り始め、驚愕する者多数。
「聖女様が魔王から生まれた?! ご冗談を!」
声を枯らすゾイウートさん。
「本当です。あたいのこの杖」
と、スカートをめくって太股のベルトから短い杖を抜くベルベリイさん。
「これが、魔王ロピュコロスの武器として世に広まっている『万丈の杖』です。これで人界の世直しでもしろって、魔王に渡されました。一応、伝説杖なんですって」
「魔王に徹したくて、自分の魂の善なる部分を吐き出したら、聖女が産まれちゃったんだって」
と、ミトラ。
「ま、まま魔王ロピュコロスは、何十年も前から、世の安寧のために聖女ベルベリイ様を人界に遣わしていたと?!」
的確に驚くゾイウートさん。
「な、なんだそれは? 人界を荒らしつつ、裏では平穏に尽くしていたというのか?!」
ランランカさんが戸惑った様子を見せた。
いや、ロピュコロスは魔王歴四百年とか。
ベルベリイさんの、たった数十年の善行でチャラに出来るレベルではないだろう。
「まあ、それぞれが御心のままに動かれた。と言う事ですかね?」
ベルベリイさんの従者、大剣使いのベホラフさんが言った。
以前に彼女らの仕事を手伝った時、すでにベホラフ、オークスの両名はベルベリイさんの「正体」を知っていた。
いつ、魔王の分身である事を知らされたのかは分からないが、今は心穏やかにあるようで、何よりだ。
ベルベリイさんは、万丈の杖に「欲望を持って生きろ」と悟され、「聖女として生きる」と言う、ちょっと有り得ない『欲』に駆られたのだ。
ベルベリイさんが人間の敵に回らなかったのは、ロピュコロスが前もって「世の平穏に尽くせ」と入れ知恵してくれていたお陰である。
「女魔王になりたい」なんて願っていたら、善の塊が闇落ちしていた可能性もあったわけだ。
「えっと、ベルベリイと合体するのは断る」
と、呻くロピュコロス。
「僕はそこまでして生きたいとは思わない」
「ベルベリイ様が半分でもベルベリイ様でなくなれば、人界の大損失。我々も合体には反対です」
と、聖女の従者オークス。
「んや。合体したら、ベルベリイに身も心も乗っ取られそうな気がするから反対なんだ、ぼくは」
と、優男ロピュコロスは言った。
「あーー。気の強さで言えばロピュコロスあなた、彼女の足元にも及ばないわね」
キッパリと言ってしまうジュテリアンだった。
「何を言ってんのよ、ロピュコロス。生き残って罪滅ぼしを続けるのよ!」
ベルベリイさんはそう言って、万丈の杖を逆手に持った。
「行くわよ。合体、神聖聖女と杜撰魔王!」
地面に仰向けになっているロピュコロスの胸めがけ、振り下ろされる万丈の杖。
「うわあ、やめろ!」
ロピュコロスは叫びと同時に、土煙を上げて姿を消した。
驚く魔軍討伐隊の皆んな。
ロピュコロスの超高速移動魔法だ。
瀕死は真似だったのか?
元気だったから、ベルベリイさんの超回復光が効かなかったのか?
万丈の杖は地面を刺し、その反動に、
「痛てっ!」
と叫ぶベルベリイさん。
「くそっ、騙された。全然元気じゃないか!」
「ほらね。言った通り失敗したろう」
灰色ローブのテンジュ仙人が、自分の背後を振り返って言った。
仙人の後ろには、中腰で立つロピュコロスがいた。
仙人のローブの袖を掴んでいる。
隠れているつもりかも知れない。
「どういう事だ、ロピュコロス。魔王ドゥクェックと相打ちになって、死にかけていたのではないのか?」
黒騎士バンガウアも戸惑っていた。
「苦しいようなら、ひと思いに冥土に送ってやろうと考えていたのに」
「ドゥクェックは仙人が倒したんだよ。ええとほら、アレだ。人間ってだいたい、瀕死の生き物に無体な事はしないそうだから、倒れていたら見逃してもらえるんじゃないかと」
「見逃す?」
と、つぶやき首を傾げるベルベリイさん。
「僕を捨て置いてくれたら、後は名を捨て世も捨てて、静かに余生を送ろうと思って……」
「人間は、瀕死の生き物を捨て置いたりしないから」
と、ミトラ。
「出来るだけ介護をして、それでも死んじゃったら、地面に埋めて、重し……じゃなくて墓石を乗せたりするから」
「そ、そうなのか? 瀕死作戦は最初から失敗していたのか……?」
「ウダウダ言ってないで、元気ならあたいの仕事を助けなさいよ。世の中、大変な事だらけなんだから」
ミトラが言うと軽くて明るい内容が、ベルベリイさんが言うと悲壮感が溢れていた。
これが直訴する人徳と言うものか?
「だいたい、なんで聖女になんか成ったんだよ、ベルベリイ」
「貴方が『世の平穏に尽くせ』と言ったからでしょうがっ!」
「でも、万丈の杖が『欲望のままに生きろ』とか言ってきたはずだぜ」
「だから、聖女になって生きる事にしたのよっ!」
「げっ。聖女が欲望の果てだったのかよ?!」
「があっ。ブッ殺すぞロピュコロスッ!!」
「ベルベリイ様、落ち着いて、落ち着いてっ!」
「悪の心が芽生えかけておりますぞっ!」
ベホラフさんとオークスさんが、慌ててなだめた。
「そんで、まだ人身売買組織を追っているのかい? キリがないだろう、ベルベリイ」
「キリがあるとか無いとかの話じゃないのよ! 撲滅させるの、ボクメツ!」
「この地方の組織は、ほぼ潰しました」
と、胸を張るベホラフさん。
「しかしまた、新しい邪悪な組織が生まれるので、確かにキリがありません」
と、少し項垂れるオークスさん。
「あたいを手伝いなさい、ロピュコロス。悪いようにはしないから」
「それ、スハイガーンが僕を配下に誘った時と同じ台詞だぜ、ベルベリイ」
「つまり、『長い物には巻かれよ』って話よ」
「分かった、頑張る」
ランランカさんの視線に殺意を感じたのだろう、元・魔王ロピュコロスは聖女ベルベリイの軍門に下った。
「しかし、ロピュコロス、何という速さだ」
と感心するアマゾネスのギュネーさん。
「そうさな、逃げる気ならば、今ごろ我らの前からとっとと消え去っているだろう」
と、クカタバーウ砦の元・隊長ロウロイドさん。
「貴方、あのロピュコロスに勝ったのよね?」
と、黒騎士を突くミトラ。
「まあな。向こうの動きそうな場所を予測して拳を突き出したら、あっちからぶつかって来て倒れたんだ」
「おお。あの、目に見えぬ高速移動にもそんな弱点が……」
感心するオーガの大剣使いゴルポンド。
偏差撃ちの大切さ、偉大さを物語る話だった。
「元・魔王と聖女が合体して、変テコな生き物になっても困る。ロピュコロスは聖女の第三の従者として生き直すのが良いと思わんか? ランランカ殿」
ぼくの背中のフーコツが言った。
「仕方ないわね」
ランランカさんが折れた。
「もう、わたしも天界人ではないのだし、改心したと言うのなら、今回は魔王ロピュコロスを見逃しましょう」
再び、周りの空気を読んだ感じだった。
確かにもはや、ランランカさんは最初に見た高慢チキな女神様ではなくなったようだ。
取り巻きである機動忍者部隊の、努力の賜物なのではあるまいか?
次回「それぞれの行く先」(前)に続く
次回、第二百十七話「それぞれの行く先」前編は、近々投稿予定です。
次回、いよいよ終わりっぽいタイトルなので、自分でビックリしたのは内緒である。




