「ほぐされる仲間」(後)
宿に戻ると、陽が沈んでまだ間がないと言うのに、
「疲れた疲れた」
と言って、ミトラとジュテリアンは浴衣に着替え、お風呂と食事に行ってしまった。
二人とも、身体に巻いていた護符を入れた帯状の袋は、枕の下に隠してある。
そして、ジュテリアンは、強化アクセサリーを柄の中に隠してあると言う短剣、実は回復杖をベルトごと枕元に置いていた。
大切な物なのが丸出しだ。
普通すぎる。
枕探しの餌食である。
まあそのために、ぼくがいるのだが。
ぼくはメタルゴーレムなので、たまに身体を磨いてもらえれば、それで充分だ。
部屋は二人部屋だが、三人分の宿代を払った。
ぼくも同じ部屋に泊まるからである。
二人部屋なので、ベッドはふたつしかない。
ぼくはメタルゴーレムなので、
「眠らないはず」
とミトラが言ったのだ。
ミトラの故郷、オララ村のメタルゴーレムが、全く眠らなかったそうだ。
(でもそいつ、頭の中まで丸っと機械だよね?)
と、思わないでもなかったが。
ミトラとジュテリアンは、ほこほこした身体で、お風呂から機嫌良く帰って来た。
認識票は、個人のも含め、首から四個下げている。
タグは付けたままお風呂に行くんだ。
手には皿を持っており、キノコと野菜が乗っていた。
荒地で拾った黒キノコだ。
焼きキノコになっていた。
夜食である。
浴衣姿でパクつき始める二人。
保温効果があるという浴衣は、宿の支給品だ。
お風呂の洗濯場で洗った洗濯物は、部屋の乾燥室に干した。
ミトラが中に闇呪術の温風を発生させたので、朝までには乾くそうだ。
なお、浴衣の下は、ガッツリとしたトップレスだ。
後は寝るばかりなので、ブラは外したのだ。
下半身の方は、短パン型のショーツだ。
水玉模様だったり、横縞模様だったりするが、あまり色気はない。
お着替えは、風呂に行く前に目の前で見せて頂いたのだが、ばっきばきのミトラの腹筋と、思いのほかプヨンとしたジュテリアンの腹部の、両方に興奮してしまった哀れなぼくだった。
おふたりの、甲乙つけ難き嫋やかなる胸の膨らみ。
(くそう。ここに人間の身体があったなら)
と、心の内で歯噛みしたが、人間の身体を持って転生していたら、ミトラとの接触、ひいてはジュテリアンとの出会いもなかっただろう。
とは言え、アレコレ妄想をたくましゅうしていると、
「パレルレ、肩揉み出来る?」
と、ミトラが言ってきた。
「へ?」
と思っている間に、サブブレインが、
『御意』
と返事した。
「よかった。じゃあ、お願いね」
と、背もたれの付いた椅子を出して来て、チョコンとミトラは座った。
両肩と両の腕を、同時に揉み始めるぼく。いや、サブブレインと言うべきか。
ぼくの腕は四本あったからだ。
「お客さん、凝ってますね」
という言葉が自然と出た。
「うん。分かる? 戦闘の後は、いつもそう」
『分かる!』
とサブブレイン。
「ああ、気持ち良い。上手ね、パレルレ。オララ村のゴーレムには無い機能よ」
(うお。村の守護神に今、勝った?!)
ミトラが、
「あっ」とか、
「うひん」とか、
「おうっ」とか声を出すので、
「痛いのか? もっと軽くしようか?」
と聞いたが、
「こここここ、このままで支障ないかららあひふん!」
というミトラの返事だった。
彼女の要請に応じて、たくましい太股や足の裏、ふくらはぎなど、様々な部位をぼくはしたたかに揉みしだいた。
もみもみ施術が終わると、
「ジュテリアァンンも揉んでもらったらあ」
と、へろへろな声でミトラが言った。
「うっ。私は別にそんな、やってもらおうかな」
彼女はわずかに抵抗を見せて、ミトラと交代し椅子に座る。
椅子から立ち上がったミトラは、揺蕩うようにベッドに向かい、うつ伏せに倒れ込んで動かなくなった。
施術を始める前から、ジュテリアンは頬を桃色に染めていたが、それはミトラの一部始終を見ていたからだろう。
「あの、お手柔らかに」
と振り向いて言う美貌の僧侶を、ぼくは容赦なく揉んで捏ねてぐにぐににした。
ジュテリアンの身体も中々に凝っていた。
「あふっ」
「あんんっ」
「ぐひい」
と、ジュテリアンはミトラ以上に悶えた。
しばしの施術の後、蹌踉めいてベッドに倒れ込むジュテリアン。
「こ、これは良い。もみしだき屋の節約になる」
ヘロヘロ声で言うジュテリアン。
息が荒かった。
その横のベッドで、すでに大胆な寝相で眠ってしまっているミトラ。
(そうか、古の戦争で、このメタルゴーレムは戦いの後、兵士の疲弊した身体を解していたんだ)
と、思った。
(だとしたら、ぼくの金属体は、ガチガチの戦闘兵ではないのかも知れない)
(二人の役に立てるのだろうか?)
ぼくは少し、いや、大いに不安になった。
次回「ハイド・ヌイ・サウラー」(前)に続く
次回、第十二話「ハイド・ヌイ・サウラー」前編、後編。は、明日に投稿予定です。
お楽しみな方は、お楽しみに。
ぼくはとても楽しみにしているかも知れません。
ぼくと言えば、「ぼく」を「ばく」だの「ぽく」だの、さまざまに打ち間違っております。
都度、気がつけば直しておりますが、皆さん、優しく生ぬるい目でお読み下さい。




