「ほぐされる仲間」(前)
「痛痒い」
膝を触ろうとするスブック親方の手を取って、
「駄目駄目。まだ治療中ですわ」
と、やさしく言うジュテリアン。
ジュテリアンに手を握られて、耳を赤く染めて大人しくしているスブック。純情か?!
「はい、終了しました。一時的な治療ですけれども」
立ち上がる元・宮廷僧侶ジュテリアン。
勇ましくも神神しい。
「おう。痛みが、ほとんど無い!」
親方は立ち上がりざま、サンダルでぴょんぴょん跳んだ。
膝の腫れはだいたい引いていたが、炎症部からそんな急に痛みが消える訳がない?!
「あっ。床が、しとどに濡れている!」
驚いて甚だしい古語を操るミトラ。
床に溜まっているのは、治療で取り出した関節液だろう。
「膝に溜まっていた毒液を抜きました」
「うむ。回復院でも、これほど毒が抜けた事はなかった」
いや、関節液はもともと毒じゃ無いし。
しかし、ここは毒にしといた方が都合が良いかも。
「掛かりつけの回復院があるんですね?」
「もちろんだ」
飛び跳ねるのを止め、椅子に座る親方。
親方の素足を、タオルで拭き始めるお付きの美女ふたり。
「これは宮廷で流行っていた塗り薬の調薬表です」
(えっ? 過去形?!)
(あっ、もう宮廷を辞めてるからか?)
「これを調合してもらって下さい。布に塗り、包帯で患部を固定すれば、痛みをやわらげましょう」
「きゅ、宮廷の秘薬?!」
調薬表を受け取り、目を剥く親方。
「量が多ければ良い、と言うものでもありませんので、くれぐれも注意して下さいね、スブック様。それでは、挨拶も治療も終わりましたので、私どもはこれで失礼します」
「ああっ、ジュテリアンさん、そのう、治療費を払わねば。調薬表のお代も」
「必要ありませんわ。無理を言って護衛隊に加えてもらったのですから、もうそれだけで充分ですわ」
「あっ、ちょっと待ってくれんか」
引き留めに掛かる親方を、
「何分未熟者ゆえ、大層疲れてしまいました。
もう帰って休みとう御座います」
と振り切って、高級宿を出るジュテリアンとその一党、『蛮行の雨』。
我らの安宿へと道を歩みつつ、
「親方の膝の痛み、どうしたの? 引くのが早すぎるように思ったんだけど」
と、ぼくは疑問をジュテリアンに打つけた。
「ふ。さすが異世界人。痛みを麻痺させたのが分かったのね」
笑うジュテリアン。
「あの、膝の膨れた病は厄介だ。宮廷で沢山見てきて知っているわ。だから回復魔法でマヒさせて誤魔化す。お抱え僧侶の常套手段よ」
(なるほど、手術の時に麻酔を掛けるようなものか?)
「うんうん。大怪我の時に傷口をマヒさせといてくれると、治療の痛みに耐えやすいよね」
と、ミトラ。
「でも、なんで膝が悪いって、見ただけで分かったの?」
「ああいう達人級のおデブさんは、だいたい膝が悪いのよ。ハッタリ。お見通しのように言う宮廷僧侶のハッタリよ」
と、ジュテリアンはまた笑った。
「もちろん、攻撃の時にも患部マヒは使えるしね」
悪っぽい目になって言うジュテリアン。
「攻撃?」と、ぼく。
「敵にってこと?」とミトラ。
「ほら、傷の痛みを無くしてやると、『吾れ超人なり!』みたいな勘違いするじゃない?」
からの、
「調子に乗ってブンブン動くじゃない?」
からの、
「傷口開くじゃない?」
からの、
「臓物、出てくるじゃない?」
からの、
「隙を見てそいつを引っ張り出せるじゃない?」
「あ、もう良いです、その話」
ミトラが口を抑えてギブアップした。
次回「ほぐされる仲間」(後)に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
次回「ほぐされる仲間」後編は、午後に投稿します。
たぶん、午後5時までに。
明日は、第十ニ話「ハイド・ヌイ・サウラー」前編、後編。を投稿します。
ついに魔獣との戦いか?!
一応、シリアスな話ではありません。
ギャグ話にも、なり損ねていますが。




