「あれこれな三原則」(後)
「ロガンマ博物館には飾らせないわよ。これ、取りに行こう!」
と、憤慨のミトラ。
「まあまあ落ち着いて、ミトラ。神岩から引っこ抜かれた伝説の武器・防具って、古今東西まだひとつも無いそうじゃないの」
「うーーん。じゃあ、あたしの予備の武器にする!」
「おお。双棍棒使い。仕掛け棍棒がさらに紛れるじゃないか、ミトラ!」
「ふっふっふ。棍棒と思えば斧、斧と思えば棍棒。あたしも悪よのう」
酔いしれるミトラ。
「じゃあ、依頼の達成じゃなくて、伝説を頂きに行こう!」
と言うありがちなチーム結成のノリで、『蛮行の雨』、差し当たっての目的が決まったのであった。
神岩に刺さった伝説の武器・防具は、長剣。短剣。大剣。槍。鉤爪。鎖鎌。鎧。兜。小手などなど、多種に及ぶそうだ。
「見つかっていない伝説の武器・防具もあるはずよ。だって、『伝説の斧』が無いの、オカシイもの!」
(実は)斧使いのミトラは吠えた。
クカタバーウ砦は少し遠いので、路銀の事も考えて、
「どこかの商隊の護衛に潜り込もう!」
と言う事になった。
無論、ミトラの提案だ。
ぼくは、
「そんなにウマくゆくのかなあ」と心配した。
ジュテリアンが懇意であると言うギルドの受け付け嬢、ポニーテールのメリオーレスさんに、
「メリオーレス! 今年三度目の一生に一度のお願いですっ。クカタバーウ砦行きの商隊を紹介して! 出来れば護衛賃も上等なヤツ!!」
と、「駄目もと」で濃厚親密な嘆願をしたのだが、
「伝説の斧、引っこ抜けたら見せに来てね」
との極秘条件付きで了承された。
そして、クカタバーウ砦の隊長、ロウロイド氏とは、
「昔の討伐団仲間だ」と言うので、受け付け嬢メリオーレスさんは、クカタバーウ砦用に一筆書いてくれた。
「少しは便宜を図ってくれるかも」
との話だった。ありがたい。
やっぱり美貌と実力がモノを言うのねえ」
と、ミトラは感心していた。
いや、ミトラ。キミも美人に見える角度があるよ。
ギルドを出て、ぼくが手に入れた盾を調べてみる事になった。
木製長椅子の多い、休憩広場? の隅で発現を念じると、鮮やかな青の盾が二枚、目の前に具現化した。
円盤型の、そこそこ大きな盾だった。
盾の直径は調整出来ると言う話であったが。
ミトラが、
「ちょっと失礼」
と言って棍棒を抜き、青の盾を殴った。
シャラン! と音を立てて、角が欠ける盾。
えええ? 脆い。いや、ミトラが強いのか?
「欠けた部分、復元させて」
と言われ、「復元」を念じる。
すると、うまく復元した。
「よし。次は、二枚の盾を直角に交差させてみて」
と言われ、重なってい盾を直角になるよう移動させ、盾同士をめり込ませた。
「こうして交差させれば、円盤の隙間がなくなるから」
なるほど。◯と◯では、縁を接触させても、上下に隙間があるからか?
「下の方の隙間は?」
と、地面を指すぼく。
⬜︎と⬜︎ではないから、地面部分は特に隙間がある。
「盾は、地面にも沈むよ」
と、ミトラに言われ、念じてみると盾は地面にめり込んだ。
しかも、地面を掘り返さないで移動できた。
光の盾は、地面を素通りしているのか? しているのだろう。
無駄が大きいが、交差させれば、円盤で四角も作れるわけだ。
最初から、四角にしておけば良いような気もしたが。
それから、飛び入りを引き受けてくれたありがたい商隊が、明日の朝の出発だと言うので、商隊の親方が泊まっている高級宿屋に、とりあえず挨拶に行った。
そのでっぷりと太った商隊の親方、スブックは、成金趣味のケバい部屋で、ケバい美女を自分の両側に侍らせ、豪華なソファーに座って酒を飲んでいた。
ミトラが眉をひそめたのは、その装飾過多の派手な衣装のせいだろう。
さいわいスブック親方の視線は、ジュテリアンに釘付けになっていた。
衣服はメイドだが、実力と経験に裏打ちされた美貌と凛凛しさは、化粧では表現出来ない。
お互いの名乗りが終わった後、親方が、
「メイドに護衛が勤まるのか?」
と発言したが、ジュテリアンの気を引きたくて言ったのは丸分かりだった。
「僧侶ですから、補助する立場ですわ。ところで膝がお悪いようですが、診てもよろしいでしょうか、スブック様」
至ってソフトにジュテリアンが言った。
ナラズ者二人を相手にした時とは百八十度、口調を変えていた。
まあ、当たり前だが。
「ふむ。ギルドの話では、宮廷上がりの超特級僧侶と言う事だったな。確かに儂は膝を痛めておる。治ると言うのか?」
「治すのは第一に、ご自分の意思が大切です。でも、痛みをやわらげるのは、私ども僧侶の仕事ですわ」
「よかろう、やってみろ」
達人級肥満体スブックは、座ったまま両膝を摩った。
ジュテリアンは、はべっている美女に親方の衣装を捲らせ、膝を丸出しにさせた。
明らかに炎症を起こし、腫れ上がっている両膝を見て、驚くミトラ。
ぼくは会社の風呂で、先輩の足を見た記憶を思い出していた。
その先輩は、医者に行っては膝の水を抜いてもらっていると言う話だった。
(湿布、貼らないんだ)
と思ったが、この世界では「湿布」を貼る習慣がないのかも知れない。
古戦場を出たばかりのぼくは、僧侶の回復魔法を、この時、初めて見た。
ジュテリアンの偽装短剣、回復杖が黄金色の光を放ち、神秘的な温かい空気が辺りを包んだ。
ジュテリアンは座っているスブックの前に跪き、輝く刀身の腹を患部に当て、さらに空いた左手を翳して光線を放っている。
両側のケバい美女たちは、少し距離を空けて眺めている。
その目には、怯えが見えた。
水商売 (たぶん)の華やかな世界に棲む彼女らからしたら、ジュテリアンの行為は「悪魔の所業」に見えているのかも知れない。
「剣で治療する」
と言うのは、確かに奇異に見えるかも知れない。
しかし、偽装とはそういうものだ。
そして時には、その偽り、騙しのテクニックが我が身を守り、敵を倒したりするのだ。
と、思った。
次回「ほぐされる仲間」(前)に続く
読んで下さった方々、ありがとうございます。
次回、「ほぐされる仲間」前編、後編。は、明日の土曜日に投稿予定です。
ほなまた、明日!




