特別な平民
「來……來はいるかっ!?」
訓練所に勇ましい声が響き渡る。声のする方へ顔を向けるとこの国……真華王国の軍を指揮する隊長の慙だった。
「ん……いないのかっ來っ!!」
返事が返ってこないので再度呼びかける慙。
(どうせまた、面倒事なんだろうな)
慙からかなり離れた場所で剣を振るっている少年が肩を落とす……。そう、彼が來と呼ばれる少年だ。
「おいお前……來と呼ばれる少年を知らないか。特徴は背が低くて、小生意気そうな吊り目の男だ」
聞かれた男は「あぁそれなら」と言いながら黙々と奥で剣を振るう少年を指差し「アイツですよ」とご丁寧に慙に教えている。
來は内心チッと舌打ちする。面倒くさいことをしやがって、と心の中で悪態をつく。
「おお來……実はな」
「俺は行きません」
來は即答する。
「まだ何も言うとらんだろ」
慙は即答する來に困り果てた表情を浮かべる。
「想像付きますよ……黄泉姫様のことでしょう」
そう言いながらも、來は剣を振り続ける。上下左右に流れるように剣を振るう來。
「見事だ……流石私の息子だ」
満面の笑みでそう言い放つ慙。
「俺は弟子であってアンタの息子じゃねえよっ」
剣を振るう手を止め慙にツッコミを入れる來。
「だが、もうお前を弟子に取って7年だ。息子と言っても別に可笑しくはないだろう」
しみじみといった様子で言う慙。
「お前に育てられた覚えなんてねえよっ」
來は、これまでの事を思い出す。7年前……戦で両親を亡くした來は生き伸びる為、当時8歳でありながら人を斬り続けた。
5歳から剣術を習っていたので剣を振るう事に苦はなかった。
だが人を斬るのは初めてで、その時の感触を未だに來は覚えていた。人を殺し続けて3ヶ月……気付けば戦が終わっていた。
その時の來は体の至る所に刀傷があって、右頬にも斜めに大刀傷があった。もう生きる希望もなく、全てを諦めて地面に痛みで悲鳴を上げている体を横たわらせていると――。
「……子供か」と、男の声がした。
声のした方に顔を向けると20代半ばくらいの男が來を見下ろしている。來は痛みで軋む体を無理やり起こして、男を睨みつける。
「ハハハッ……実にいい目だ。小僧、生活する場所に当てはあるのか?」
男に問いかけられ暫し黙り込む來。
「もしないようなら、私の元へ来い。私がお前を育ててやる」
これが、來と慙が初めて出会った話――だが
「アンタに連いて行ったのが失敗だったよっ!!」
來は昔の記憶を手繰り寄せる。
慙の言葉を信じてここ……真華王国にやって来た。そして連れてこられた場所は……下町にある宿屋兼酒場だった。
「忘れもしねえよ。師匠……アンタはあの宿屋でのツケを払えなくなって困ってた所、俺を見つけて俺に全てを丸投げしやがったことをなっ!!」
來は7年前から今現在も宿屋……春菊でタダ働きをしている。
「ヌゥ……だ、だがその代わりに俺はお前に修行を付けてやったぞ」
苦し紛れの言い訳をする慙。來はその言葉に怒りで顔を真っ赤にする。
「ふざけんなっ。あれは当然の義務だし、完璧俺を殺しに掛かってたろうがっ!!」
慙との修行は修行用の木刀ではなく真剣を用いていた。
しかも寸止めなどもせずに容赦なく慙は來に斬りかかって来た。
「正直、何度死ぬかと思ったぞっ!!」
その言葉に慙は肩を竦めた。
「ふう……ま、という訳で姫様がお呼びだ。さっさと行くぞ」
と言って來の腕を掴むと引っ張り始める。
「なっ、何が『という訳で』だっ!! 第一俺は行くなんて一言も……聞けよっ、おーーーいっっっ!!!」
その場にいた全員が今の光景を目にして口々に言う……。
――平民のクセに、特別扱いを受けやがって……と。




