次なる目的地
「つまり……俺は罪人って訳か」
來が笑って手を叩く。その姿は愉快その物で現状を楽しんでいるように見える。
「仕組まれましたね……」
村長が口惜しそうに顔を歪ませる。
「あぁ、そうだな……。でもこれは予想の範疇でもあるぜ村長。これで光は真華国の民に『大義名分は我に有り』と示してみせたんだ……嘘のな」
そう、今回……空を殺した翌日に光が即位の式典を上げる……。そこまでは事前に計画されていたと思われる。だがその計画通りに行けないと思われる不穏分子の存在がいた。……それが來だ。
來は魔力はないが肉弾戦においては最強。並の兵士が相手なら、いくら魔法で肉体強化を施した所で來にとっては取るに足らない。結果として今回來は黄泉を連れて真華国から逃げ出した。
そうなる事を予想して光は來に濡れ衣を着せたのだ。空を殺したという濡れ衣を。しかもそれだけではなく、その娘である黄泉を誘拐して連れ去ったという扱い。
(こりゃ……、真華国領内全土にお触れが行き渡ってんだろうな)
來は黄泉へ目を向ける……。彼女の顔は不安に満ちていた。そこで來は肩を竦めてこういう。
「とりあえず休ませてくれ」と。
黄泉と來は村長に用意された部屋に入り、村人達が振る舞ってくれた料理に手を付けていた。
「うめぇな……。ん……、先程から食べてませんけどどうかしましたか?」
浮かない表情を浮かべている黄泉に気が付き声を掛ける來。彼女の瞳は真華国を出た頃に比べればマシになったが、依然として瞳は昏いままだ。
「私……生きてていいのかな?」
「……なっ!?」
久々に自分の意思で黄泉が口を開いた事に驚いた來だったが、言った内容に更に驚く。彼女の声は儚く聞こえた。
「なにも、なにも知らなかった……。お父様が光のお父様……、海叔父様にそんな酷い事をしていたことも。そしてあんなにお父様や私の事を……恨んでいた事も」
途中から黄泉の声が涙声になって、彼女の目から涙が雫となって頬に伝う。來はそんな彼女を見て胸を締め付ける。
「これからどうしたら良いんだろう? お父様を失い、国も追い出され、もう私の生きる意味なんて……いっそ、死んだほうが」
失意に昏れる黄泉に來は歩み寄り彼女の前に立つ。
「……?」
突然、前に立たれて戸惑う黄泉。來は頭を片手で抱えながら
「馬鹿だ馬鹿だって思ってたけど……、ここまで馬鹿だったとはな」
來のいきなりの罵倒に黄泉は顔を顰める。
「ちょっと……っ!!」
抗議をしようと口を開くが來がいきなり黄泉を抱きしめた事によって、黄泉の言いたかった事が空へと消える。
「生きてる意味がねえとか、死んだほうが良いとか言うなよっ!!」
來の言葉に黄泉は肩をピクリとさせ、息を呑む。
「アンタは……、黄泉ねえは俺にとって、生きる希望なんだよっ!!」
來は黄泉に出会ってからの事を思い返す。人を殺しまくり、ただ周りの人間を怒りの対象としてしか見ていなかった自分にいつも優しく手を差し伸べてくれた……、か弱き王女の事を。
來は今でも思っている。黄泉がいなければ自分はただ……人を斬る事だけを生き甲斐とした獣に成り下がっていただろうと。
「……だからっ、俺にとって生きる希望の黄泉ねえがっ、そんな事を言ってんじゃねえよっっっ!!!」
黄泉は気付く。抱き締められてる來の腕が震えている事に。それだけで彼が本気でそう思っている事が伝わってくる。
(そうじゃないわね……。來はいつだって)
黄泉もまた今までの來の事を思い返す。いつも小生意気に振る舞っている彼だが、基本嘘は吐かない。いつも黄泉の後ろを幼い頃からずっと付いて来てくれた弟のような存在。最初こそ喧嘩ばかりだったが、こうして分かり合える友人にまでなった。
そんな彼が元気付ける為なのか黄泉を生きる希望と言った。
「……ありがとう」
黄泉は來の背中に腕を回しキュッと優しく掴むと目を瞑る。この時ようやく彼女は心の平穏を保てるようになったのである。
暫くして來と黄泉はお互い離れると再び料理に手を付ける。
「黄泉ねえが言っていたこれからの事ですが、目的だけはしっかりしています」
黄泉は來の言葉に食べていた箸を止め耳を傾ける。
「目的は真華国を取り戻す事……」
「なっ、無理よっ!! だって……」
來の言葉を即座に否定する黄泉。その答えは当然だ。何故ならたった二人で国相手に立ち向かおうと言うのだから。それに軍に入っていたとはいえ魔力ゼロの人間と、魔力量が多く素質が有っても戦う事を一切してこなかった元王女……。そんな二人が国に勝てる訳がない。
「出来る出来ないじゃないっ……やるんだっ何年かかってもっ!!」
來の言葉にまたしても息を呑む黄泉。一体なにが彼をここまで突き動かしているのか、黄泉には全く想像がつかない。
「まず、その為にこれからの行動指針を定めていきましょう」
黄泉はただただ……、來の言葉に従う事しか出来なかった――。




