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幸せの誓い  作者: ゆうじ
12/18

集落

「…………」


 來は考えていた。真華国を追われた今、どこに行くのが一番いいか……。身を隠せられて尚かつ安全な場所。



「……そういえばこの近くに」


 以前來が任務で小さな集落に護衛任務で赴いた事を思い出す。あそこなら暫くバレずに済むかもしれない。來は黄泉に目を向ける。先程黄泉から奪い取った薔薇の簪を大事そうに抱えている。



「黄泉様……いや流石にこの呼び方はまずいか?」


 黄泉と來は国を追われた身……。そしていつ暗殺者を放ってくるか分からない現状で無闇に黄泉の事を様付けで呼ぶのはまずいと考える來。



「この近くに集落があります。そこまで頑張りましょう……黄泉ねえ」


 來の黄泉ねえという言葉に黄泉は肩をビクンと震わせる。その呼び名は來が軍に入ってから呼ばなくなってしまった呼び名だったからだ。黄泉が來の事を虚ろな瞳で捉える。



「來……私っ」


 先程までの事を思い出したのか自分の身体を両手で抱きしめる黄泉。來はそんな姿を見て悲しくなるのと同時に少し嬉しく感じていた。



(やっと……反応してくれたか)


 先程まで絶望しきっていた黄泉の瞳に光が差したように來には見えた。少しは慣れてきたのかもしれない。そして、その変化をもたらしたのが來自身の言葉でという事実に來は心の中で感嘆する。

 一方黄泉の方では來の『黄泉ねえ』という言葉に反応したのは実は、來だけではなく黄泉の想い人である光も黄泉の事を幼い頃そう呼んでいたから反応したのだ。黄泉は來にその事を話したことがない。黄泉は懐かしいと思って反応したのは確かだが、それは來ではなく光に対してだった……。



「さぁ行きましょう、黄泉ねえ」


 來は黄泉の手を取りこの林からそんな離れていないトルクという小さな集落へと向かう。途中黄泉の披露具合を見ながら適度に休憩を入れ、集落に辿り着く。着いた頃には朝日が差していた。


 

「これは、來殿では有りませぬか……」


 顔からして50から60位の男が來を見つけて歩み寄りながら話し掛けてくる。



「村長……、悪いんだがここに暫く厄介にならせてくれないか?」


 村長と呼ばれた男は來の傍にいる黄泉を見ると目を見開く。



「青髪……。まさか、真華国の第1王女、黄泉様ですかっ!!?」


 來は舌打ちする。仕方のない話だが民衆に伝わっている黄泉の特徴は青髪の長髪であること。そして平民とは違う綺麗な顔立ちをしているのだ。バレないはずがない。



「しかし、どうしてこんな所に……」


 村長が慌てふためく。



「村長、分かった。事情を説明する」


 來は村長に多少かいつまんで事実のみを説明する。



「そんな……、まさか空国王陛下がっ」


 信じられないといった様子の村長。來は無理もないと思った。空国王は民を誰よりも第1に考えていた。その為に税金を減らし民の要望に出来る限り答えようとしていた。



(だからこそ俺は……アンタに付いて行こうと思った)



「では、すぐに部屋を用意させましょう」

 

 事情を呑み込んだ村長が近くにいた若者に部屋を用意させるように指示を出す。



「悪い村長……。恩に着る」


 來は村長に向かって頭を下げる。



「お止めください。來殿には先日大変世話になりましたから」


「そうか……。(リュウ)は元気か?」


 來がそう問いかけた途端に



「來にいちゃーーーーんっっっっ!!!!」


 10歳くらいの男の子が大声を出しながらこちらへ駆け寄ってくる。そして來の胸元へと飛び込む。 



「おっと……。ははっ、どうやら元気みてぇだなっ嚠っ!!」


 そう言って來は飛び付いてきた男の子の両脇を掴むと高々と上に抱え上げる。



「……來、その子は?」


 黄泉は不思議そうに來と嚠と呼ばれた男の子を交互に見る。來は基本滅多に笑ったりしない。その來がこの嚠と呼ばれた男の子に対して無邪気な笑顔を浮かべている事を黄泉は疑問に感じたのだ。



「あぁ、黄泉ねえ……。コイツはさ俺と同じ境遇なんですよ」


 黄泉はその言葉に息を呑む。同じ境遇とは恐らく戦で家族を失ったという意味だと黄泉は推察する。



「戦で全てを失って一人でいた所を、ここの村長さんが拾ったんだ」



「ですが戦で家族を失ったせいで人とあまり積極的に関わろうとしませんでしてね。よほど辛かったのでしょう。今は目が生き生きとしてますが、最初の頃は虚無そのものでした」


 黄泉は嚠を見る。來に抱え上げられて楽しそうに笑っているこの子が戦で両親を失った……。それは昨日自分がたった一人の肉親……、空国王を失ったから、その気持ちは痛いほど理解できた。


「この村で巡回任務に当たったことがあってさ……その時に一人でいるコイツに興味があって話しかけたんだ」


 黄泉は想像する。きっと來は自分と似た所を感じたのだろう。嚠は恐らく魔力を持っているけど、子供が戦う事に慣れている兵士に勝てる訳がない。一人だけ生き残ってその心に宿るのは途轍もない怒り……。

 黄泉が來に視線を向ける。そう、かつて來がそうだったように。あの時の來は全てを失って虚無だけが残った。そしてそれを誤魔化す為に來は怒りで自分を保とうとした。当時、來を見た黄泉はそう考えた。


(來は今どういう気持ちなのかしら?)


 黄泉はふとそう思う。自分は父を失い、そして己の想い人である光との関係まで失った。だが、來の方はと黄泉は考える。來は少なからず空国王の事を慕っていた。だからその事について悲しい気持ちはあるだろう。

 そしてそれを殺した幼馴染みの光。そしてそれを手助けした、自分の育ての親であり師匠の慙に対して激しい怒りを表に出さないが、感じているのではないか? 黄泉は楽しげに笑う來を見て思う。……來は私の味方でいてくれるんだよね、と。


 ――キュウウウゥゥゥッッッ。


 可愛らしいお腹の虫の音が辺りに鳴り響く。


 その場にいた全員が音のした方へ顔を向けると顔を赤くして両手でお腹を抑えている黄泉。恥ずかしいのか顔を少し俯かせている。



「ははっ、そう言えばまだ飯も食べていませんでしたね」


 來が嚠を下に下ろしながら笑って言う。


「では、食事の用意を致しましょう」


「たた、大変だっ!!」


 大声を上げながらこちらへ走ってくる若者。


(レイ)……、どうかしたのか?」


「国王様が殺されたっ!! そしてその娘……黄泉様が連れ去られたんだっ!!」


 來は村長と顔を見合わせる。昨日の今日だというのにもう情報が出回ってるようだ。しかも……


「なんとそれをやったのは、來さんだっていう話だっ!!」


 ほんの僅かの嘘を交えて……。

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