(4)team fight
殺戮を思うままにするマンイーターの排除のため、合衆国政府の要請で作戦に加わったウォルクは、兵隊の損耗ばかり増やす中隊単位での力押しをやめ、少数精鋭による作戦への変更を進言した。
政府軍にはいろいろな思惑があったが、膠着状態に陥ったマンイーターとの戦闘を早期に終息させたい彼らは、ウォルクの提案をとりあえず受け入れた。またウォルクの指揮の不備で、より被害が拡大した時は、その責任を合衆国政府に転嫁できるという計算も働いていた。
政府軍から提出されたリストの中から、ウォルクは近接戦や夜間戦闘、銃火器、地雷などのエキスパートを選出した。そして、チームを編成して「tiger hunt」作戦を開始した。
「tiger hunt」は、マンイーターを飢えた人喰い虎に見立てた作戦名である。
ウォルクは、最近の犠牲者が民間よりも軍に多いことに注目し、マンイーターの興味の対象が、単に人を襲うより、軍隊との戦闘に移っていると仮説を立てた。しかも、数人単位で行動しているところを、闇夜に紛れて襲うやり方を好んだ。
そこで、一旦軍隊を撤収させ、その分市民の護りを手厚くした。そして、目撃情報の多い地点に少人数で展開すれば、そこを襲ってくる可能性が高かった。
ウォルクは、自身の現場への出動を懇願した。しかし、この国高官たちの合衆国への思惑も働いて、弱視の彼を危険な作戦地域に放り出すことはできないと、遠隔で指揮を取るように要請をした。
彼の身の回りの世話に同行した数名の米国人と共に、ウォルクは軍の本部に留まり、無線でチームへの指示を行うこととなった。
銃器やトラップなど、虎狩りに必要な道具が念入りに準備された。それを軍用トラックに積み込み終わると、死地に向かう兵隊たちは整列してウォルクの作戦開始の合図を待った。
日が落ちてから開始する作戦のため、進発は夕刻だった。
血の滴るような真っ赤な夕日を背に受けて、兵隊たちは指揮官に敬礼をした。
ウォルクはこの国の政府とお偉方を「ろくでなしの見本市」と心の中で罵っていた。
しかし、今彼の目の前に集結した若者たちは、市民たちを守るという純粋な使命に命を捧げようとしていた。
彼らに向かって、ウォルクは重い口を開いて語りかけた。
「諸君らが、今から赴く場所がどんなに危険な場所かは理解していると思う。そして、そこにいるのは、この世でもっとも最悪の生き物だ。例えば、長いかぎ爪を持った『ヴェロキラプトル』を想像して欲しい。そのラプトルと殺しあうところを思い浮かべるんだ。
ぶるってきたろ?だが、こんどの相手はラプトルよりもっと厄介な奴だ。少しでも逃げ腰になったら喰われるぞ。だが、君たちは、この国でも選りすぐりの兵隊だ。冷静にやるべきことをやればきっと勝てる。
私は諸君らに同行できないことがとても口惜しいし、心苦しい。しかし、各自ベストを尽くして、一人も欠けることなく帰還して欲しい。以上だ」
そして、ウォルクは姿勢を正して敬礼をした。
若い兵隊たちも、もう一度背筋を伸ばして、真っ赤な夕日を浴びたウォルクに最上級の敬礼を返した。