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トゥルー(true)  作者: 風吹(かざふ)流人(るじん)
虎狩り
6/92

(2)man earter

まともな人間には知らないことがある。


それは、人間の血肉には中毒性があることである。


一度人間を襲ったケモノは、ヒトの味を覚えるだ。


大飢饉の時、人間に飼われていた犬が飢えに耐えきれず、餓死した人間の肉を喰らった。そして、ヒトの味を覚えた彼らは、屍肉を食べ尽くしたあと、生きている人間を襲い始めた。それは、飢えた狼そのものであったと言う。


通称マンイーター、それは多くの人間を牙にかけたため、そう送り名された。


それはどこから来たか分からない。

突然、南米のとある街に姿を現し、気の向くままに殺戮を始めた。

最初は、夜の歓楽街で街のチンピラたちが襲われた。


したたかに酔った彼らが、夜の街をおぼつかないハンドルさばきで寝ぐらに向かって走っていた。

そして、夜の道の真ん中に黒い影を見た。


密林から迷い出た黒豹が徘徊していると思い、勢いに任せて轢き殺そうとした時、黒い影はライトが届く前に空に跳躍し、バンという大きな音を立てて、車の屋根の上に飛び乗った。

ベコリと沈み込むクルマの天井に、彼らは、黒豹ではない、もっと危険な生き物と遭遇したことを知った。


恐怖に駆られて助手席の一人が車のダッシュボードから拳銃を取り出し、「mother fucker!」と喚き散らしながら、弾丸を何発も天井に向かって撃ち込んだ。

やがて、車の天井からその気配は消えた。


(なんだったんだ、あれは?)


運転席と助手席の男は、すっかり酔いなど消し飛んで、無言で目と目で会話した。


だが次の瞬間、彼らは真っ黒な影が、車のボンネットの上に立ち上がるのを目撃した。そして、視界を塞がれた彼らは真っ直ぐにビルの壁に吸い込まれて行った。


車がぶつかる激しい破壊音に、近隣の住民が眠りを覚まされ、窓から通りを見た。

そこには、原型を止めないくらい破壊された車と、その車に覆いかぶさる黒い影があった。


事故処理に当たった警察官が見たのは、凄惨な光景だった。それは事故で潰れた死体ではなかった。

いや、死体はあった。

だが、いずれの死体も、首から上がもぎり取られていたのだ。

そして、もぎり取られた首を引きずっていったと思しき跡が、ずっと先まで続いていた。夥しい血の痕跡と肉の破片がところどころ散らばっていた。


捜索隊はすぐに血の道を辿った。しかし、町外れで血の跡はきれいに掻き消えていたのだ。


それは人々を一時的に恐怖の底に陥れた。

しかし、政治的腐敗、経済の破綻、組織犯罪、殺人、窃盗、人身売買が横行するこの街では、やがてすぐに人々の記憶の隅に埋もれてしまった。


だが、その生活のまどろみは、間もなく恐怖とともに破られることになる。


今度は民家が襲われたのだ。


時間は前と同じ深夜の2時。

近隣に響きわたる激しい銃声と叫び声に隣家の住人が恐れ慄いて警察に通報をした。

そして、家の中は血の海だった。家族は全て胸と首を鋭利な刃物のようなものでえぐられ絶命していた。

そして、その家の5歳になる子供だけが行方不明になった。警察は犯人が連れ去ったと推測して、捜査網を広げた。

やがて子供の消息はすぐに知れた。

片足だけになって。


マンイーター、それは黒い影としか分からない。だが、都市生活の恐ろしい脅威として、人々の生活に影を落とし始めていた。


夜の歓楽街は人通りが絶え、やがて喧騒に群がる生き物たちも姿を消した。


そして、それはいつでも、どこでも殺戮を思うがままに実行できた。


それを狩ろうとした武装警官すら犠牲者に名を連ねるに至り、ついに軍隊が動きだした。

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