(8)double suicide
「よくセンサーを見ていてくれ」
指示を飛ばしながら、ウォルクは前線の状況に耳を澄ませた。
「動きました。2番に向かっています」
「いや、待て。おかしい。足音が5番の方からも聞こえる」
「しかし、5番の方向には何も」
「2番の方はどうなっている」
「2番壕の手前20メートルで動きを止めました」
「それはおとりだ!5番!マリオ聞こえるか!地雷を点火するんだ!」
マリオの反応は早かった。すぐさま、壕に身を伏せて周囲の地雷を起爆した。
一斉に複数の地雷が破裂し、鼓膜を裂くような轟音が響いた。カメラの視界は巻き上げられた土埃で完全に塞がれた。
「マリオ無事か?」
ウォルクは状況確認を急いだ。
「問題ない」
「よし、油断するな。いつでも自動小銃を撃てるようにしておけ」
「イェッサー」
何故か、マンイーターは赤外線センサーの死角を知っていた。そして、検知されないように近づいた。
(まさか、奴め、赤外線を器用に避けたとでもいうのか?)
もしそうならば、赤外線ゴーグルの目視確認だけが頼りだった。
(だが、あの足音の距離感からすれば、奴に何らかのダメージは与えられたはずだ)
マリオは壕から頭を出して、マンイーターの進行方向と思しき場所を窺っていた。
「マリオ、カメラを赤外線モードに切り替えろ」
「イェッサー」
暗視モードで夜の闇がモノクロで写し出された。しかし、地雷が吹き飛ばして巻き上げた土埃が、まだカメラの視界を塞いでいた。
「マリオ、土埃に向かって弾を打ち込め」
マリオは無言のまま、タカカカカカカと軽い自動小銃の射撃音をさせた。
その中に混じって、かすかに肉を断つ音がした。
「ボス、手応えがあった。手榴弾を投げ込んでやる」
そう言ってマリオは腰の手榴弾のピンを外してや土埃の中に投げ込もうとした。
その刹那、彼の手榴弾を持った手を、突然土埃の中からぬっと現れた別の腕が掴んだ。
そして、マリオが反撃するより早く、手榴弾のレバーを握り込んだ彼の指が鋭い刃で斬り飛ばされた。
次の瞬間、指を失った利き手と、点火された手榴弾を眺めながら、
「くそお!」と、マリオが無念の叫びを上げた。
数秒後、手榴弾が炸裂する轟音がマイクを通してウォルクたちの耳を聾した。
「5、5番喰われました」
バイタル監視担当の悲痛な叫びが上がった。
同時にタカカカカカという自動小銃の発射音が響く。1番のマヌエル、2番のアントニオが仲間の無念を注ごうと、それぞれの壕を出て、5番壕の方向に向けて銃の斉射を始めたのだ。
「気を付けろ!奴は闇の中から突然現れるぞ!」
ウォルクはこれ以上犠牲者を増やすまいと、2人の暴走を叱りつけた。
だが、マンイーターの反撃はそれ以上行われなかった。
そして、静寂の戻った暗闇の中、足を引きずる音が遠ざかってゆくのをウォルクは聞いた。




