(9)steel woman
「オリビア・スティール少佐よ。よろしく」
薄い色のサングラスをかけたスーツの女性は、にこやかな笑顔を浮かべながら、握手を求めた。
「レフ・ウォルク少尉だ」
杖に両手を置いたまま、ウォルクは短かく答えた。
言葉使いといい、態度といい上官への礼を失していると思ったか、オリビアはわずかに顔を曇らせた。
「スティール少佐、どうか悪く取らないで欲しい。彼はこういう男なんだ。それに、目が不自由でね」
上官の大佐が、ウォルクの非礼を取りなした。
「ええ、知ってます。レフ・ウォルク少尉、ロシア系アメリカ人、そして、陸軍最強のassassin(殺し屋)。別名、闇の刃」
大佐は深くうなづき、
「我々の戦闘は物量を頼んでの力押しが主だ。だが、敵を統率する頭を先に潰せば、兵隊も、また軍需物資も損耗を抑えられる。そして、彼は敵地で、敵の司令官の暗殺を主な任務としてきたのだ。肩書きは少尉だが、実績は陸軍では群を抜いている」
口に薄く笑みを浮かべて、オリビアは、
「あなたとお会いできて光栄ですわ。ミスター、ウォルク」
だが、ウォルクはにこりともせず、
「大佐、わざわざ俺をこの国境の基地に呼び戻したのは、この少佐殿に後を引き継がせるためですか?」と言った。
大佐は、
「そんなはずはない。生死は定かでないにせよ、ターゲットに一定のダメージを与えたのだ。あの国の政府も、我々上層部も君のことは評価している」
「私が前線にいれば、兵隊たちをむざむざ殺さずに済みました」
「まあまあ、ともかくだ、君がもたらしてくれた情報は我々にとってとても意味のあるものだった。そのことについて、今からスティール少佐から説明してもらう」
オリビアは軽くうなづいて、
「こうしているのもなんですから、大佐殿も、ウォルク少尉もどうぞおかけになって」と二人に椅子を勧めた。
彼女に勧められて、大佐は近くの椅子に腰を下ろした。オリビアは、目の不自由なウォルクを介助しようと近づいたが、杖で椅子を引き寄せた彼は何の苦もなくそれに腰を下ろした。
やがてわずかだが、部屋の温度が変わった。それで、ウォルクは照明が消えたのを知った。
会議室の前面には、パソコンと接続された大型モニターが設置されていた。
オリビアは、薄手のビジネスバッグから、ほぼバッグと同等の大きさのアルミ製のパソコンを取り出した。
パソコンを開くと、照射された光がオリビアの顔を青白く浮かび上がらせた。オリビアはそこでサングラスを外し、モニターを見つめた。
「olivia・steel accept」と電子の音声が喋るのを確認したオリビアは、卓上にある端末の一つの端子を彼女のパソコンに繋ぎかえた。
「網膜認証です。我々の本部のサーバーに接続しました。ご覧ください」
そう言ってオリビアは、モニターに映し出されたフォルダを、しなやかな指のタッチで開いていった。
その中には、いくつかの動画ファイルが格納されていた。
「ミスター、ウォルク。これは先頃、あなたたちがマンイーターと呼ぶ個体と戦闘した際に、録画した映像を、私たちが画像処理したものです」
「つまり、私が司令部に送った映像の、そのなれの果てと言うわけですな」
「うふふ、そうね。簡潔に言えばそうなるわね。でも、ミスター、ウォルク。私たちには人間の目で見えないものも見ることができるのよ。あなたと同じにね」
そして、オリビアは画像の一番若い番号を再生した。
そこに映し出されたのは、トラックの投光器に浮かび上がった一人の男性だった。そして、それはとても美しい姿をしていた。




