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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十四章 第四回イベントに参加しました
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14-27 制圧を開始しました

 ギルド側とスパイ集団の戦いは、既に脱落したギルド【宴】の拠点から拡大していく。

【宴】の拠点は平原の真っ只中にあり、身を隠す場所などほとんど無い。アレク達……SNS【禁断の果実】を使ってプレイヤー達を動かす面々は、ギルド側をスパイ達が抑えている間に逃げようとしていた。


 そんな首謀者を逃さない……と言わんばかりに、ギルド側は果敢にスパイ達を攻め立てていく。

「アレクは何処だ!?」

「絶対に逃がすな!!」

「邪魔をするな、お前らっ!!」

 しかしながら、厄介なのはスパイの数の多さ。そして戦闘開始前の道連れ自爆による、ギルド側の人数の減少が影響を及ぼす。

 首謀者達を援護して恩を売れば、ポイントを稼げる……そう考えて、スパイ達はギルド側のプレイヤーを押し返していく。


 そんな中、スパイ達にとって脅威となる者達……ギルドを率いるメンバー達による制圧が、そこかしこで行われている。

「死ねぇぇっ!!」

「お断りですわ!!」

 斬り掛かるスパイの攻撃を紙一重で避け、返す刃で斬り伏せる金髪の美女。たったの一撃でスパイのHPは消し飛ばされ、地面に倒れ伏せた。


 大規模ギルド【聖光の騎士団】の幹部を務める、アリステラの攻めは更に過激さを増していく。

「卑劣、卑怯、非道!! 断じて許しませんわ!!」

 彼女の痛烈な一撃によって発生する音、刻み付けられた大きなダメージエフェクト。そのどちらも、スパイ達にとっては恐怖心を抱かせる。


 そんなアリステラを援護するのは、彼女の実兄であるセバスチャンだ。

「野郎を潰せ! 奴が消えれば、縦ロールはすぐ倒せる!」

 スパイの一人の号令に従い、スパイ達がセバスチャンに殺到する。しかし、そんな彼とスパイの間に立ちはだかるプレイヤーが居た。

「そう簡単に行くと思うな」

 大盾を構えて立つのは、クルス。今回もセバスチャンから護衛役を依頼され、それを快諾したのだった。


「くっ……このっ……!!」

 必死にクルスに攻撃を加えるスパイだが、ダメージは全く通っていない。

 そんな中、クルスが攻撃を受け止める瞬間を狙うスパイが居た。彼はクルスの脇を擦り抜け、セバスチャンに向けて接近する。

「【クイックステップ】!!」

 武技を発動し、急加速。そうしてセバスチャンをダウンさせ、クルスに迫られる前に倒す。そんな魂胆だ。


 スパイのそんな目論見を、見抜けないセバスチャンではない。

「あぁ、申し上げておりませんでしたが……」

 セバスチャンは迫るスパイに向けて、痛烈な蹴りを繰り出す。

「な……っ!?」

「私、接近戦は得意でございまして」


 彼がアリステラの支援に専念するのは、それが効率的だから。あと、アリステラがグイグイ前に出るタイプだからである。

 そもそも、スパイは見通しが甘いと言わざるを得ない。妹抜きでは戦えないなどというプレイヤーが、大規模ギルドの幹部になれるはずが無いのだ。


 そんなセバスチャンの背後から、一人のスパイが短剣を手に駆け寄る。短剣には≪パラライズポーション≫が仕込まれており、刺せばほぼ確実に効果が発動する。


――乱戦の時は、背中に注意しないとなぁ……!!


 故にその口元には、セバスチャンを落とせるという確信の笑みが浮かんでいた。その瞬間、セバスチャンと彼の間に滑り込む様に立ちはだかったのは一人の美女だった。

「行きます……【一閃】!!」

 擦れ違い様に放たれる【一閃】は、剣道の技である”抜き胴”そのもの。その姿勢もしっかりと安定しており、彼女が剣道に精通する事が窺い知れた。


 クリティカルが発動し、HPが枯渇する寸前まで減少したスパイ。戦闘不能になって堪るかと、必死にアバターに力を籠める。

「この……っ!!」

 クリティカルによる一瞬の硬直から復帰し、金髪の一部が青髪のメッシュになっている美女に迫ろうと足を踏み出した、その瞬間。

「はっ!!」

 鋭い踏み込みからの、刀の柄による打撃。”柄当て”と呼ばれる技で、彼女はスパイの動きを止めてみせた。


「【スパイラルショット】!!」

 動きを止められたスパイの側面から、矢による攻撃が叩き込まれる。その衝撃に吹き飛ばされながら、スパイのHPはゼロに達した。

「要らん世話だったかな、ホープさん?」

 彼女を助けるべく、クロスボウでトドメを刺したのはヴェインだった。そんな彼の言葉に、美女……ホープは首を横に振る。

「いいえ。御助力に感謝します、ヴェインさん。さぁ、行きましょうか」

「だね。まだまだ、敵は多い。油断せず行こうか」

 ホープの返答に満足そうな笑みを浮かべて頷くと、ヴェインは戦闘中のスパイに視線を向けて駆け出した。


************************************************************


 一方エレナも、この場から逃れるべく抵抗を続けていた。彼女は元より武闘派のプレイヤーであり、戦闘の立ち回りについては【森羅万象】でも五本の指に入る人物だ。

「く……っ!! 強えぇ……!!」

「止めろ!! エレナさん……いや、スパイのエレナを止めるんだ!!」

 迫り来るプレイヤーの攻撃を的確に捌き、鋭い細剣の攻撃で返り討ちにするエレナ。仲間だと思っていた頃は頼り甲斐があると思っていたが、今となっては逃がしてはならない敵である。

 そして彼女を逃がそうと、身体を張るスパイ達。優先すべき攻撃目標は、ギルドの幹部達だ。


「邪魔だ、どけぇっ!!」

 大剣を大きく薙ぎ払うオリガだが、彼を囲んでいるスパイの数もまた多い。ここまでは鍛え上げたステータスとスキルでスパイを退けていたが、その殲滅力の高さを脅威と判断したスパイ達に目を付けられた。

 そんなオリガを追い詰める様に指示を出すのは、元・身内である。

「オリガは魔法耐性がそこまで高くないわ! 魔法で攻めるのよ!」

 そう声を上げるのは、【森羅万象】に潜入していたスパイであるヘレナだ。


 ヘレナの提案に、魔法職のスパイ達はオリガを標的にして詠唱を開始する。

 オリガも自分の有利・不利は熟知しており、立ち回り方でそれを切り抜けて来た。しかしこの乱戦にあっては、立ち回りも難易度が上がる。


――くそっ……シンラさんが側にいりゃあ、的確な指示が飛んで来るんだけどなぁ……!!


 その瞬間だった。

「【サンダーフォール】」

 空から落ちる、一筋の稲光。それが魔法職スパイ達の中心に落ち、その身体アバターを駆け巡る。

「ぬぉぉっ!?」

「こ、この……っ!!」

 HPが枯渇して、同時に倒れるスパイ達。その落雷を呼び寄せたのは、黒髪の女性だ。


「ヴェネさん!!」

 オリガが助太刀してくれたギルド仲間に声を掛けると、彼女は微かに笑みを浮かべて頷いてみせた。

「私に近付くプレイヤーを、排除して頂けますか? その代わり、後衛職には私が対応します」

 冷静に、淡々と提案するヴェネ。そんな彼女の普段通りの様子に、オリガは不思議と心強さを感じる。

「そりゃあ俺の得意分野だ、任せてくれ!」

 仲間との連携によって、自分の長所が発揮される。それを理解しているオリガは、即答してヴェネを守る立ち回り方に移行していった。


……


「これは中々に面倒だな……っと!!」

 そう言いながら、愛用の魔剣を振るう銀髪美女。彼女の剣がスパイを斬り付けると同時に、彼女のHPが回復する。

 魔剣≪エッジ・オブ・プレデター≫を駆使して戦う、【森羅万象】のサブマスター・クロード。彼女の剣筋は、無慈悲にして的確。剣術道場で学んだ技巧を駆使して、スパイ達を斬り伏せていく。


 そんな彼女が護衛するようにしているのは、【森羅万象】のギルドマスターを務めるシンラだ。

 彼女はアイテムを投擲しながら、迫るスパイの足を止めていく。

「まずはシンラを狙え! ろくに戦えない生産職だ、俺達の敵じゃない!」

「ならクロードを足止めしとけ! 俺がる!」

 クロードの相手を他のスパイに任せ、シンラに向けて駆け出すのは【天下無敵】のスパイであるゴーズだった。


 迫るゴーズを横目で見つつ、シンラは口元に笑みを浮かべる……不敵な笑みを。

「あら、デートのお誘いかしら~? それなら……」

 シンラはポーチから取り出した物体を、ゴーズに向けて投擲。それがゴーズを通り過ぎて、地面で割れた。

「何処を狙ってる、マヌケ!!」

 そんな罵声を浴びせるゴーズは、内心で「所詮は生産職か」と嘲笑う。それと同時に、自分の手でシンラを仕留められると確信した。


 しかし、そんな彼に向けてシンラは不敵な笑みを浮かべた。

「ろくに戦えないのは、事実だけどね~」

 そう言いながら、シンラはゴーズに向けて瓶を投げた。

「舐めんな……っ!! ぐおぉ……っ!?」

 投擲された瓶を剣で叩き落した瞬間、ゴーズとその付近に居たスパイ達が爆炎に呑み込まれた。

「ぐ……っ!? 何だ、今のは……!?」

 爆発の衝撃でダウンしたゴーズ達に向けて、シンラはまたも何かを投げた。それが地面に落ちて割れると、そこから粉末が撒き散らされる。


「何だ、この粉は……!?」

 慌てて立ち上がろうとするスパイだが、シンラのダメ押しの一投の方が早い。再び放り投げられた瓶が、地面に落ちるその瞬間。

「ただの乾煎りした小麦粉よ~?」

 そうして、瓶が地面に落ちて割れる。瞬間、ゴーズ達を呑み込む爆発がまたも発生した。


 シンラの攻撃方法は、粉塵爆発を利用したものだ。小麦粉を舞わせ、そこに火種を放り込んで爆発させるというものである。

 その効果範囲は、決して馬鹿に出来ない広さだ。現に、ゴーズ達は地面でHPを失い倒れ伏している。

「こう見えて私、ちょっと怒ってるのよね~。だから、容赦は無しでいくわね~」


************************************************************


 一方【遥かなる旅路】は、スパイ達がルシアを中心にして徹底抗戦を繰り広げていた。

「アンジェの為に、ギルドの奴等を潰しなさい!!」

「「「「うぉぉぉ!!」」」」

 アンジェリカの為に戦う。その謳い文句に、戦意を高揚させるスパイ達。これは鼓舞ではなく、扇動。一致団結ではなく、思考誘導だ。


 ルシアは弓使いの後衛職であり、トロロゴハンが不在の際には全体に指示を出す事も多かった。そんな彼女の指示出しは、【遥かなる旅路】の誰もが一目置いていた。

「ギルマスとサブマスは、連携が上手いわ! 何をしてでも分断して、決して合流させては駄目! マックスは魔法で対応! エルはINT中心のビルドだから、魔法を撃たせてないで! 詠唱したら、優先して潰すのよ!」

 その指揮能力が今、仲間であった自分達へと牙を剥いている。【遥かなる旅路】の面々は、それが何よりも悔しく悲しい。

「タイチは複数名との戦闘が苦手よ、包囲する様に! ランランは接近されれば弱い、盾持ちが先行して突っ込みなさい!」

 自分達の得手不得手を、しっかり把握しているルシアの的確な指示出し。その状況下での戦闘は、カイセンイクラドン達にとっては物理的にも精神的にも苦しい戦闘である。


「く……っ!! このっ……!!」

「旦那の所には行かせねぇよぉ!!」

 踏み込んで、短槍を突き出すスパイの攻撃。それがトロロゴハンの胸元に突き刺さろうとした、その瞬間。

 トロロゴハンの身体と、スパイの短槍の先端の間。その隙間に、黒い何かが割り込んだ。

「あら、乱暴ね?」

 黒い物体は、盾だ。その丸みを生かして槍の穂先をいなすと、彼女はクルリと回転する様に右手の得物を突き付けた。

「お、お前……っ!! 何でっ!?」

「【アサルトバレット】」

 破裂音と同時に、スパイの顔面に撃ち込まれる散弾。HPが全て消し飛ばされ、そのまま倒れ伏す。


「【魔弾】……!?」

 目を見開いて悔しそうな表情を浮かべるルシアに、銀髪の美女は余裕の笑みを浮かべてみせた。

「私達の戦術も、しっかり研究しているのかしら?」

 ミリアがそう言うと、その脇を一人の女性が駆け抜ける。

「行くですよー!!」

 金色の髪を靡かせ、駆け抜けるシャイン。その両手に握られたサブマシンガンから、弾丸が放たれる。


「ナーイス!! 流石だね!! そんじゃ、一発でかいの決めようか!!」

 思わぬ援軍に、敵味方共に驚いている。その隙に、詠唱を進めていたのはオヴェールだ。

「【インフェルノ】!!」

 彼女の杖……長杖ではなく、バトン型の短杖から撃ち出された火の玉。それがスパイ達の中心……ルシアが居る位置目がけて飛ぶ。


 それを見たルシアは、即座に声を張り上げた。

「全員、退避!! 【クイックステップ】!!」

 簡潔な指示を出し、急いでその場を離れたルシア。


 しかし現状の味方は、スパイ達だ。連携もままならない、意志疎通もろくに出来ていない。唯一共有しているのは、アンジェリカの為に戦うという意思だけ。

 咄嗟の指示に対応できた者は、半数程度。残る半数は防御態勢を取って耐えようとするか、そのまま弓を構えたり詠唱をしていた。

 そうして地面に落ちる、火の玉。そこを中心にして、広範囲に広がる紅蓮の炎。その範囲内に立つ者は、足元から焼かれて炎に包まれる。


「ぃよっし!」

「後衛が瓦解したぞ! 一気に攻め込め!」

 カイセンイクラドンの号令に従い、戦意を滾らせて駆け出す【遥かなる旅路】の面々。その先頭を走るタイチは、ルシアに向けて突っ走っていく。

 そんな仲間達の背中を眺めつつ、トロロゴハンはミリアに視線を向けた。

「援護に感謝するわ、ミリアさん」

 素直な感謝の言葉に、ミリアは表情を綻ばせて頷く。

「私達はVRMMOプレイヤーとして、そして一人の人間としてするべき事をしただけですから」


 かつて、第二回イベントで相対した二人。その時の勝敗に至る要因は、銃という初見殺しと言われても差し支えない装備の差にあったともいえる。

 故に今回【遥かなる旅路】を【魔弾の射手】が援護した事は、その時のわだかまりを解消する一歩になるだろう。


 という大人な事情が【魔弾の射手】側にあるのは、否定しない。しかし、本当の狙いはただ一つ。

「私達はあなた達の様な、ギルドという集団のあるべき姿を大切にする人達を尊敬しています。一緒に、この騒動を終わらせましょう!」

 単に【遥かなる旅路】の在り方が、自分達の理想のギルド像に似ているから。援護する価値がある存在だと、認識しているからだ。

 そんなミリアの偽りない言葉に、トロロゴハンはわずかに目を見開き……そして、その目を細める。

「そう言って貰えて、嬉しいわ……えぇ、一緒に終わらせましょう」


……


「立て直すチャンスは、今だろう。タイチ、気持ちは解るが突っ走るなよ!!」

「解ってるよ、首領ドン!!」

「その呼び方、いい加減やめてくれんか?」

 カイセンイクラドンとタイチを先頭に、近接職が突撃していく。ルシアはそれを見ながら、声を張り上げた。

「動きを止めなさい!! 相手に連携させてはダメよ!!」

 スパイ達は連携も何も無い、寄せ集めの集団だ。それが解っているからこそ、ルシアは簡潔な指示でカイセンイクラドン達の勢いを削ごうと考えた。


「しゃらくせぇっ!!」

「これでも喰らえや!!」

 突撃する【遥かなる旅路】の面々に、消費アイテムが投げ込まれる。それを避けたり、防御する事で動きは止まる……スパイ達は、そう考えた。

 しかしながら、戦意を昂らせる彼等は止まらない。

「突っ込めえぇ!!」

 脚の回転率を上げるタイチが、我先にと突出する。彼の身体アバターには、デバフ系のポーションがいくつも命中していた。しかし、それでも彼は止まらない。


「おい!! 効いてないぞ!?」

「当たってるはずなのに!!」

 スパイ達が狼狽える中、ルシアは必死に考えを巡らせる。


――タイチのMNDは低くはないけど、高くもない……!! 何故、デバフ効果が効かないの!?


 一塊になって、突撃する元・仲間達。その姿を見て、ルシアは違和感を覚える。タイチだけではなく、他の面々もデバフ系の消費アイテムをその身に受けているのだ。それなのに、効果は全く発動しない。

 こういった集団戦闘では、【遥かなる旅路】は相手を包囲する……または、押し返す様な戦術をメインにしていた。らしくない……そんな考えが、脳裏をぎる。


 指示を出せず、必死に打開策を考えるルシア。しかしカイセンイクラドン達は、スパイ達の防衛網を突破する寸前だ。

 そんな中、一人のスパイが爆発系の消費アイテムを投擲した。

「む、防げ!!」

「アイサー!!」

 盾を構えて、爆弾アイテムを防ぐプレイヤー。彼はそのまま足を止め、スパイ達の包囲網の中に立たされる。しかし、その口元には不敵な笑みが浮かんでいた。


 そんな彼が離脱した事で、わずかに突撃チームの中心に居る人物の姿が垣間見える。その身に纏うローブは、トロロゴハンの弟子を自称するプレイヤーの物だった。

「エルリア……!? まさか、ずっと中央でバフを掛け続けて……!?」

 エルリアは支援系の魔法を扱える、【遥かなる旅路】でも屈指のバッファーだ。幹部だけあって、スキルレベルも総じて高い。彼女が人垣の中心に隠れ、カイセンイクラドン達にバフを掛け続けてMND耐性を上げていたのだ。


「ま、まずい……っ!! 自爆してでも止めなさいっ!!」

 ヒステリックなその叫び声に、スパイ達が一瞬躊躇する。その瞬間……。

「【超加速】!!」

 容赦の無い指示に気を取られたスパイ達の隙間を駆け抜けて、ルシアに迫る青年。その手にした剣が、彼女に襲い掛かる。

「くっ……【クイックステップ】!!」

 慌てて飛び退こうとするも、右の肩当てに剣が命中。その衝撃で、ルシアのHPが削られる。

「タイチ……!」

「もう終わりにしよう、ルシア……」


************************************************************


 仲間達を自爆で落とされ、【白狼の集い】のヒューズは孤立無援の状態に陥った。陥った、そのはずだった。

「【ナックル】!!」

 大きな篭手を装備した腕で、会心の一撃を繰り出す細身の少年。その拳がスパイの腹にめり込み、鈍い音を響かせた。

 そのまま少年は小柄な体躯を生かし、深く沈み込む様にして付近のスパイの懐に潜り込む。

「このっ……!!」

 少年に向けて突き出される、スパイの短剣。しかし少年は、それを篭手で受けてみせた。

「【アッパーカット】!!」

 顎を狙った、名前通りのその拳。スパイは顔を跳ね上げられ、無防備な胴体を晒してしまう。


 そこへ、駆け込むのは一人の青髪の少女だ。

「【一閃】!!」

 鞘から抜き放たれた刃は光を帯びており、彼女がそれを振るう度に斬撃の軌跡が空間に描かれている。そして攻撃動作を終えて刀を鞘に納めるその瞬間、HPを全て斬り尽くされたスパイが崩れ落ちる。


「調子に乗るなよ、ガキ共ッ!!」

 少年と少女に向けて乱暴な言葉を吐き出しながら、駆け寄ろうとするのはジューダスという男だ。しかし、そんな彼の前に立ちはだかる男が居る。

「お前達は、調子に乗り過ぎだ」

 そう言って、ヒューズは手にした大剣を全力で振るってみせる。その剣速は大剣とは思えぬ速さで、虚を突かれたジューダスはモロにそれを喰らってしまう。


「ば、馬鹿力かよ……っ!!」

 一撃で八割くらいあったHPは、既に二割をきって危険域に陥ったジューダス。ヒューズと正面から戦うのは、得策ではないと距離を取ろうとするが……そうは問屋が卸さない。

「逃がさないよ」

 金髪の青年が左手の銃でジューダスを撃つと、その身体が麻痺状態になる。


「アンタは……!!」

 ヒューズは、意外そうな顔で青年を見る。

「あっ! ディーゴさん!」

 格闘少年、ヒビキが青年に意識を向けた。その隙を突こうと、スパイが駆け出す。

「ヒビキ!!」

 その様子を見たセンヤが、慌ててヒビキを守ろうと割って入る。スパイはそんなセンヤを押しのけてでも突き進もうと、手にしたメイスを振り上げ……その瞬間、側頭部に衝撃が走る。

「ぐあっ!?」

 突如、動きを止めたスパイ。その要因は、離れた場所から狙撃されたからであった。

「油断大敵だよヒビキ君、センヤさん。手助けに来たが、構わないかな」

 黒髪の青年・クラウドがそう告げると、ヒビキとセンヤは気を引き締め直す。

「はいっ!」

「お願いします!」


 自分ではなく、【七色の橋】の二人を助けに来た。それは、ヒューズも理解している。しかしそんなヒューズに、ディーゴが並んで声を掛けた。

「そういう訳で、俺等も助太刀します」

 ディーゴの短い言葉に、ヒューズは戸惑いつつ……それでも、援護はありがたいと頷いてみせた。

「あぁ、感謝する……宜しく頼む!」

 何事にも、初めてはある。この初めての共闘から、もしかしたら新しい縁が生まれるかもしれない。ヒューズはそんな希望を抱きつつ、前に出て彼等が戦いやすい場を作ろうと気合いを入れ直した。

次回投稿予定日:2022/3/10(本編)


業務多忙・体調不良の為、モチベーションの維持が思うように出来ず、執筆が進まず予約投稿も残り僅かとなっております。

その為、しばらく更新頻度を少し落とします。

何卒、ご容赦下さい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヒューズさんが虹色だけでなく、周りのギルドとも仲良くなれそうなこと。 [気になる点] 運営に対して、一般プレイヤーから「なんでスパイ連中をすぐに垢BANしなかったんだ」って意見が出てきそう…
2022/03/04 01:08 楽しみに待っている名無し
[良い点] 数日で公開されている全話を読ませていただきました。なによりも糖分、糖分!糖分!!最高でした!!! 話の展開の仕方にも工夫を感じましたし、スパイ達の行動が明るみに出る・出し方はとても清々しい…
[一言] 更新頻度がおちるのは残念ですが何事にも躰と心が資本。調子が戻られるまでゆるりとお待ちしてますのでどうか御自愛下さいませ。
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