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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十四章 第四回イベントに参加しました

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14-28 決別の時でした

 ギルド側とスパイ側の乱戦の一方で、乱戦そこから離れる様にして戦う二人の少年の姿がある。一人は短槍を両手に備えた、見た目は青年ながら現実では中学三年生の少年。その相手は、刀を我武者羅に振るう青髪の少年だ。

「クソッ!! クソッ!! クソがぁッ!! てめぇ、学校で次に会った時どうなるか解ってんだろうなぁ!!」

 罵声を上げながら、執拗に攻撃を仕掛けるカイト。その太刀筋は強引で、不格好で、滅茶苦茶なものだ。

 そんな刀を弾き、避け、受け流すのはマキナである。その表情には翳りが見え、カイトの攻撃を受けるばかり。マキナからは、攻撃を仕掛けていなかった。


 カイトは、それが”攻撃される恐怖によるもの”と考えた。イジメに遭っていたマキナ……名井家拓真は、人からの悪意や攻撃に恐怖心を抱いている。だから自分が攻撃し続ければ、彼は身を守る事に徹するだろう。そうなれば、自分の優位は揺るがない。


 ()()()()()()()()()()()()。そう思い込んでいた。


 名井家拓真は、どう転んでも浦田霧人よりも下の存在だ。

 彼が、自分に逆らう事など許されない。

 マキナは何があっても、カイトに勝る事などあってはならない。


 それは、彼がアンジェリカに向ける思いと似通っていた。


 伊賀星美紀は、誰よりも浦田霧人を近しい存在と考えている。

 彼女の側に居るのは、自分でなければならい。

 アンジェリカの一番は、いつだってカイトでなくてはならない。


 それは、決め付けだ。自分の願望を押し付けて、相手を自分の思い通りにしようというエゴイスティックな感情。世界は自分を中心に回っている、自分が望めば全て思い通りに行くという自己中心的な考えである。

 普通ならば、そんなものは小学校……もしくは幼稚園で、多くの者が捨て去る思考。それを中学三年生になるまで、ずっと引き摺り続けて来たのが浦田霧人カイトだ。


 その原因は、彼の置かれた環境にあった。両親は霧人を溺愛し、彼の言う事は何でも信じた。幼い頃から親しかったイトコである美紀は、霧人を受け入れて甘やかしてくれた。

 更に、そこへ彼の外面の良さと容姿が組み合わさってしまった。表面上は正義感溢れる、好人物。容姿も整っており、誰もが霧人を一目置いた。教師もクラスメイトも、イジメられていた少年も霧人に絶大な信頼を寄せていた。イジメっ子ですら、霧人を敵に回すのは得策ではないと引き下がった。

 数年前、家庭の事情で美紀が家を出た後……その後から霧人は、美紀の大学の友人達と共に行動する様になった。大学生の中で、中学生一人。それなのに、彼等は霧人を重用していた。


 最も、アレク達がカイトを放逐しないのは彼が必要だからではない。血縁者である彼を放逐して、アンジェリカの機嫌を損ねて嫌われるのを恐れただけだ。つまり、カイトの自意識過剰である。


 とはいえこの通り、今までは全てが上手く行っていたのだ。その結果、霧人の歪みは決定的なモノになった。

 全ては自分の思い通りになる。そんな思考が、彼の中で固定化されてしまったのだ。


「ふざけんな、この……っ!! クソッ!! お前も!! 他の奴らも、俺の言う事を聞いてりゃ良いんだよっ、このクソがあぁッ!!」

 だから、絶対に許せない。

「……それが君の本心なんだね」

 そんな身勝手な考えで、他人を……自分の大切な人達を貶める、カイトだけは。

「【一閃】ンンンッ!!」

 マキナは、絶対にそれを許さない。

「【一閃】!!」


 破れかぶれのカイトの【一閃】に対し、マキナの狙い澄ました【一閃】が触れる。左手で握った短槍を巧みに操り、刃の表面でカイトの刀を滑らせる様に逸らす。同時に逆側……右手で握った短槍を勢い良く突き出せば、その切っ先がカイトの腹に深く突き刺さった。


 この逸らし方は、マキナがある人物に指導された技術だ。【スキル相殺】を狙うよりも、この動きの方がマキナに合っているとユージンは言った。

 カウンター攻撃を繰り出しつつ、身を守る。武技を逸らしつつ、武技を発動して敵を穿つ。

 つい先ほどまで、マキナがカイトの攻撃をひたすら受けていた理由がコレだ。彼の剣筋を、動きを、打ち込む瞬間の予備動作を見切る為。

 全ては今、この瞬間の為にあったのだ。


 自分と相手の動きすらスローモーションに感じる、その攻防。カイトは自分の腹に突き刺さった短槍を見て、目を見開いた。

「な……名井家……!! て、メェ……ッ!!」

 カイトが下がって短槍を引き抜こうとするが、まだ終わりじゃない。

「本名で呼ばないでくれるかな」

 冷静に、慎重に決める。マキナはそう自分に言い聞かせ、得物を握る手に力を込めた。


「【ハードピアス】!!」

 更に一歩踏み込んで、短槍を突き出す。カイトのHPバーが減少するが、それを見る余裕は互いに無かった。

「【スピンピアス】!!」

 突き刺したままの短槍を横に振るい、自らも回転してカイトの腹を裂く。ダメージエフェクトが迸り、その輝きで互いの顔を赤く照らす。まるで、互いに血飛沫を浴びたかの様に。

「【一閃】!!」

 バンと戦ったあの時には、まだマキナは【刀剣の心得】を手に入れていなかった。しかし【七色の橋】のメンバーとなった今、彼の手にあるのは≪刀剣≫属性を持つ短槍。仲間達の想いを込めて製作されたこの短槍には、マキナの技量を更に引き上げるだけのポテンシャルが宿っている。


「【ツインピアス】!!」

「このおおおおおおおぉおぉっ!!」

 必死に身を捩ろうと、連続攻撃によってヒットストップを喰らっているカイトには何も出来ない。

「【アクセルドライブ】!!」

 トドメに【短槍の心得】の奥義を繰り出し、カイトへの攻撃を完遂させるマキナ。その連続攻撃で、カイトのHPはゼロに達した。


 倒れ伏すカイトを見ながら、マキナは技後硬直に陥った。そんなマキナを見て、カイトは口元を吊り上げ嗤う。


――どっちが上か、嬲り殺して教え込んでやる……!!


 自分だけに見える、ポップアップしたウィンドウ。そのボタンを凝視して、カイトは消費アイテムの効果を発動させた。それは、消費アイテム≪聖なるメダル≫。これを使えば、自らの意思で蘇生が可能となるのだ。


「今度はこっちの番だ、名井家ェッ!!」

 刀を振り被り、カイトはマキナに向かって駆け出した。その表情は、愉悦・憎悪・嫉妬といった感情で醜悪に歪んだ笑みだった。


 しかし、マキナは落ち着いていた。彼の身に纏う陣羽織≪不撓不屈≫には、仲間であり心奪われた彼女から譲り受けた……武装スキルが宿されているのだ。

「いいや、君の番はもう来ない」

 それはネオンが第三回イベント入賞の報酬である≪魔札≫で、手に入れる事が出来た武装スキルだった。

 そのスキルは、名を【キャンセラー】という。これは十五分に一度だけ、技後硬直をキャンセルする事が出来るスキルだ。


「【一閃】!!」

 カイトが振り下ろしかけた刀をに向けて、マキナは短槍を振るう。その【一閃】を受けて、カイトの刀は耐久値が尽きて真っ二つに折れてしまった。

「な……っ!?」

 マキナが手にしているのは、仲間達が精魂込めて鍛えた業物の短槍。対するカイトが持っていたのは、一般販売目的で製作されたそれなりレベルの刀である。耐久値の差は、歴然だろう。


「て、て……テメエェェッ!! 俺がッ!! 俺がテメェごときにッ!!」

「終わりだ、カイト……【一閃】!!」

 クールタイムを終え、再度放たれた【一閃】。この一撃で、今度こそカイトのHPはゼロになった。≪聖なるメダル≫は同時に装備できるのは一つだけ、もうカイトには蘇生の手段が無い。


 だからカイトは、怒りで表情を歪めながら恨み言を口にするしか出来ない。

「覚悟しとけよ……お前、許さねぇぞ……!! あいつらなんかより、きっつい方法でイジメてやるからな……!!」

 あいつらとは、学校で拓真マキナをイジメていたクラスメイト達の事だ。その言葉から、彼の性根が腐っているのがよく理解できた。しかしそんな脅し文句を向けられても、もうマキナは動じない。


「生憎だけど、もう演技でも君に屈したりしないよ。さようなら、カイト。次は、現実リアル決着ケリを付けよう」

 その言葉に、カイトは目を見開いた。これが、あのマキナか? 名井家拓真の言葉なのか? と、耳を疑ってしまう。

 同時にその冷たい視線と堂々とした物言いに、気圧され寒気を覚えてしまう。


――だ、誰が……誰がこんなヤツに、負けを認めるかよ!! こいつは、ただのイジメられっ子だ……!!


 精一杯の虚勢を張ろうと、カイトは口を開こうとする。しかし彼が何かを言う前に、タイムアップの時を迎えた。動揺した、間の抜けた顔を晒しながらカイトのアバターは消滅していくのであった。


 カイトの消滅を見送って、マキナは深く息を吐く。これで一つ、ケリを付けられた……と。

 しかし、それで終わりではない。まだ、仲間達は戦闘を継続している。自分の決着を付けた今、次にやるべき事は決まっている。

「皆、ケリを付けさせてくれてありがとう……今行くよ……!!」

 仲間達への感謝の念を胸に秘めつつ、マキナは乱戦を繰り広げる戦場へ向けて駆け出した。その背中は、イジメられっ子のそれではない……一つの壁を乗り越えた、戦う男の背中であった。


************************************************************


「しつこいな……こいつらっ!!」

「ケイン達に、絶対近付けさせるな!!」

 ドラグを援護しようと、襲い掛かるスパイ達。その猛攻を退けようと、【桃園の誓い】の面々が奮戦していた。

 ドラグとの決着をケインが付けるまでは、意地でも通さない……そんな決意が、その表情からは見て取れる。


「レオン、もう少し耐えて!!」

 そう言いながら、マールが後衛職を中心に矢で射抜いていく。その狙撃精度は中々に高く、殆どの矢はスパイに命中していった。

 しかし、如何せん数が多い。マールを守ろうと必死に耐えるレオンは、そのHPが既に危険域に突入していた。

「く……っ!! ここで倒れては、男が廃るっ!! 仲間は、マールは俺が守る!!」

 そんな男気溢れる大声に、マールは一瞬硬直する……が、すぐに再起動して弓を構えた。


――そういう殺し文句は、迂闊に言わない方が良いわよレオン……まだまだ靡いてあげないけどね。


 先日の不正疑惑に対する、レオンの軽率な発言や行動……それを踏まえると、マールは彼を”世話の焼ける同僚”程度にしか認識していない。故に、彼から愛の言葉を囁かれても「あ、そうなの」で流してしまうだろう。

 最も、それはあの時の彼のままだった場合。もしも彼がその軽率さを改めたならば……ナシはアリに変わるのかもしれない。


 とはいえ、今はそれどころではない。マールは動きながら弓を構え、敵の攻撃を避けながら矢を射る。立ち止まり、狙いを定めて矢を射るプレイヤーが多い中で、マールのこの射法は異端と言っても良い。

 しかし、それは当然の帰結だ。最前線でソロプレイヤーとして、弓職を張るのは並大抵の努力では出来ない。仲間に恵まれなくとも、自力でダメージを与えて戦い抜く必要がある。だからこそマールは、幾度の失敗を経てこの戦闘スタイルを確立させたのだ。


 しかし、レオンのHPは既に危険域。ここらでポーションでも投げて回復してやろう……そう思った瞬間。

「そぉれっ!!」

 緑色の液体で満たされたガラス容器が、宙を舞う。それはスパイを押し留めようと動くレオンを先回りする様に、実にドンピシャのタイミングで落下。レオンの背中に命中して割れ、その効果を発揮した。

 みるみる内に回復していく、レオンのHP。相当な性能のポーションでなければ、こうはならない。


「どーも! 姉妹ギルドの援護に来ました!」

「い、一緒に……た、戦い……ます、よ?」

 女子大生らしき、和装の二人組。緑色をイメージカラーにした調合職人と、紫色をイメージカラーにした鍛冶職人の姿。

「ミモリさんに、カノンさん……」


 マールも、二人が【七色の橋】の……姉妹ギルドのメンバーである事は、重々理解している。しかしこうして助けて貰えるとは、思ってもみなかった。

 何せケイン達と違い、自分達は全く【七色の橋】との交流は無かったのだ。ケイン達が紹介しようと段取りをしている間に、【七色の橋】は不正騒動に巻き込まれてそのタイミングを逸してしまった。その為、これが初対面である。


 そんなマールの動揺をよそに、ミモリは口の端を吊り上げる。

「さっきの皆さんの言葉、ちゃんと聞こえましたよ! 初共闘、いっちゃいます?」

 悪戯っぽく言うミモリに、マールは”さっきの言葉”について考えを巡らせ……それが、ドラグに向けた”あの言葉”なのだと察した。


――ふふっ、認めて貰えたのかしら……私達も、【桃園の誓い】なんだって。


 ミモリの言葉が胸の奥に沁み込んで、あたたかい何かが生まれる様な感覚。それは、喜びという感情なのだろう。

 ならば言うべき言葉は一つだけだ。

「えぇ、是非! レオン、可愛い女の子達が応援に来てくれたわよ! 肉壁よろしく!」

「扱いが酷い上に、人使いが荒いな!?……だが、任せろっ!!」

 マールとレオンのそんなやり取りに、ミモリとカノンも笑みを浮かべ……そして、意識を戦闘モードに切り替え直す。

「とっておきを、御馳走してあげるわ!!」

「やる時は……やる、からっ!!」


……


 レオンとマールの元に、援軍として参戦したミモリとカノン。その様子を横目で見て、イリスは口元を綻ばせる。

「情けない所は、見せられないわね! 【ライトニングアロー】!」

 そんな事を口にしながら、イリスは詠唱が完成した魔法を発動。雷の矢が、スパイ達に向けて飛ぶ。

 その攻撃を受けたスパイ達は、麻痺状態になり動きを止めた。


 そこへ駆け込むのは、ゼクスとチナリだ。

「【ラピッドスライサー】!!」

「【ナックル】……はぁっ!!」

 視線を鋭くさせた二人は、武技を発動させてスパイ達のHPを刈り取る。


 そんな二人を仕留めようと、スパイ側の増援が武器を掲げて駆けてきていた。その装備から、防御力が高いタイプなのは一目瞭然だ。

「チッ……! 見るからに硬そうだな……!」

「大丈夫、殴ればその内動かなくなるから!」

「怖い事言うなぁ……」


 不穏なカップルの会話を知ってか知らずか、スパイ達は殺意すら感じられそうな雰囲気だ。

「アンジェリカの敵を潰すぞ!」

「これはアンジェの為の戦いだぁ!」

「アンジェちゃんへの愛の強さを思い知らせてやる!」

 狂信的とも思える、アンジェリカへの思い。それを叫びながら迫るスパイ達に、ゼクスとチナリが構えを取った。


「残念ですけど、そうはいきません」

 その声と共に鳴り響くのは、銃声。スパイの中の一人……その眉間に、ダメージエフェクトが刻み込まれる。

「これは、あなた達のスパイ行為を終わらせる戦いです」

「そゆこと。大人しく退場しな」

 鎧で守られていない部分に向けて、放たれる銃弾。それを放ったのは、赤髪の青年だ。


「ルナちゃんに、ビィトさん?」

「来てくれたのか!」

 イリスの方へと、駆け付けるルナ。ゼクスとチナリに歩み寄るビィト。二人は銃を構え、スパイ達を睨む。

 固定ダメージを与える銃ならば、VITの高さは関係ない。だからこそ、この場に駆け付けたのだろう。

「【魔弾の射手】、援護を開始します!」

「そういう訳だから、オイタはそこまでだ!」


……


「うん、いい感じかな」

 【七色の橋】と、【魔弾の射手】の援軍。それを確認しつつ、バヴェルは長剣を握って駆け出した。目標はゼクトが盾で攻撃を受け止め、動きを止めたスパイだ。仲間が新たに拵えた中華風の長剣を振るい、バヴェルはスパイを斬り伏せる。

 その様子から気負いは感じられず、彼がこういった乱戦に慣れているかの様だった。


「中華服だ、【桃園】のメンバーだな!」

「潰せ! 囲むぞ!」

 バヴェルとゼクトに向けて、接近するスパイ達。彼等を落としてポイントを稼ごうという魂胆が、その表情から窺い知れる。


 しかしバヴェルにとっては、彼等は脅威でも何でも無い。

「ゼクトさん、右から来る奴等を止めて貰えますか」

「任せとけ! 左は、頼めるんだな?」

「えぇ、ちょっとした切り札をお見せしましょう」

 バヴェルはシステム・ウィンドウを操作し、二振りの剣を選択。装備ボタンをタップすると、剣が実体化し……その場で浮かんでいた。


「……あ?」

「う、浮いてるぞ……?」

 バヴェルの左右の肩より、少し高い位置。そこに、二振りの中華剣が浮ぶ光景。動揺して足を止めるスパイ達だが、その中の一人が声を張り上げる。

「ビビんな! あれは【ゴーストハンド】だ!」


 彼の言う通り、バヴェルが発動したのは【ゴーストハンド】である。ヒメノの場合は≪桜吹雪≫の操作と発射に使用しているが、本来はバヴェルの様に剣や盾を持たせる使い方が主である。

「思考制御で操作するから、戦いながらだと精密な動きは出来ねぇ! 気にせず突っ込め!」

 そんなスパイの一人の指示に、気を取り直して駆け出すスパイ達。


「精密な動きは出来ない……か。本当にそうかな?」

 スパイ達を迎え討つバヴェルは、右手に握った中華剣を構えて笑みを浮かべた。

 そしてスパイ達が射程距離内に踏み入った瞬間、【ゴーストハンド】で握る剣が動いた。地面に向いていた切っ先をスパイに向き、すぐに突き出されたのだ。その動きに対応出来ず、二人のスパイが喉元を串刺しにされる。

 更にバヴェル本人が鋭い踏み込みと共に、右手の剣を振るってもう一人の頭部を突き刺す。


「は、や……っ!?」

 驚いている間に、バヴェルはスパイを振り払う様にしながら剣を抜く。穏やかそうな見た目に反して、その仕草は荒々しい。

 同時に【ゴーストハンド】の剣が引き抜かれ、次なる獲物目掛けて走るバヴェルに追従する。すぐにバヴェルに追い付くと、彼の周囲を衛星のように回り始める。

 予想外の連続に、気を緩めてはいけないのに。スパイ達には何故だか、その光景が自然な姿の様な錯覚を覚えた。


……


 目まぐるしく変化する戦場の中にあって、一対一の戦いを繰り広げるケインとドラグ。しかしその戦いは、一方的なものであった。

「ああぁぁぁっ!!」

 錯乱状態に陥ったドラグは、戦斧を乱暴に振り回す。しかし、それでもケインは攻撃に一度も当たらない。


 ドラグを追い詰める形になった、先の一幕。その時のケインは仲間と信じたいという思いと、スパイを許せないという相反する二つの感情に揺れていた。

 しかしドラグを【桃園の誓い】から追放する事を決意した今、ケインに揺らぎは微塵も感じられない。


 勿論、心の奥底ではドラグに裏切られた哀しみ……そして彼の本性を見抜く事が出来なかった、自分に対する不甲斐なさをひしひしと感じている。

 心を苛まれながらも、ケインは努めて冷静に……かつ冷徹に、ドラグの攻撃を躱し、捌き、反撃を繰り出す。

 正に、しずかなること林の如し。彼のユニークスキル、【鞍馬天狗】の謳い文句に相応しい姿。


「【氷天】」

 ドラグが攻撃動作を終え、静止するタイミング。その瞬間に合わせて発動する、【天狗】の魔技。

 凍てつく空気をその身に浴びたドラグは、凍結状態に陥った。

「うわあぁぁっ!! 放せぇぇっ!!」

 ドラグは凍結による拘束から逃れようと、足掻き叫ぶ。その姿を見て、ケインはある事を考えた。


――まるで癇癪を起こした、子供の様だ……。


 見た目はダイスやヒューゴと同じくらいの、大学生の青年。しかしながら、その足掻く姿は悪い意味で幼く見える。

 未成熟なまま、身体だけが成長してしまった……そんな風に見えるのだ。


 先の慟哭……【桃園の誓い】に残りたいと訴えた時も、同じだ。己の過ちを軽く考え、本質に気付かずに謝罪の言葉を口にする。

 もしかしたら、本当のドラグは……自分達が思っているよりも、精神的には子供なのかもしれない。


 しかし、それは手を緩める理由にはならない。

「終わらせよう、ドラグ」

 ケインは動けないドラグに近付き、≪天狗丸≫を振り被る。

「嫌だっ!! やめてくれ、ケイン!! 嫌だぁぁぁっ!!」

 最後の最後まで、そんな叫び声を向けられながら……ケインは微塵も揺るがない。


「【一閃】……!!」

 左肩から右の腰まで、赤いダメージエフェクトが刻み込まれる。ドラグのHPが、六割から五割まで減少していく。

「【スラッシュ】……!!」

 上半身と下半身を断つかのような、横薙ぎの斬撃。残るHPは、四割と少し。

「【デュアルスラッシュ】……!!」

 澱みなく発動された二連撃が、ドラグのアバターに更なる傷を刻む。一気にHPは減少し、残りはもう二割程。


「もう、やめっ……!!」

 このままだと、重犯罪者レッドプレイヤーとなった自分は強制ログアウトされる。そして、【桃園の誓い】から追放される。全てのアイテムがドロップし、このギルドを象徴する装備も失う。スキルも全てオーブとしてドロップする。アンジェリカの側にもいられなくなる。これまで積み上げて来た全てを失う。


「【一閃】!!」

 情け容赦の無い鋭い一撃はクリティカルヒットとなり、激しいライトエフェクトを発生させる。それが、最後の一撃となった。

 ドラグの身体から力が抜け、身動きが取れなくなる。それは、戦闘不能状態になった事を意味する。そのまま、重力に従ってドラグは地面に倒れ伏した。


「俺は……俺は、本当に、お前達と……!!」

 尚も言い募るドラグに、ケインは冷たい声で語り掛ける。

「これは全て、お前が選択して来た結果だ」

 初めて聞く、ケインの冷え切った声色。それが耳に入った事で、ドラグは言葉を失った。


「お前が、俺達の事を本当に仲間だと思っているなら……重犯罪者でも、構わなかった」

 最後の最後……全てをつまびらかにして尚、ケインはドラグに選択の余地を与えていた。


 もしも重犯罪者レッドプレイヤーに落とされて尚、彼が自分達を選ぶならば……肩を並べて、最後まで仲間として戦えただろう。

 しかし、ドラグは最悪の選択をした。ただ感情の赴くままに、癇癪を起こして暴れた。現実を認めず、望む未来に一歩を踏み出す事なく、何にもならない子供染みた抵抗をした。それによって失うものはあっても、得られるものは何も無いのに。


「あ……あぁ……っ!!」

 今度こそ、真の決別。それを悟ったドラグは、倒れたまま嗚咽を漏らす。

「俺は……俺、は……っ!!」

 そんなドラグの様子を見下ろしながら、ケインは最後の言葉を口にした。

「ドラグ、お前を【桃園の誓い】から追放する」

 その言葉を突きつけられたらドラグは、声にならない叫びを上げる。蘇生猶予時間は、残り僅かだ。


 重犯罪者という、プレイヤーとしては最も制限の掛かる状態に落とされ、装備もスキルも、そして手を差し伸べ続けてくれた仲間も失って……ドラグという一人のプレイヤーが、ゲームの中から弾き出される。

 ログイン制限が掛かる今、彼はイベントの舞台に舞い戻る事は無い。そして、その間にスパイとギルドの決着が付くだろう。


 ケインは必死に真顔を保ち……冷静を装う。騙されている事を知らなかった、つい先日までの事を懐かしむ余裕は無い。まだ、戦いは終わっていないのだ。

 もう間もなく、蘇生猶予時間が尽きる。ケインはある一つの願いを込めて、ドラグに声を掛けた。

「さようなら、ドラグ……また、何処かで」

 付け加えるように口にしたそれは、ケインからの最後の情だった。


”ギルドには戻れなくても、それで全てが終わるのではない”


 その言葉だけは、ドラグも正確に彼の意図を察する事ができた。

 ケインもそれが甘い考えだと、それを自覚しながらも……その未来が訪れる事を望んでいる。


「ケイン……! 次に会った時は……」

 ケインの言葉に返答を返そうとし……しかし、それは間に合わなかった。ドラグの身体アバターが光の粒子になって消滅し、後に残されたのはケインだけだった。


 ドラグの最後の言葉を、最後まで聞く事は出来なかった。しかしドラグの表情は、拠点でケインを気遣っていた時の顔と似ていた。

 まだ、変わる余地はある。自分の過ちに向き合い、改める機会は残されている。

 ギルドメンバーとしてではなくとも、また肩を並べて戦う事が出来るかもしれない。


 ケインはそう信じて、この戦いを終わらせる為に気合を入れ直す。スパイ集団との戦闘は、まだ終わっていないのだから。

次回投稿予定日:2022/3/20(本編)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後まで救えないカイトと、最後の最後でやっと自分に向けられてたドラグ。 決別にもいろんな形はあるし、これから起こるそれぞれの展開が楽しみ。
[良い点] 更新ありがとうございます。 [気になる点] つぎの決着は、何処なのか!
[一言] 二つの決着・・・個人的にはドラグに若干の救いがあったのでよし・・・かな。 これで可能なら、ドラグのアバターを消して、名前も変えて一からやり直して、そのうえで認められるほど強くなってほしいも…
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