02-03 合同パーティとなりました
ヒイロから明かされた、エクストラクエストやその開始条件を聞かされたケイン達。祠やエクストラボス、ユニークシリーズについても説明すると、ケインが口を開いた。
「なんてこった、とんでもない情報を教えて貰ってしまったな……ユニークスキルの類はあると思っていたんだが、そんな条件があったなんてね」
どうやら、ケインはヒイロの話を全面的に信じる姿勢らしい。
「なぁ、それは本当の事なのか? 疑ってる訳じゃないんだが、何かしらの確証が欲しいんだよ」
口を挟んだのは、短剣を装備した長身の男だ。黒髪を逆立て、バンダナを額に巻いている。顔立ちは精悍な顔付きで、目付きが鋭い。深緑の外套の下は、鎧の類を装備していない……恐らくは、ジン同様に敏捷性に重点をおいたステータス構成だろう。
「ちょっと。失礼よ、【ゼクス】」
バンダナの青年を窘めるのは、これまで黙って話を聞いていた女性だ。白いローブ姿の女性は、背中に長い杖を背負っている。その事から、彼女は魔法職プレイヤーである事が伺い知れた。
赤く長い髪を、ハーフアップにしている……この髪型はクラウンハーフアップと呼ばれるそうだ。具体的に言うと、デスゲームの閃光さん。彼女も魔法職なので、細剣を持ったらバーサクしちゃうヒーラーさんなのかもしれない。
その顔立ちはキリリとした美貌なのだが、現在はゼクスをジト目で見ていた。
「そうは言うけどよ、【イリス】。お前だってそう思うだろ?」
「情報を明かしてくれているだけでも、感謝すべきよ。内容の真偽は、私達自身が確認するのが筋でしょう? 何でもかんでも、相手に頼るのは好きじゃないわ」
そんなやり取りをする二人に、ジンが声を掛けた。
「確証になるかは解らないでゴザルが……これが、エクストラクエストでドロップした品でゴザルよ」
そう示してみせたのは、二振りの小太刀だ。このゲーム内では、広く出回っていない《刀剣》。その存在感に、二人は口を噤んだ。
「仲間が失礼したね。さて、貴重な情報に対する対価を支払いたいんだけど……申し訳ないんだが、ユニークスキルの情報に対する対価となると、何が適しているのか判断が難しい」
「あ、いえ……そこまで気にしなくても……」
ヒイロはそう返すのだが、ケインは首を横に振る。
「君達が自力で見つけ出した、貴重な情報だ。それに対する敬意と、それを教えてくれた厚意にはしっかりと応えたい。たかがゲームと思いたくはないんだ」
ケインの真摯な言葉に、それ以上は言葉を返せなかった。彼はゲームの中であっても、決して相手に対する敬意を忘れない男らしい。
「そうだな……それじゃあ俺が手に入れたレアアイテムを、対価とさせて貰えるかな」
ケインの言葉に、イリスとゼクスも口を挟んだ。
「あ、私も! 一人でユニークシリーズの情報料を賄うなんて、無理でしょ」
「……わーった、俺も出す。一人一つ分くらいで良いか?」
どうやら、二人はケインの考えを尊重する様だ。こうして仲間達の信頼を得ている所を見ても、ケインの人徳が窺い知れる。
だからこそこれ以上の固辞は、ケイン達の矜持に傷を付ける事になるのではないか? そう思ったからこそ、ヒイロはその話を受ける事にした。
「……解りました、そのお話をお受けします」
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装飾品≪生命の腕輪≫
効果:HP+10
スキル:【HP自動回復(小)】
収納鞄≪開拓者のポーチ≫
効果:収納上限500
≪古代の腕≫
効果:無し
スキル:【空欄】
装飾品≪大賢者の首飾り≫
効果:INT+10、MND+10、MP+10
装飾品≪覇王の指輪≫
効果:VIT+15、HP+30
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「この≪古代の腕≫は、売却用のアイテムだ。これを売ると、ダイヤコインに交換出来る」
NPCショップで売却する事で、ダイヤコイン10枚が貰えるらしい。これはゴールドチケット1枚、シルバーチケット2枚分らしい。リアルマネーにすると、5000円程の価値があるという。
「あの、良いんですか? どれも貴重な品ばかりなんですが……」
「貴重な情報の対価さ、これでも少ないと俺は思うよ」
笑顔で頷くケインに、ヒイロはもうお腹いっぱいだと内心で溜息を吐く。
「……解りました、これで取引成立という事で」
これ以上は流石に申し訳ないので、取引をここで終わらせる事にするヒイロ。まだ足りないだなんて思われたら、いよいよもって申し訳無さが限界を迎える。
「そうだ、これもきっと何かの縁だ。良かったらフレンド登録をお願い出来るかな?」
「あ、はい。了解です」
そう言うケインに、ヒイロは頷く。彼の人柄は好ましく思えたので、フレンド登録するのは全く問題無いと思えたのだ。
しかし、そこで背後から声がかかった。
「ヒイロさん。それは今後も、彼らとの交流を持つ……そういう事でよろしいですか?」
それは、フードを目深に被って顔を晒さないようにしている少女……レンからだった。
そこで、ヒイロはしまったと思う。レンとシオンは、彼等に面が割れている。だからこそ、彼女達は顔を隠していたのだ。
「相談せずに決めて、申し訳ない……もし、都合が悪いなら俺が……」
自分が窓口になって、彼らとの応対を担当する。そう言おうとしたのだが、レンの口元が緩む。
「解りました、では……」
そこまで言うと、レンがフードを取り払った。彼女の蒼銀の髪が、ダンジョン内の壁に設えられた篝火の灯に照らされる。
素顔を明かしたレンに、ケイン達は驚きの表情を見せた。
「アンタは……もしかして、レン……さん!?」
「えっ……あのレンさん!? お、覚えてます? 私達、ベータ時代に一度レイドで一緒になった……」
「ええ、覚えていますよ。一度だけの共闘でしたが、バランスの取れた素晴らしい戦いぶりでしたもの」
そう言って、にこやかに応対するレン。その横で、シオンもシステム・ウィンドウを操作してヘルムを取り去った。
「御無沙汰しておりました。それと、顔を伏せていた無礼を謝罪致します」
「あぁ、いや……レンさんとシオンさんは、有名だからね。トラブル防止の為だろう? それなら仕方が無いさ」
思わぬ再会を受け、ケイン達はテンションを上げていた。
「しかし、レンさんやシオンさんとパーティを組んでいるという事は……もしかして、攻略最前線のメンバーなのかな? それならば、ユニークスキルの事なんかを知っていても不思議じゃないんだけど」
「いえ、俺達は最前線のプレイヤーではないですよ。レンさんとシオンさんは、たまたまダンジョン内で知り合って……」
ヒメノとレンが顔見知りだった為、その縁で行動を共にしている事を説明されたケイン達。
そのまま話を続けようとするケイン達だったが、それを制すかの様にシオンが口を開いた。
「さて、お嬢様。時間的な余裕はありませんが」
「……明日は平日ですものね」
先日の様な、延長サービスは無いだろう。シオンはその辺り、案外ドライなのだ。
「そうか。引き止めてしまって、申し訳ない……それじゃあ、今回は」
あっさり引き下がるケインの様子を見て、レンは考えを巡らせる。
ゼクスは少々、不安要素が残る。しかしケインとイリスは、性格的にも実力的にも問題は無いと判断する。それであれば、ここでもう一つ恩を売るのはどうだろうか。
最前線とは行動を別にしていても、彼等は実力派のプレイヤーだ。その安定感は、ベータ時代にも自分の目で見ている。今回の邂逅で繋がれたパイプを太くするのは、今後の事を考えても良い案では無いだろうか。
即座にそう判断したレンは、行動を起こす事にした。
「申し訳ありませんが、少々お時間を頂きますね」
レンはそう言うと、ヒイロに近寄ってその耳元に顔を寄せ、耳打ちする。
「ヒイロさん。彼等を、今回のエクストラクエストに同行させるのは如何でしょうか?」
その言葉を受けて、ヒイロはレンに視線を向ける。
「レンさん達は、それで良いんですか?」
「はい。それに最初に言いましたよ……ヒイロさんの判断に委ねます、と」
そう言うと、レンは悪戯っぽく笑う。そんなレンの笑顔を見たヒイロは、フッと笑みを浮かべた。
「解りました、レンさんの提案を受け入れます」
そう言ってヒイロは、ケイン達に向き直る。レンさんのほっぺが赤く見えるのは、きっと篝火が赤いからです。
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そんなこんなで、パーティ上限の八人でボス部屋へ向かうこと十数分。いよいよ、目前に巨大な扉が現れた。
「ボス部屋……いよいよって事で、良いんだよな?」
「ここからは油断出来ない戦いらしいな……気を引き締めないと」
「支援は任せて! MPポーションもしっかり残っているし!」
ケイン達も、気合い十分という様子だ。エクストラクエストのボスが、従来のダンジョンボスを超える難敵である事は既に知らされている。油断は無い様だ。
「タゲ取りは任せるでゴザル!」
「はい、私は全力で撃ちます!」
「私も新しい装備を使いこなしたいので……本気で行きますね」
「防御は私にお任せを」
「よし、行こう!!」
全員で声を掛け合い気を引き締めると、パーティリーダーであるヒメノが緊張気味の表情でボス部屋の扉を開いた。
大きな広間の奥には、巨大な爬虫類っぽいモンスターが居た。
「ドラゴン?」
「いえ、このダンジョンのボスは【グレイト・アーマーリザード】です」
「言ってみればでかいトカゲだよ、ジン君」
その巨体は確かにグレイト。ゴツゴツとした鱗は確かに鎧の様だ。しかし、トカゲという時点で何故かガッカリしてしまうジン。
まだ、AWOでドラゴンを見た事がなかったのである。
そんなジンの落胆を他所に、壁の篝火の色が、赤い炎から青い炎へと変化したのだ。それはジンがこれまで体験してきたエクストラクエストと同じ現象である。
篝火の炎から火の玉が飛び出すと、鎮座する大鎧トカゲと飛んでいく。八つの火の玉が吸い込まれると同時に、大鎧トカゲが震え出す。
「毎度思うんだけど、このイベント長いよね」
「ジンからしたらそうかもしれないけど、俺はこういう変身する所見るのは好きかもしれない」
「俺もヒイロ君の気持ちは解るかな」
「変身は、やっぱロマンだよ」
男同士、トカゲ大変身について言及する。今ここでする必要がある会話では、決して無いのだが……そんな緩いやり取りに、ヒメノは少し安心した。
大トカゲの内側から、突然竜か大蛇の首が出現する。
「おっ?」
「これは、まさか……」
一本……また一本と首が生えて、全部で八つの首を持つ竜となった。最後に大きな尻尾が生えると、大蛇は一斉に咆哮を上げた。
「……ヤマタノオロチ?」
その威容から、相手がヤマタノオロチだと推測するレン。それを裏付けるかのように、八人の脳裏にアナウンスが響く。
『エクストラクエスト【狂った大蛇】を受けられます。クエストを受けますか?』
このエクストラクエストをクリア出来れば、自分もユニークアイテムを入手できる。そうすれば、皆との冒険がもっと楽しくなるはず……と。
高揚した気分のままに、ヒメノはOKボタンをクリックする。
ジン達もOKボタンをクリックし、いよいよエクストラクエスト開始となる。
『エクストラクエストを受領しました』
それは、試練の始まりを告げる言葉だった。
「いざ参る!!」
真っ先に駆け出すのは、当然ジンだ。その役割は攻撃を尽く回避しての、タゲ取りだ。これは三人でのプレイでも、五人でのプレイでも変わらない。ならば、八人でのプレイでも変わりはしないのだ。
「はやっ!?」
「忍者君、すごっ!!」
「AGI特化型とは思っていたが、これ程とは……!!」
ケイン達も、初めてみるジンの速さに驚きを隠せない。
初手は、ヤマタノオロチ……いや、【キョウカオロチ】からだった。その首の一つが口を大きく開くと、炎の玉を生み出した。それを自分の頭部で突いて、打ち出す。まるで、ビリヤードの様な攻撃方法である。
「ほわっ!? 【ハイジャンプ】!!」
慌てて【ハイジャンプ】を発動し、ジンは火球を回避する。しかしその軌道上にはヒメノやレン、イリスが居た。
「「【ストロングガード】!!」」
ヒイロとシオンは同時に、防御の武技を発動した。しかし二人は、そのあまりの威力に顔を顰めた。防御力を抜けてダメージを受けてしまったのだ。
「なんて力だ……っ!!」
「流石は、攻撃力を司るエクストラボス……ですね」
攻撃を受け止めた二人の姿を見て、レンは焦りを覚える。幸いな事に大ダメージは避けられたものの、手にする装備の耐久値がごっそりと減っている事に気付いたからだ。
「貴様の相手は、拙者でゴザル!!」
攻撃回避の為に発動した【ハイジャンプ】、放物線を描くように落下中のジン。彼は仲間達に攻撃されない様に、ヘイトを稼がなければと奮起する。
「【天狐】、【一閃】!!」
足裏に展開した魔法陣を蹴り、火球を打ち出した首を狙って放つ【一閃】。クリティカルが発動し、キョウカオロチの首にダメージエフェクトが奔った。
その攻撃が功を奏し、キョウカオロチの標的はジンに集中する。他のメンバーはまだ攻撃をしていないのだから、当然だ。
「こっちでゴザル!!」
先の攻撃みたいに仲間達に流れ弾が向かわない様、ジンはキョウカオロチを誘導する。攻撃を回避しながら、キョウカオロチが他のメンバーに背を向けるように誘導していった。これならば、仲間達が反撃を受ける可能性はグッと下がる。
その隙に、後衛であるメンバーは攻撃準備を進めていく。
「まずは、ダウンさせなければ……」
「確かにそうね。全員で一斉にやろうか」
「私も出し惜しみ無しで行きましょう」
ヒメノは弓に矢をつがえ、強く引き絞る。全身全霊を込めて引き絞った矢の弦が、キリキリと音を立てる。
レンも両手に扇を構え、足元に魔法陣を展開していく。その色は、赤みの強い橙色と、鮮やかな緑色。ウルトラレアスキル【合成魔法】で二つの属性を融合させた、レンの切り札だ。
そしてイリスは、白色の魔法陣を展開させた。これは”光”の属性を持つ魔法の特徴だ。
「行きます!! 【パワーショット】!!」
「受けてみなさい!! 【ファイヤーストーム】!!」
「喰らえぇっ!! 【シャイニングジャベリン】!!」
風を切り裂き飛ぶ矢は、キョウカオロチの首の一つに命中した。激しいダメージエフェクトが発生し、キョウカオロチのHPバーが削れる。
更に、風に煽られて激しさを増す炎がキョウカオロチを包み込む。その体表を灼かれるキョウカオロチが、怒りの咆哮を上げている。
追撃とばかりに、光の投槍がキョウカオロチの身体に突き刺さる。その名の通り”狂化”状態のオロチにとって、光属性魔法の攻撃はダメージ値が上昇する様だ。
だが攻撃した事、大ダメージを与えた事で、三人へのヘイト値は一気に跳ね上がる。キョウカオロチの圧倒的な威力の攻撃は、三人に向けられる事になるのだ。その八つの首全てが、火球を生み出した。
「ヒメ!!」
「お嬢様!!」
「イリス!!」
ヒイロがヒメノを、シオンがレンを、ケインがイリスを連れて柱の影に隠れる。ボス部屋には大きな柱が複数建てられており、避難場所が用意されている事は幸いだった。
だが、キョウカオロチが見逃すはずも無い。放たれた、八つの火球。ヒメノとヒイロの方へ三つ、レンとシオンへ三つ、ケインとイリスへ二つである。
「きゃあっ!?」
「くぅ……っ!!」
「やっば……!!」
火球は柱に命中し、その一帯を呑み込む。六人が地面を転がる様子が、ジンの眼に映った。そのHPバーが、みるみる内に減っていく。
ヒイロとケインは盾職として、半分程のHPが残っている。シオンは三割削れた程度だ。しかし、イリスは残り三割、ヒメノとレンは残り一割のHPしか残っていなかった。
「余波でこれだけの破壊力……!?」
「直撃は、危険ですね……」
「か、回復を……!!」
一瞬でギリギリの状態に追い込まれた六人に、ジンは焦りを覚える。
「調子に乗るなでゴザルッ!! 【一閃】!!」
「くそっ、こんなおっかない相手なのかよぉ!!」
ジンとゼクスが、敏捷性を最大限に発揮してキョウカオロチに攻撃を仕掛けた。
その際、ジンが放つ【一閃】によるクリティカルヒットが発動する。激しいエフェクトが発生し、キョウカオロチのHPがわずかに削れた。同時にクリティカルの発生で稼いだヘイト値により、キョウカオロチの首がジンを睨み付けた。
ジンは再び、キョウカオロチの攻撃を引き付けるべく回避行動に勤しんでいく。
柱の陰から少しだけ顔を覗かせて、ヒメノはキョウカオロチを見る。八つの首には、それぞれにHPバーが設けられていた。
「もしかして、全部の首を倒さないといけないのかな……」
首を一つ落とす間に、他の首から攻撃が殺到する。そんな予感に、ヒメノは困難が過ぎると否定する。弓職のヒメノと、魔法職のレンは紙装甲なのだ。一斉に攻撃されてしまえば、即死するのは想像に難くない。
「無策で突っ込むのは、危険だろうな」
「ジンが回避役として、アイツを引き付けています。その間に……」
「打開策を考える必要が、ある……ですね」
何か打開策は無いかと、六人は思考を巡らせる。
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ジンが回避盾としてキョウカオロチの注意を引き付け、回復を済ませたヒメノ・レン・イリスが高威力の攻撃を放ち、ヒイロ・シオン・ケインが三人を守る。ゼクスは所持している【ディレイダガー】による攻撃で、キョウカオロチの敏捷度を鈍らせる役割を担った。
この流れを繰り返して、キョウカオロチのHPを削る事一時間。大ダメージを受けてしまうので、その都度ジン以外の六人は回復しなければならない。
「く……っ!! どんだけ時間が経った、忍者!!」
「多分、一時間くらい……でゴザル!!」
「マジか!? まだ半分くらいHP残ってるぞ、このデカブツ!!」
レンは回復魔法を使用出来るのだが、回復魔法もモンスターのヘイト値を上げてしまう。回復中にキョウカオロチのヘイト値が上がってしまえば、体力が低下した状態であの強力な攻撃が襲い掛かるのだ。それは避けるべきと判断し、ポーションによる回復を繰り返していた。
しかし、ポーションは有限だ。もう、それぞれが所持しているポーションの数も心許なくなっていた。
「攻撃に特化したプレイヤーが、あのモンスターを倒せる何かがあるのではないでしょうか」
回復中に、そんな見解を示したのはシオンだ。
「アッキドウジの時は、【シールドバッシュ】でダウンさせる事が勝利条件と言って良いかと思われます」
シオンの言葉を受けて、ケインが己の見解を述べる。
「つまり、このモンスターにもSTRを駆使してダウンさせる……何かしらの糸口があると?」
「恐らくは」
シオンの説明に、ヒイロ達は唸る。
「少なくとも、ダウン状態に出来るのは確実だと思う……しかし、その条件が……」
「ヒメノさんが攻撃しても、ダウンする兆しもありませんね……」
そう……再三にわたり攻撃しても、キョウカオロチは一度もダウンしていないのだ。ただの攻撃でダウンするという事は無いだろう。
そんなやり取りをしている内に、全員の回復が完了する。視線をキョウカオロチの方へ向けると、相変わらずジンとの鬼ごっこが繰り広げられていた。流石は、AGI極振りの忍者。キョウカオロチの攻撃を尽く回避していく。
――ジンさん……いつも大変な役目をして貰っているのに……どうしたら、あのモンスターを倒せるんでしょうか……。
ジンの表情を見れば、決して余裕があるようには見えない。その眼差しは真剣で、キョウカオロチを睨むように見つめている。一挙一動を見逃さないようにしているのだろう、攻撃をやり過ごした後も油断なく構えている。
行動を共にするようになってから、ヒメノは常々思っていた。自分とジンは、似ていると。ジンの姿に、シンパシーを抱いている事を自覚していた。
目が見えない自分は、現実世界に置いて何も出来ない弱者の立ち位置だ。だからこそ、強くなりたいと思ってSTRに全てのポイントを注ぎ込んだ。
対してジンは、現実世界で走れなくなった。それ故に、ゲーム内で誰よりも速く駆け抜ける事を望んだ。その結果、AGI極振りという道を選択したのだ。
早く、キョウカオロチを倒す手立てを見付けなければならない。そう思っていても、頭の中に浮かぶのはジンの事だった。
思えば、まだ出会ってそう時間は経っていない。だというのに、いつの間にかジンはヒメノの心に住み着いていた。
初めて出会った時、ヒメノの発言に合わせてくれた事。
兄であるヒイロと共に、ヒメノがこのエクストラクエストを受けられるように情報を集めてくれていた事。
いつも当たり前のようにヒメノを気遣い、今の様にヒメノ達を守ってくれる事。
そんな事を考えていると、ジンの動きに変化が起きた。立ち止まり、両手に小太刀を構えているのだ。
「……ジン、さん?」
ジンの目前で、キョウカオロチが火球を生み出していく。
「ジン!? 何をして……!!」
「待てジン君!! 危険だ!!」
破れかぶれの攻撃に出るのか? そう思ったヒイロとケインが声を張り上げるが、もう遅い。キョウカオロチはその頭部で火球を突いて、ジン目掛けて打ち出したのだ。
――ジン、さん?
ヒメノ意外の全員が、無謀な行動に出たのだと思った。しかし、ヒメノは違う。ジンの眼を見て気付いたのだ。何か……ジンには何かしらの、考えがあるのだと。
「【空狐】!!」
ジンが【九尾の狐】の武技を発動し、その小太刀を振るう。そして、すぐさまその場から飛び退いた。
「【クイックステップ】!!」
火球の射線上から逃れたジンは、キョウカオロチの方へ視線を向けた。ジンの様子に、ヒメノ達もキョウカオロチへ視線を向ける。
その視線の先では……ジンが小太刀を振るった後に発生した真空の刃が、キョウカオロチの火球を弾き返す光景だった。