02-02 火の祠を見つけました
[神獣の祭壇]という名のダンジョンがある。一般的なプレイヤーの間では、ボスモンスターである【キリン】の魔法攻撃が強力という難所である。
イベントの告知がされた翌日。[神獣の祭壇]のボス部屋では、苛烈な戦闘が繰り広げられていた。
「こちらでゴザルッ!!」
小太刀でチクチク攻撃するは、紫マフラーを靡かせてあちらこちらへと駆け巡る忍者。
「通すものかっ!!」
白色の盾で攻撃を防ぐは、藍色の具足を纏う武者。
「余所見はお止しなさい、見るべきはこちらです……【覇鬼】!!」
攻撃と同時にヘイト値上昇を増幅させる武技を発動し、ターゲット変更で隙を晒させる和風メイド服を身に纏った美女。
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武技【覇鬼Lv1】
説明:攻撃する度に敵愾心を上昇させ、注意を引き付ける。
効果:攻撃する度に、半径10メートルのモンスターのヘイト値を10%上昇。
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そんな前衛を、忌々しそうに攻撃するのはキリンだった。引越しセンターの幼女が好きなキリンさんではない、ビールのラベルになっている方のキリンさんだ。漢字で書くと、麒麟である。
その体毛は、闇のような黒に染まっている。そう、どこからどう見てもエクストラボスさんであった。
「準備完了です」
正統派魔道士っぽい服装の蒼銀の美少女。地面に描かれた魔法陣の輝きに照らされて、神々しさすら感じさせる美しさだ。
「私も行けます!」
隣に立つ銀髪美少女は、限界まで引き絞った弓矢で狙いを定めている。その凛々しい表情は、身に纏う装束も相俟って神聖な巫女の様であった。
「喰らいなさい……【バーニングカノン】!!」
魔法名の宣言と共に撃ち出されたのは、水平に伸びる極太の火柱。その魔法攻撃は、エクストラボスの身体を飲み込んだ。
「【パワーショット】!!」
魔法攻撃が終了した直後、弓から放たれた武技がボスを襲う。この武技は、プレイヤーのSTR値を+5%向上させる性能を持っていた。
二人の美少女が放つ攻撃で、麒麟の体力が大きく削られる。更に、麒麟はダウン状態になってしまった。
「今です、全力攻撃を!」
魔法職の美少女の言葉に、他の四人は一つ頷いて突撃する。
「いざ、参る!! 【分身】!!」
二人に分身した忍者は、両手の小太刀を振り被る。
「合わせるぞ!!」
鎧武者は、忍者の攻撃に合わせようと駆け出した。
「私も行きます!!」
弓を背負った姫巫女は、腰の短刀を抜く。
「では、僭越ながら私も」
大太刀を手にしたメイドも、三人に続く。
「「「「【一閃】!!」」」」
二人に分身した忍者、鎧武者、姫巫女、和風メイドの放つ刀剣の技。麒麟のHPバーがガクンと減る。もう、HPバーには一ドットの体力しか残されていなかった。
最後の一撃を受ける前に、麒麟は立ち上がり吠える。忍者と鎧武者、姫巫女が慌てて距離を取る。
「させません。【シールドバッシュ】」
和風メイドは引かずに【シールドバッシュ】を放ち、麒麟はノックバックされてしまう。それはトドメとはならないものの、想定の範囲内。そう、致命的な隙を晒させる為の攻撃であった。
それに合わせた魔法職の美少女。魔法によって黄金色の投槍が象られると、魔導師少女は麒麟に杖を向ける。
「決めます……【サンダージャベリン】!」
スパークを纏う投槍は麒麟に突き刺さり、激しく放電した。
こうしてエクストラボス【ダテンキリン】は、五人のプレイヤーの連携攻撃に敗れたのだった。
……
「皆さん、ありがとうございます……お陰様で私も、ユニークスキルを得る事が出来ました」
そう言って微笑むのは、蒼銀の髪の少女。攻略最前線に立つ美少女プレイヤーとして名を馳せる、レンだ。その頭には青色のリボンが装備されており、両手には扇子が持たれている。これが、今回のユニークアイテムだ。
ちなみにこの扇子は鉄扇で、畳んでいる際には《刀剣》としての性能を持つ。つまり、鉄扇でありながら刀でもあるのだ。
これが今回、ジン達がダンジョンを攻略した理由である。
ジンが発見した、掲示板に書き込みのあったエクストラクエスト情報。誰かがこれを攻略する前に、自分達で攻略しようというものだった。早い者勝ちである、諸行無常。
その傍らには、着物の上にメイド風エプロンを身に纏った美女が立つ。その装備はヒメノと同型の改造着物で、名前は≪新緑の衣≫……そう、ユニークアイテムだ。
トップスと緑色のスカートが基本となっている。そのスカートの長さは、ヒメノの物よりも長めだ。
更には和風衣装の上に、メイドエプロンを装備。エプロンとスカート以外は、ヒメノと同型である。≪戦鬼の飾り布≫は、腰の後ろでリボンとして装備していた。
この和風メイドさんが誕生したきっかけは、言うまでもないだろう。生産大好きハワイアンおじさんの仕事である。
ちなみにシオンが、和風メイドの装備製作を依頼した理由。それはレンが、ジン達三人と行動を共にする事を願っているが故である。
ほらほら、お嬢様? 私も和風メイドですよ? お嬢様も和風衣装を作って貰いましょうね? という無言の圧力もとい、シオンなりの意思表示だ。あと、単純に着てみたかった。
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ユニークスキル【神獣・麒麟Lv1】
説明:動くこと雷霆の如し。
効果:INT+50%。他のステータスを-50%。
習熟度が向上すると、新たな武技を習得する。
魔技【術式・陣Lv1】
説明:属性を選択し、半径5メートルにINTと魔法性能を強化する陣を展開する。性能の強化内容は属性毎に異なる。
効果:消費MP5。詠唱破棄。効果範囲内に、INT+10%。
Lv2 【術式・符(未習得)】
Lv3 【祈祷(未習得)】
Lv4 【術式・剣(未習得)】
Lv5 【術式・散(未習得)】
Lv6 【聖域(未習得)】
Lv7 【術式・輪(未習得)】
Lv8 【術式・衣(未習得)】
Lv9 【神楽(未習得)】
Lv10【神獣・麒麟(未習得)】
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装飾品≪神獣の飾り布≫
効果:INT+10、MP+10。
スキル:【自動修復】
武装≪伏龍扇≫
効果:INT+10。この装備は≪刀剣≫と≪杖≫として扱う。
スキル:【自動修復】
武装≪鳳雛扇≫
効果:INT+10。この装備は≪刀剣≫と≪杖≫として扱う。
スキル:【自動修復】
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麒麟なのに青色がイメージカラーなのは、おかしい? これはスキルオーブとアイテムを取得した際に、レンがある事に気付いたからだ。スキル取得時に、モチーフカラーが選択できるのである。
流石はユニークスキルのスキルオーブ、痒い所に手が届く。そう思いつつ、レンは自分の髪色よりも少しだけ濃い青を選択。デフォルトの黄色だと、何だかアンバランスに思えてしまったからだ。
麒麟なのに青はおかしい? 某ワットの某七星の秘書という、前例が居る。だから良いじゃないか。
「これで三つ目のエクストラクエスト攻略ですね!」
「掲示板の情報にも、目を通すべきと痛感しました。ジン様、ご助言に感謝致します」
礼儀正しくお辞儀をするシオンに、ジンは苦笑気味だ。
「拙者がクエストの事を知る事が出来たのは、偶然でゴザル。また、何かあれば報告するでゴザルよ」
正誤はともかく、情報収集は重要だ。ジンはエクストラボスと初めて戦った後から、様々な情報を得ようと掲示板等を見ているのだ。最も見るのは攻略スレッドであり、ジン達が話題に上る雑談スレッドはスルーしていた。
そんな中、もう一人の少年……ヒイロが声を上げた。
「あれっ? 皆、このクエスト情報を見てくれないか?」
ヒイロに促され、他のメンバーもヒイロの開いたシステム・ウィンドウに視線を落とす。それは、先日攻略した[巨兵の安置所]でスキルを手に入れたという書き込みであった。
「お? これって……【酒呑童子】と似たスキル?」
記載があったのは、シオンの【酒呑童子】を劣化させた様なスキルだった。その名も【ガードスター】だ。
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スキル【ガードスターLv1】
効果:VIT+5%、他ステータス-50%。
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「VITの上昇が5%と、他ステータスの下降50%……ですか」
「しかも、武技や魔法が無いですね」
情報掲示板に記載があったスキルは、デメリットはそのままにステータスのみの変動であった。それでも、最大強化で+50%は大きい。だがシオンの【酒呑童子】と違い、武技も魔技もない。完全な劣化版スキルである。
「まぁ……劣化版が存在するのも、想定内です」
ユニークスキルの恩恵は、それを超えるモノである。レンは自分のユニークスキルを手に入れられたので、精神的な余裕があった。
「それにしても、よく盾持ちプレイヤーがあのダンジョンに挑みましたね……」
そんなレンの言葉に、ジン達は首を傾げた。
「それは、どういう意味でゴザル?」
「ゴーレム系のモンスターは、VITが高いでしょう? 物理攻撃で倒すのは厳しいんですよ……本来なら」
「はい、普通は魔法職が相手をします。殆ど盾職の出番が無いのです」
確かにゴーレムはどいつもこいつも硬かったと、ジンは頷く。実際、戦闘は基本的にジンとヒメノが進めていた。ヒイロは採掘が中心であった。
「そういえば[魔獣の洞窟]も、すばしっこいのが多かったでゴザルな……それに、このダンジョンも魔法を使うモンスターばかり……おや?」
この中で、全てのエクストラクエストを体験しているジン。口に出して、ある点に気付いた。
「そういう事……ですか」
それ即ち、自分と同じステータスが高いモンスターで溢れるダンジョンにエクストラクエストがある……という事だ。
「確かこの付近には、攻撃力が高いモンスターばかりが出現する[巨獣の住処]というダンジョンがありますが」
四人の視線が、ヒメノに向かう。
ヒメノとしては、やはりエクストラクエスト攻略の報酬は欲しい。レンとシオン、そしてジンと同じになれる。それに、STRに全てのポイントを注ぎ込むヒメノだ。STR特化のユニークスキルは、彼女のプレイスタイルにおいてプラスになる。
だが、それを口に出すのは躊躇われた。エクストラクエストの連続攻略ともなれば、パーティメンバーの疲弊度も心配である。自分のワガママに、皆を付き合わせて良いものか……それがヒメノには、気掛かりだった。
しかし、誰もが同じ事を考えていた。
「ヒメは昔からそうだな、もう少しワガママ言っても良いんだよ?」
「ヒメノさん? 私の攻略に付き合って下さった、そのお礼がしたいのですが」
「ヒメノ様、お嬢様もこう仰っております」
ヒイロは慈愛に満ちた表情で。レンは笑顔で嘯いて。シオンはいつものクールな表情だ。そしてジンは……ヒメノの要望に沿った忍者ムーブで。
「ヒメノ殿……さぁ、どうするでゴザル? 拙者も、とことん付き合うでゴザルよ」
そんな四人の言葉に、ヒメノは申し訳無さそうに……しかし、温かな言葉に感謝の念を込めて言葉を紡ぎ出した。
「え、えっと……出来れば、行きたい……です」
ヒメノがそう言うと、四人は笑顔で頷いてみせた。
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■プレイヤーネーム/レベル
【ジン】Lv12
■ステータス
【HP】72/72≪+10≫
【MP】21/21≪+10≫
【STR】10【-50%】≪+10≫
【VIT】10【-50%】≪+10≫
【AGI】37【+60%】≪+30≫
【DEX】10【-50%】≪+10≫
【INT】10【-50%】≪+10≫
【MND】10【-50%】≪+10≫
■スキルスロット(3/3)
【短剣の心得Lv4】【体捌きの心得Lv4】【感知の心得Lv2】
■拡張スキルスロット(3/3)
【九尾の狐Lv3】【刀剣の心得Lv3】【分身Lv1】
■予備スキルスロット(3/5)
【毒耐性(小)】【採掘の心得Lv1】【投擲の心得Lv2】
■装備
≪闇狐の飾り布≫HP+10、MP+10【自動修復】
≪夜空の衣≫全ステータス+10【自動修復】
≪初心者のポーチ≫収納上限50
≪大狐丸≫AGI+10【自動修復】
≪小狐丸≫AGI+10【自動修復】
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■プレイヤーネーム/レベル
【ヒイロ】Lv17
■ステータス
【HP】82/82≪+15≫
【MP】26/26
【STR】22≪+3≫
【VIT】25≪+8≫
【AGI】15≪+3≫
【DEX】15≪+2≫
【INT】10
【MND】10≪+8≫
■スキルスロット(3/3)
【長剣の心得Lv5】【刀剣の心得Lv2】【盾の心得Lv4】
■予備スキルスロット(3/5)
【盾の極意Lv1】【体捌きの心得Lv2】【採掘の心得Lv1】
■装備
≪ユージンの和風装束≫MND+3
≪ユージンの飾り布≫MND+1
≪ユージンの具足≫VIT+3、HP+5
≪ユージンのパンツ≫MND+2
≪ユージンのブーツ≫AGI+3
≪冒険者のポーチ≫収納上限80
≪ユージンの打刀≫STR+3、DEX+2
≪大騎士の大盾≫VIT+5、MND+5、HP+10
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■プレイヤーネーム/レベル
【ヒメノ】Lv16
■ステータス
【HP】80/80≪+10≫
【MP】25/25≪+5≫
【STR】45≪+1≫
【VIT】10≪+3≫
【AGI】10≪+3≫
【DEX】10≪+3≫
【INT】10
【MND】10≪+6≫
■スキルスロット(3/3)
【弓の心得Lv5】【刀剣の心得Lv1】【狙撃の心得Lv1】
■予備スキルスロット(1/5)
【採掘の心得Lv1】
■装備
≪ユージンの和風装束≫MND+3
≪ユージンの飾り布≫MND+1
≪ユージンの弓具足≫VIT+3、HP+5
≪ユージンのスカート≫MND+2
≪ユージンのブーツ≫AGI+3
≪冒険者のポーチ≫収納上限80
≪狩人の大弓≫STR+1
≪狩人の矢筒≫装填上限30
≪ユージンの短刀≫AGI+2、DEX+3
≪桜の髪飾り≫HP+5、MP+5
―――――――――――――――――――――――――――――――
■プレイヤーネーム/レベル
【レン】Lv23
■ステータス
【HP】94/94≪+20≫
【MP】32/32≪+30≫
【STR】10【-50%】
【VIT】15【-50%】
【AGI】15【-50%】≪+1≫
【DEX】15【-50%】
【INT】34【+50%】≪+50≫
【MND】15【-50%】≪+10≫
■スキルスロット(4/4)
【火魔法の心得Lv6】【水魔法の心得Lv6】【回復魔法の心得Lv5】【神獣・麒麟Lv1】
■拡張スキルスロット(3/3)
【杖の心得Lv4】【雷魔法の心得Lv4】【風魔法の心得Lv4】
■予備スロット(4/5)
【土魔法の心得Lv3】【補助魔法の心得Lv2】【合成魔法Lv2】【刀剣の心得Lv1】
■装備
≪魔導のワンピース≫MND+3、HP+10
≪神獣の飾り布≫HP+20、MP+20【自動修復】
≪導師のローブ≫INT+5、MND+2
≪冒険者の靴≫AGI+1
≪冒険者のポーチ≫収納上限80
≪鳳雛扇≫INT+20【自動修復】
≪伏龍扇≫INT+20【自動修復】
≪精霊の指輪≫INT+5、MND+5、MP+10
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■プレイヤーネーム/レベル
【シオン】Lv22
■ステータス
【HP】92/92≪+20≫
【MP】31/31≪+20≫
【STR】20【-50%】≪+20≫
【VIT】25【+55%】≪+60≫
【AGI】15【-50%】≪+20≫
【DEX】10【-50%】≪+20≫
【INT】10【-50%】≪+20≫
【MND】22【-50%】≪+23≫
■スキルスロット(4/4)
【盾の心得Lv6】【槌の心得Lv5】【刀剣の心得Lv2】【酒呑童子Lv2】
■拡張スキルスロット(0/3)
■装備
≪新緑の衣≫全ステータス+20【自動修復】
≪戦鬼の飾り布≫HP+20、MP+20【自動修復】
≪冒険者のポーチ≫収納上限80
≪鬼斬り≫VIT+20【自動修復】
≪鬼殺し≫VIT+20【自動修復】
≪守護の首飾り≫MND+3
―――――――――――――――――――――――――――――――
巨獣狩りじゃーっ!! とばかりに、ダンジョンへ突入したジン達。早速のお出迎えはデフォルト仕様、一つ目の巨人がその行く手を阻むように現れた。
「このモンスターは【サイクロプス】というモンスターです」
「あ、有名なやつでゴザルな」
とは言え、このサイクロプス……別に、目からビームは出ない。通せんぼしてきたサイクロプスは、丸太の様な太さの棍棒を持っていた。
――みんな丸太は持ったな!! 行くぞぉ!!
そんな台詞を言っていても違和感が無い様子で、棍棒を手に駆け寄るサイクロプス。残念ながら、彼は一匹で現れたのだが。一つ目の上に、一人ぼっち。
そんなサイクロプスだが、AGIオバケのジンの前では歩いているも同然。
「参る……【一閃】!!」
その大きな目玉に、ジンの【一閃】が叩き込まれる。その一撃はクリティカルが発動し、サイクロプスのヘイトを稼ぐ事に成功。ジン達の、いつもの攻略スタイルだ。
――目がぁ~! 目がぁ~!
そんなバ○スでも喰らったかのように、目を抑えて痛みに悶え叫ぶサイクロプス。何だか可哀想になってきた。ちなみにこれは、ダメージを目に食らった時に発生する特定の挙動である。
――目を狙うなよ! 目を! 卑怯だぞ!
ダメージから回復すると、そう言わんばかりにサイクロプスが丸太を振るう。人間よりは速度が遅いものの、その巨体故にリーチがあるサイクロプス。普通に丸太を振るえば、相当な脅威だ。
しかし、ジンはそれを避けた。避けて避けて、避けていく。
――丸太が当たらねぇ!!
そう叫んでいるかのように、サイクロプスは忌々しそうに咆哮を上げた。
ジンがひたすらに攻撃を回避する中、ヒメノが強く矢を引き絞る。
「【フレアショット】!!」
STRに全てを注ぎ込んだヒメノの一射はサイクロプスの頭部を貫き、HPを一気に半減させた。
「【ファイヤージャベリン】」
そこへ、レンによる魔法攻撃の追撃。哀れサイクロプスの出番は、一分程度という短い時間であった。
無論サイクロプスは、本来ならばもう少し苦戦する相手だ。高い攻撃力と俊敏性を持つ、強敵なのである。丸太もあるし。
しかし、相手が悪かったと言わざるを得ない。ジン達のパーティは、バランスが良過ぎだったのだ。回避盾が一人に、盾役が二枚。攪乱と防御をしている隙に、物理攻撃特化と魔法攻撃特化のダブル主砲が火を噴くのだ。
並大抵のモンスターでは、このパーティを止めることは適わない。
……
STRが高いモンスターが、次々と襲い掛かるが……どいつもこいつも拳で語るか、鈍器を振り回すかのどちらかだ。それでは、AGIに全てを賭ける忍者を捉える事は適わない。疾きこと風の如くである。
そして、ヒメノとレンの攻撃も冴え渡っていた。どちらかの攻撃が当たり、どちらかがトドメ。それが幾度となく繰り返されていた。
主砲二人の隙を突こうとモンスターが襲い掛かれば、ヒイロとシオンがカバーする。
こうして五人は順調に、ダンジョンの奥へ奥へと進んで行くのだった。
そうして進むと、ヒメノは明らかに不自然な壁を発見する。
「あそこに、他とは色が違う壁があります……」
それはSTRが規定値以上であり、全ステータス中で最もSTRが高いプレイヤーにのみ見付けられる変化だ。
「そこに、祠がありそうですね」
シオンの言葉に、他のメンバーも頷く。
「ヒメノ殿、やってみるでゴザル」
「はい、ジンさん!」
ヒメノは弓矢を構え、そして放つ。しかし、矢は見えない何かに弾かれてしまう。
「あら?」
レンの時は魔法ですんなりと破壊できたので、ヒメノの矢が弾かれてしまった事に首を傾げる。
「VITの時みたいに、特定の武器じゃないと駄目なのか?」
「それなら、これで!」
ヒメノは腰の短刀を抜き、構える。
「【一閃】!!」
しかし、その攻撃も見えない何かによって弾かれてしまった。
「私のステータスが、足りないのでしょうか……」
「ここの壁でゴザルな? ふむむ……拙者には、ただの壁にしか見えぬでゴザル。触ってみてどちらがより硬いとか、そういう見分け方は出来るでゴザルか?」
「え、えーと……どうでしょう?」
ジンの問い掛けに、ヒメノは律義に応じる。違和感のある壁と、ただの壁を触り比べてみた。
「感触では、特に見分けは付かないかと……」
そんな二人の様子を見ていたレンが、ある事に気付く。
「……あの、ヒメノさん。触れられています、今」
そう。ヒメノの手は確かに、壁に触れているのだ。
「本当……ですね。触れています」
「つまり……武器では無く、素手で攻撃すれば良いのではないでしょうか?」
レンの推測に、ジン達は納得した。どうやら、このダンジョンの祠に辿り着く糸口が見えたのだ。
「それなら、ヒメノ様。こちらをお使いになっては如何でしょう」
シオンが差し出したのは、スキルオーブだ。
「先程倒したモンスターからドロップしていました。【体術の心得】というスキルオーブです」
「ダンジョン内でスキルオーブがドロップするようにしているとは、意外と親切設計でゴザルな」
「そうでしょうか? 壁のカラクリに気付いても、これがドロップするまで巨獣を狩らなければならないのですが……」
そう言われると、心折設計に思えて来る。巨獣は本来、難敵なのだ。運営の悪意が見えるようだよ、マリィ。
「ヒメノ様、どうぞ」
「あ、ありがとうございます! 後で、お支払いしますね?」
「いえ、構いませんよ。その代わりに、ヒメノ様にも私のクエストなんかのお手伝いをして頂くという事でどうでしょう?」
「……?」
シオンの言葉に、ヒメノは首を傾げる。
「あの、シオンさんのお手伝いするのは当たり前なのでは?」
「もしかして、ヒメノ様って天使か何かですか?」
メイドムーブ中なシオンの、クールメイドの仮面から素の表情がひょっこり顔を出してしまった。そんなシオンに、ヒイロとジンがウンウンと頷いている。わかりみ。
そんな様子を見て、レンは頭痛がして来たような気がするのだった。ヒメノの天使っぷりは、レンも認めているが。恐るべし一撃必殺天使巫女。
―――――――――――――――――――――――――――――――
スキル【体術の心得Lv1】
説明:体術の習熟度を示す。習熟度が向上すると、新たな技能を習得する。
効果:武器を用いない攻撃時、STR+2%、DEX+2%、AGI+2%。
武技【ナックルLv1】
効果:拳による打撃攻撃。攻撃時、STR+1%。武技発動後、再使用まで10秒。
Lv2 【キック(未習得)】
Lv3 【ワンツービート(未習得)】
Lv4 【ハイアングル(未習得)】
Lv5 【ストレートスマッシュ(未習得)】
Lv6 【ソニックウェーブ(未習得)】
Lv7 【アッパーカット(未習得)】
Lv8 【サマーソルト(未習得)】
Lv9 【ナックルラッシュ(未習得)】
Lv10【キックインパクト(未習得)】
―――――――――――――――――――――――――――――――
シオンから手渡されたスキルオーブを使用して、ヒメノは【体術の心得】を会得した。
「それでは……いきます!!」
なんとなく、拳を構える。
「【ナックル】!!」
勇ましい声のヒメノなのだが、腰が引けていた。喧嘩もした事が無い、か弱い乙女なのだから無理もない。
しかし、それでも効果はあった。壁に罅が入り、崩れたのだ。
「おぉ、やった!」
「当たっていた様ですね。良かったです」
「ヒメノ殿、やったでゴザルな!」
「おめでとうございます、ヒメノ様」
四人に祝福され、ヒメノは微笑みを浮かべた。とても可憐な笑顔なのだが、その直前にワンパンで壁を破壊しているのを忘れてはならない。
……
「やはり、火でござったな」
「やっぱりね、そうだよね」
ジンとヒイロの当初の予想通り、STRは“火”だった。したり顔で頷く二人に、女性陣は苦笑してしまう。
「“侵掠すること火の如し”ですね。これで後は、エクストラボスを倒すだけです」
「はい。どの様なモンスターが現れるでしょうね」
「まぁ……でかいのは間違いないですよね」
祠を後にする五人は、ダンジョンの最奥……ボス部屋を目指す。
すると、背後から声が聞こえた。
「おぉっ!? 何だ、あの壁!?」
聞こえてきたのは、男性の声だった。
「……済みません、ちょっと顔を隠します」
「私もそうさせて頂きます、お気になさらず」
レンは目深にフードを被り、シオンは素早くシステム・ウィンドウを操作してヘルムを被る。メイド服に、ヘルム……。
「何だこりゃ、祠か?」
「ふむ、他のダンジョンでは見た事が無いな。少し、調べてみようか」
「待って、【ケイン】。あそこに他のパーティが居るわ……少し、話を聞いてみない?」
やって来たのは、三人組のパーティらしい。男性二人、女性一人のパーティだ。
「ケイン……そう、あの方達ですか」
ボソッと呟くレンに、ジン達は視線を向ける。
「正式サービスが始まる前、ベータテストの頃です。攻略最前線のレイドパーティに参加していたパーティですね」
「最もレイドリーダーのパーティと方針が合わなかった様で、私達も同行したのは一度限りでした。まぁ、悪い人達では無かったとは思います」
シオンとレンの言葉に、三人は警戒を緩める。しかし、二人は顔は隠したままにする気らしい。
そうこうしていると、鎧騎士姿の男性がこちらへ向けて歩いて来た。
「失礼、良かったら話を聞かせて貰いたいんだけど……少し、時間を貰えないかな?」
穏やかな声色で話し掛けて来る、黒髪の男性。彼がパーティリーダーだろう。赤い重厚そうな鎧が、一段と目を引く。
「解りました、俺が話を伺います」
一歩前に出るのは、ヒイロだ。レンとシオンは正体を明かしたくない様だし、それならば自分が矢面に立つのが良いという判断だ。
そういう部分は、ヒイロらしい。そんな背中にレンが好意を滲ませた視線を向けているのだが、背中を向けているヒイロはそれに気付かない。
「ありがとう。俺の名前はケイン、レベル21の前衛剣士だ」
他の二人は名乗らないが、それはこちらとしても丁度良かった。レンとシオンが正体を隠したい様子なので、自分だけが名乗る流れは好都合だ。
「俺は、ヒイロといいます。ケインさんと同じく、前衛の剣士です……まだ、レベルは17ですが」
レベルの差はあれど、同じ前衛のプレイヤーだ。ケインはヒイロに好意的な視線を向ける。
「自己紹介ありがとう。同じ前衛同士、仲良くして貰えたら嬉しいな。それで、差し支えなければ教えて欲しいんだけど……あそこにある祠について、何か知っている事はあるかな」
祠……それはユニークシリーズを手に入れる為のエクストラクエスト、その起点となる場所だ。
正直に、これから自分達がエクストラクエストを攻略する事を話すべきか? それとも、お茶を濁すか? ヒイロは、判断に迷う。
そんなヒイロの心情を慮ったジンが、その横に並んで肩を叩く。
「ヒイロ、拙者はヒイロの判断に従うでゴザル」
ジンの口調にケインが片眉を上げるが、余計な事は口にしない。
そんなジンとヒイロを見て、後ろに下がっている女性陣からも声が掛けられた。
「私も、ジンさんと同じ気持ちです」
「ヒイロ様、思うままにどうぞ」
「お兄ちゃん、私達もお兄ちゃんの判断を支持します」
――責任重大だな。でも……。
肩にのしかかる重さと同時に、ヒイロは心強さを覚える。仲間達からの信頼が、こそばゆい。ジンやヒメノだけではなく、レンやシオンも自分を信頼してくれている……その事が、素直に嬉しかった。
そして、ヒイロは考えを巡らせる。先程のレンとシオンの反応から、悪い人物達では無いのだろう。
熟練のプレイヤーというのならば、一つ渡りを付けておくのは悪い判断ではないと思う。それに、恩を売っておくのも今後の方針を決める際、何かの役に立つかもしれない。
意外と打算的な判断も出来るヒイロは、決断を下す。
「解りました。俺達が知っている情報を、お話します」
―――――――――――――――――――――――――――――――
スキルオーブ【?????】
説明:侵掠すること火の如し。
効果:??????
―――――――――――――――――――――――――――――――
付与魔導師に引き続き、ネタキャラにされるサイクロプスさんェ……。
2022/5/29、ユニークスキル【神獣・麒麟】取得時に、設定でカラーリングが選択可能である点を追記。




