アルト、魔王への気持ち
「ねえ有人、今日の帰り良いかしら?」
大学の講義が終わり、帰ろうとする有人を呼び止める。
いつもの様に軽く接したいけど今日はダメ、
自分で分かるくらい真剣な目になっちゃう。
「良いけど2人で?」
「うん2人っきりで」
「愛花、それって...」
有人は赤い顔をしている。
今日は大学に杏と霞は居ない。
有人は私から告白をすると思っているのだろう。
私もそうだったら嬉しいんだけど。
「私のマンションに来て。
今日霞は杏のマンションに泊まりだから」
「うん!」
有人は元気に返事をした。
なんて可愛いいの?
もう本来の目的なんかどうでもよくなってしまいそう。
「じゃあ姉さんに電話するね」
有人はポケットから携帯を取り出す。
私とお揃いで買ったスマホ、といっても私達5人みんな同じ機種なんだけど。
「大丈夫、雫には連絡してあるから」
「え?」
驚くよね、あんなに過保護な雫が有人のお泊まりをアッサリ許可してるなんて。
でも本当に許可は貰っている、雫だけには。
「それじゃついてきて」
「はい」
手を差し出す。
有人はおずおずと私の手を握る。
有人の少し汗ばんでいた。
懐かしい感触、アルトはよく私の手を握ってくれた。
異世界で私の手を...
「嬉しいな」
「有人?」
「こうして愛花の手を握って歩けるなんて」
嬉しそうな有人。
そういえばアルトの手を握った事はあったが、有人とは無い。
ただの一回も無い。
霞に遠慮していたんだ。
彼女の辛そうな顔がちらついて...
「どうしたの?」
「...ううん」
有人は心配そうに私を見る。
どうした私、そんな事で目的を果たせるの?
首を振り雑念を払おうとする、でも頭の中は霞が、異世界でのミザリーが頭を離れなかった。
今日は杏の事だけにしよう。
仕方ない、2人同時に聞くなんて耐えられない。
有人が、アルトの記憶から彼女達の事をききだすなんて...
「どうぞ」
「...おじゃまします」
有人を部屋に上げる。
キョロキョロする有人。
女性が住む部屋が珍しいのかな?
でも有人は雫と杏の3人で暮らしてるし。
「さあ座って、今紅茶を淹れるから」
「ありがとう」
モジモジする有人の可愛いい仕草に先程までの苦しい気持ちが解けていく。
やっぱり有人は最高だ!
「はい」
紅茶を有人に勧める。
美味しそうに飲む有人。
でもね、ただの紅茶じゃないんだ。
雫から貰った特性の品。
相手の深層心理に入り込める秘薬...
10分後、有人の目が閉じた。
眠っている訳じゃない。
今有人からアルトに変わって行ってる。
私の魔法では見る事が出来ない、アルトの記憶に。
「...アイカ?」
「有...アルト」
アルトは静かに目を開けた。
間違いない、この目は有人じゃない、懐かしいアルトだ。
「俺は何故アイカと?
確か魔王を倒して消えたんじゃ...」
今アルトの目に映るのは私だけ。
対象物以外何も認識していない。
「...会いたかった、アルト会いたかったよ!
急に死んじゃうなんて、どんなに寂しかったか!」
私はアルトを抱き締める。
今は小さな身体のアルトだけど、そんなのは些細な事。
「すまない、あれしか方法が無かったんだ...」
苦笑いのアルト。
もうアルトにしか見えなくなっていた。
「でもどうしてアイカが?
さっきも言ったが俺は暗黒世界に落ちた筈だ」
「女神様が一時的だけど、魔王と離して特別に」
「シルコゥ様が?」
「そうだよ」
嘘は言ってないよね。
「それじゃ俺はまだ暗黒世界に居るのか?」
「それは...うん」
『違う!今アルトは有人として私の世界に転移している!』そう叫びたい気持ちを必死で堪える。
それを言ってたらアルトの記憶が閉じてしまうからだ。
「寂しく無かった?」
「ああ」
私の言葉にアルトは頷く。
自然に、違和感は感じられない。
「それって魔王が居たから?」
「どうしてそれを?」
驚いた表情を浮かべるアルト。
知ってるよ、150年間魔王...杏と魂が引っ付いていた事は。
「ねえ杏...魔王ってどんな人だった?」
質問には答えずアルトに尋ねた。
魔王は人じゃないけど、細かい事は良いよね。
「どんなって」
良い澱むアルト。
そんな不安そうにしないで。
「だって長い時間一緒に過ごしたんでしょ?」
「...そうだな」
何かを思い出す様にアルトは目を瞑る。
この世界に来た時、アルトは異世界の記憶は失っていた。
私の事や魔王と戦った事、そしてミザリーの事も。
「悲しい奴だった」
「悲しい?」
「誰からも愛されず、運命に翻弄された女。
過酷で悲しい運命を生きて...」
アルトの言葉は客観的だが、それだけでは無い物を感じた。
「魔王を助けたい?」
「何を言うんだアイカ!」
アルトは怒りを滲ませる。
勘違いしたかな。
「そうじゃないよ、魔王はもう死んだんだから」
「そうだったな、俺と一緒に」
「...アルト」
やっぱり言いたいよ!
今アルトは私の世界に居る事を!!
「どうやって魔王を助けるんだ?」
「それは...」
いよいよ佳境、この時が来た。
「...魔王を愛せる?」
「は?」
理解出来ないよね、私だって意味分かんないよ。
「だからアルトは魔王を愛せますか?」
「それは....」
アルトは激しく悩む。
見ていて苦しくなる程に。
「...出来ない」
長い沈黙の後、アルトは声を絞り出した。
「俺には出来ない。
どんなに魔王が悲しい運命を生きて来たとしても。
長い時間俺に安らぎをくれた事には感謝する。たが、出来ないんだ。
魔王だからとか、人類の敵だからとは関係ない。
俺は裏切りたくないんだ」
「それって...アルト...」
「...アイカ、君が好きだから」
「アルト!」
アルトをもう一度抱き締める。
もう止まらない私は激しくアルトに口づけた。
「愛してる!愛してるよアルト!!」
涙が流れる。
初めてのキス。
異世界では叶わなかったアルトとの...
「アルト?」
アルトの様子が変だ。
どうしたんだろ?
静かに目を閉じて...寝てるの?
「時間切れね」
「雫?」
いつの間にか雫が私の後ろに立っていた。
「時間切れって、まだそんなに」
「かなり精神を消耗したみたいだからね。
でも良かったわね」
「何が?」
「アルトの気持ちが聞けて」
「う...」
見ていたのか、この女神いい趣味してるな。
「そんなに睨まないの。
で、どうする?」
「うん...」
雫は真剣な目になる。
アルトの気持ちは分かった。
でも杏は助けたい。
けどアルトは杏を抱く事は無いだろう、私も耐えられない。
「方法は考えましょ。
今日はこのまま有人を寝かせてあげて、明日まで目が覚めないでしょうから」
「はい?」
せっかくアルトが泊まるのに、これ以上は何も無いの?
「魔法で起こそうとしても無駄よ、あのお茶はそういう物だから。
明日になれば、アルトとして話した事は全部忘れてるし」
「なんだって?」
せっかくアルトから告白を受けたのに、目覚めたら忘れてるだと!?
「いいじゃない、愛花が忘れなきゃね。
さあ行くわよ」
「行くって?」
「私のマンションよ、早く帰らないと杏と霞が起きちゃうじゃない」
「分かったわよ」
仕方ないので、有人を私のベッドに寝かせ、書き置きをする。
[紅茶にブランデーが入ってました。
ごめんなさい、私は雫のマンションで泊まります。愛花]
お酒に弱い有人だから大丈夫だろう。
「...もう一回」
可愛いい寝顔の有人に口づける。
「ああ!!」
後ろで雫の声がした。




