29話 「ノクティス、配下が出来る」
「とまあ、私達を置き去りにして仲良くやるのは結構です。
しかし、ソルムグさん。
本当に貴方の能力は貴方の思い通りになるので?」
「おでにもわがんねえけんど……。
でも、今だって腹がたっでるまんまだ。
おでの能力は、おでの怒りに任せて全部を壊そうとしてただ。
それは、いげねえから。
巨人と一緒になっぢまうがら。
ずっと怒りが増幅されてるような気がしてたけんど、ふざげるなって、おではそんなにゃなりたくねんだって、ずっと抵抗してただ。
そんで、さっき。
誰かがおでの角ば殴ったべ?
そん時に、能力が少し怯んだだ。
その隙を縫って、何とか身体の自由を取り戻しただよ」
「では、完全に大丈夫とは言いきれないのですか……」
「んだ、すまねぇ……。
だけど、何とか自分で制御するだ。
皆にごっつぅ迷惑かけぢまっだがらな……」
「あァ、そうだ。
てめェは、色ェんな奴に迷惑かけたんだ。
だからその分、誰かの役にたてェや。
それが、罪滅ぼしッてェこッたぞ」
フェンネルは、下を向いて鼻を啜るソルムグの背をばしんと叩き、鼓舞する。
それにソルムグは、「あんがどな……、あんがとな……」と深く何度も頷いて応える。
二人の友情に、他人の付け入る隙間はないらしい。
ノクティスは、ウルリーカとリビアのいる方へ近付く。
そして、話し声がソルムグとフェンネルに聞こえないように、口元を手で覆う。
「あの二人、どうしますか?
放っておくのも危険な気がしますし、許可なく連れていくのも駄目な気がします。
ですので、私はお二人の判断に任せようと」
そうノクティスが言うと、リビアが明らかに面倒くさそうに、えーと声を出す。
そして、そだ! と何かを思い出したように手を叩き、ニヤリといたずらな笑みを浮かべた。
「ちょっとそれは無責任じゃナイ?
あたしは、ノクティスの意見が欲しいナァ?」
「……私も」
ウルリーカも、リビアの意見に便乗するように賛同する。
ノクティスは、じゃあと言って間をおき、二人を指差して口を開く。
「私の配下、ということにしますかねぇ。
二人とも自分の意見はないのでしょう?」
ノクティスは二人の発言の虚を付いた。
それにリビアは苦い顔をする。
ウルリーカの方は、顔は伺えないが同じような顔をしているに違いない。
「んぐっ……それは盲点だった。
流石クズの国……ゲフンゲフン」
「やっぱり、ノクティスは卑怯ネェ?
本当にクズの国……ゲフンゲフン」
「いやいや、何故罵倒されなければいけないのですか?
それに、――――国に関しては触れないで頂きたい。
貴女方が、そんな軽率に口に出して良いものではないのでね」
ノクティスの表情が急に変わり、真剣な目付きとなる。
冷たーい、氷のように冷えた視線。
それにたまらず、リビアは空気を和ませようとする。
「イヒャヒャ、怒ると禿げるゾォ?」
キィン、と実際には聞こえない音が、リビアには聞こえた気がした。
それは、ノクティスがリビアの方を向き、目を細めただけであった。
そして、リビアは思った。
(メンドくさいナァ……。
ノクティスは、ほんっとうに絡みが怖いんだよネェ。
どこに地雷があるか分かったものじゃないヨォ……)
ノクティスとなるべく目線を反らし、リビアは悪態をつく。
しかし、それさえもノクティスに聞こえている気がした。
何か怖いので、何も考えないことを決める。
「じゃあ、決めましたから。
決め方は、貴女方に勧められたから、で良いですよね?」
「……それは」
「はい、分かりました。
じゃあ、このまんま村まで行きますか!」
(話を……話を聞いてぇ!)
珍しく、ウルリーカが無言のツッコミをした。
多少強引であったからか、わなわなと震えて声を出したいのを我慢している。
それでも話さないのは、理由があるのか。
横からそれを眺めるリビアは、気になって仕方がなかった。
だが、また地雷を踏んでしまいそうなので、彼女もぐっとこらえる。
爪の跡がくっきり残るくらいに手を握って。
「ノクティス……だっけか?
ほんッと、迷惑かけちまッてすまねェ。
勿論、後ろのガキんちょもだ」
フェンネルは、慣れていないのか頭をわしゃわしゃと掻き、しどろもどろに礼を言ってくる。
その後、軽く頭まで下げてきた。
いかつい見た目とは裏腹に、意外に彼は礼儀正しかった。
俗に言う、ツンデレって言うものなのかもしれない。
そして、フェンネルとソルムグの様子を見て、三人がそのまま動かないでいると、
「あァ、俺様達ャあもう大丈夫だぜェ?
もッすぐとんずらすッからよォ」
と話す。
「いえ、私の配下として付いて来て貰います。
それに、ソルムグさんの事もありますし、大丈夫ではありません」
「な……!?
いッくらなんでもそりャあねェだろォよ!
何で俺ッ様がおめェの配下に……」
「そうですか。
では、この場で私達全員を倒してから行きなさい。
それならばこの場は切り抜けられるでしょう。
、、
まあ、仮に貴方が私達を倒せたとしても、ルシオ様には敵わないでしょうね。
フフッ、さぁどうしますか?」
ノクティスは、挑発的な言葉でフェンネルを畳み掛ける。
それに対してフェンネルは、もろに頭にきているようで、ごろごろとした獣の唸り声のようなものを、喉の奥から発する。
「悔ッしいが、いッくら俺様でも三人を相手取るッてェのは厳しいぜェ……。
俺様ァ今すぐこの場から離れてェが、そんならしゃァねェな。
こいつが、能力をきッちんと使いこなせば解放してくれんだよなァ?」
「勿論ですとも。
まあ、ルシオ様が駄目と言ったらそれまでですが……。
そんなお方ではありませんからね」
「よし、んッじャァ頼む……ぜ!?」
フェンネルががぶりと舌を噛み、うっすらと血を滲ませた。
そして口を押さえ、悶絶する。
その原因は、地面の揺れ。
波打つように大地が震動し、大気をも震わせていく。
それは、悪夢の前兆のようで――――。
否、それは悪夢の前兆そのものであった。
辺りを、太陽を塞ぐ大きな影が覆い、飲み込んでいく。
それは、影を作り出す者がそれほど大きいという事を示していて――――。
「何…………あれは?」
ウルリーカはその正体を確かめるべく、フードを指先でまくる。
そして、やり場の無い嫌悪感を言葉に込めて解き放つ。
「「巨人……ッ!」」
リビアも血色の悪い唇を噛み、憎しみを全面に出して言葉を紡いだ。
それは、誰にとっても良いものではないのだろう。
巨人。
その存在は、如何に。






