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25話 「現代 不可思議な光景」

三人は、ルシオの配下。

ルシオに言われて死龍王の手先を倒し、今まさに村へと向かっている最中であった。

「それにしても、一体何があったンだろうネェ?

 こんな騒がしくなるなんて、あのお方の配下になったからだろうかナァ?

 イヒ、イーヒャヒャヒャヒャ!」


 少女は、耳元まで裂けそうな勢いで口から下劣な笑いを辺りに響かせた。

 だが、誰が反応するわけでも無く、何秒か後には砂を踏み締める音を除いて、静寂が戻ってくる。


「イヒャ?

 …………」


 それがつまんないと言うのか、少女はちぇっと舌打ちして髪を弄(もてあそ)ばさせた。

 そして、その手で隣にいる青年に触れようする。


「リビアさん、そのような事はお止めになってはどうでしょう?

 それでも勝手をすると言うのなら、せめて私に迷惑をかけないで下さりますよう。

 私はまだ、ルシオ様の側でお仕えしたいですからね」


 青年は、さっと上半身を反らして少女の手から身を離すと、睨み付けるように言う。

 それは、彼女……リビアの行動により害を被るからという理由ではない。

 ルシオとの約束を守りたいからだ。


「……二人とも、騒がしい。

 少しは……静かにして」


 そんな二人の会話に割り込むように、薄いローブを羽織った少女が注意をする。

 目には光がなく、声色もぶれる様子がない。

 まるで、人形のようだ。


「それはリビアさんが…………ウルリーカさん、何ですかその目は!?」


 青年はリビアを指差して言い訳をしようとするが、ウルリーカは冷たい目で見つめる。

 偶然にもその目とぴったり目を合わせてしまった青年は、微妙な気分になった。

 なんかこう……負の感情が伝わってくるような。


「はいはい、分かりましたよ。

 それより何より、あの死龍王という者は何者だったのでしょう。

 全く、どこにでもああいった変人はいるものですが……。

 明らかに異彩を放つ存在でした」


「ん……でも、不思議。

 あの人は……悪い人じゃない気がする。

 それこそ、一度嗅いだことがあるような懐かしい匂いがするの……」


 ウルリーカの顔は、ローブのフードに隠れて伺えなくなった。

 だが、歩く度にちらりと見えるような見えないような微妙なラインを攻めてくる。

 どうせなら、完全に見られないように仮面でも付ければ良いのに……。

 と青年が思ったのは内緒だ。


「で、あたしらが向かってンのって何処だっケェ?」


 はぁと青年が溜め息を吐き、視界をくるりと回した後に額に手を当てて目を閉じた。

 いかにもあきれたという素振りだ。

 考えるのを諦めたのか、リビアに視界を向ける。


「私達が向かっているのは、この先にある鳥獣族(ウィンデン)の村ですよ。

 何度言えば良いんですかぁ?

 もう……」


「でも、全然そンなのは見えないよネェ?

 ノクティス、これはもしかするともしかして、通り過ぎてるンじゃナイ?」


「そ、それは…………きっとこの先にあるんですよ!

 それこそ、このレザロンの大砂漠の角(すみ)に!」


 と言いつつ青年ノクティスは周りを見渡すが、村どころか木だって生えていない。

 そろそろ、レイズの大森林が恋しくなってきた頃合いでもある。

 水分も摂れない極限状態の中、冷静にしているのはウルリーカだけとなったのも、理解がしやすいと言うものだ。


「……それは有り得ない。

 さっき見かけた、猪狂族(オーク)の行列……。

 多分……あの先に村があったんだと思う」


 ノクティスは、え?

 という疑問と驚きを同時に顔に出す。

 ああぁ……と気分を沈ませながら、息を吸う。


「何故それをもっと早く言わないんですか!

 しばらく歩いているせいで、もう戻る気力なんて無くなりましたよ……。

 ですので、いっそのことこのまま進みましょう?

 何か発見があるかもしれないですしね」


 ノクティスは、戻るのが面倒なら進めば良いと考えた。

 その意見に、二人も頷く。

 二人も若干面倒だと考えていたのだろう。

 ウルリーカは、それにと話を付け加える。

 

「……それにしても、段々空気に含まれる魔力量が増えてきてる。

 ……ん、これは……骸?」

 

 ウルリーカは、砂の下に埋もれてしまった竜の骸を見つけた。

 軽く足で周りから砂を払いながら、骸を観察する。

 恐らく、死龍王に関わるものだろうと予想をつけて。


「ウルリーカさん、何かありましたか?」


 ノクティスはしゃがみこんで、地面から出ている部分の骸を見る。

 特に変わった所は無いようだが、ウルリーカは目を離さない。

 そしてもう一度骸を見ると、元々眼球がはまっていただろう場所の空洞に違和感を感じる。

 黒く何もない…………のが通常。

 だが、そこには赤い光が灯っていた。


「な、なんと……。

 まさか、まだ魂が消滅していないのでしょうか?」


「……恐らく。

 ……だけど、それだけだとこの空気に含まれる魔力量に関する説明がつかない……。

 他に原因がある……はず」


 ウルリーカは視線を骸から移す。

 最早、骸を敵として求めていないのだろう。

 いや、警戒はしているがそこまで心配するものではないと言ったところだろうか。

 そして、その視線は一点に定まった。


「……来る!

 二人とも備えて……」


 ウルリーカはそう言うなり、ローブの内側の腰に指している細剣を抜く。

 それを見た二人も、戦闘体勢をとって構える。

 だが、それでも遅かった。


「うがぁぁぁぁ、ぬううぅんっ!」


 かなり前方……ノクティス達の前方から、野太い男の声が聞こえた。

 と思ったら、重力を無視したように地面と平行に白骨化している骸が迫ってくる。

 それはバラバラと途中で何度か砕けて、最早原形を留めていない。

 だが、その勢いが物体に触れればどうなるかなど明白だった。


「生きがいいネェ!」


 リビアはそれを見逃さずに、予め地面に仕込んでおいた植物の種を発芽させる。

 それは、瞬く間も無いほどに急激に細胞分裂を繰り返す。

 そしてノクティス達に衝突する前に、骸をグシャッと粉々に打ち砕いた。


「ツタ……。

 髪の毛に付着させている毒といい、本当に怖い能力ですねぇ。

 助けてくださった事には感謝しますが、その力を私に向けることの無いよう」


 ノクティスは風に舞う骨紛を眺める。

 そして、本当にやめて欲しいという切実な思いを胸に、真剣な物言いで話した。


「さあネェ?

 それより、まだまだ来てるヨォ!」


 気になってふと遠くを見れば、確かにそこには横に並んで移動している骸がいた。

 撤退したと聞いたのだが、どうなっているのだろうか。

 その周りに死龍王らしい影はない。


 リビアはそう言うと、何もない右手をぎゅっと握る。

 その後にそっと力を弱めて開くと、そこには複数の植物の種らしき物があった。

 恐らく、ノクティスが言うようにこれが彼女の能力なのだろう。


「さあてと、行っくヨォー!」


 右手にある種を放ると、左手も握って種を作る。

 しばらくそれを続ければ、あっという間に彼女の無双領域の完成だ。

 足を一歩でも踏み入れたが最後、胴を貫かれて即死だろう。


「……ん、違う。

 もっと大きくて、黒いの……」


「ウルリーカさん?

 具合が悪いのなら、後ろに下がって……」


 ノクティスがウルリーカを心配して横に足を踏み出した瞬間、元居た場所をなにかが通り抜けた。

 その正体を確かめるべく後ろへ振り向くと、辺りに骨紛が散らばっていた。

 恐らく、また何者かが骸を投げてきたのだろう。

 だが、今回はなにも気配を感じなかった。

 

「ほーらほら、ぼけーっとしてないでネ!」

 

 どんとツタに背を押されると、またしても砲弾の如く骸が通り抜ける。

 気を付けねばなるまい。

 そう考えて、ウルリーカをまず戦闘から離脱させようと手を掴もうとした。

 が、手は振り払われた。


「……駄目だよ。

 もうそんなことしちゃいけないよ……」


「え?

 何を言っているんですか?」


 ノクティスの心配を他所に、ウルリーカは駆け出す。

 その速さと言ったら、目で追うことが出来ない程。

 そんな速さでも、更に加速していく。


「あーもう……、あたしらにチームワークって無いわケェ?

 もう少し固まって動こうヨォ!」


 リビアは自分とノクティスの身体にツタを巻き付かせると、ウルリーカの走っていく方向にぶん投げた。

 

「行動が速い……ていうか、速すぎますよ。 

 自重が無いのは、私達の良いところなのか悪いところなのか。

 考えても仕方がありませんけどね!」


 スタっと革靴らしい音を発てながら、ノクティスは着地した。

 リビアはというと、ツタに巻かれたまま種を振り撒いていた。

 確かに必要な前準備だが、もうすぐそこに敵がいるのに呑気な気がしないでもない。


「さてと、私も始めましょうか!」


 ノクティスは、漆黒の執事服の内側に手を入れる。

 そして刹那、時が止まった。

 魔物の軍勢の手前まで瞬間移動したかにも思える所業をなし、服の内側に隠していた投擲ナイフを一匹一匹の脳天を狙って大量に投げつける。


「ふうむ……。

 これだと投擲ナイフが足りませんねぇ。

 私の大切な一張羅が汚れてしまうので、近接は嫌だったのですが……。

 仕方がない、ですか」


 今度は腕を上にあげ、袖を下ろす。

 そこから出てきたのは、刃長二十―三十センチメートルのクリップポイント、しっかりしたダブルヒルトを持った大型の鞘付(シース)きナイフ。

 腕に布を巻いて、その隙間にナイフが挿入されていた。

 しゅるっと布を片手でほどき、両手に一つずつ抜き身のナイフを握る。

 

「ハッ!」


 ザッと地面を蹴り、またしても五十メートルほどの距離を一瞬で埋めた。

 そして、ジグザグと骸の間を縫うように進みながら、垂直に振り下ろすようにして的確に破壊していく。

 あまりの瞬殺っぷりが、心地よくなるぐらいに凄かった。


 うちもらした、というよりノクティスの攻撃範囲外の敵はというと、やはりリビアのツタに貫かれて粉々に破壊されていた。

 なので、心配する必要は無いだろうとウルリーカを追いかける。


「待って下さい!」


 ノクティスは、戦闘による緊張によって乾燥した口内が痛むのも恐れず、大声をあげる。

 ノクティスも自身の能力をフル活用して追いかけるが、それでも間に合わない。

 そもそも、ウルリーカは骸に対して手を下してはいない。

 だが、それでも周りの骸達は破壊されていく。

 こんな理不尽な者に、追い付けるわけがないのだ。


「ああもう……。

 本っ当に面倒です!」


 ノクティスはジャキッとナイフの刃を横にスライドさせ、扇のような形にする。

 さらに、そのナイフとナイフの間からは、無数の投擲ナイフが飛び出す。


「邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔ぁ!」


 ウルリーカに向かって一直線に走り、その範囲上にいる骸はサッと扇がれた扇状のナイフから出る投擲ナイフによって粉砕される。

 まだ骸は飛んでくるが、問題なくナイフを突き立てて叩き割っている。

 そうしても、時間が経てば経つほどに二人の距離は離れていく。

 さらに、骨粉によって視界が白く染まっていく。


「ああ、これでも追い付けないと言うのですか……。

 あなたは、一体どれ程の力を内包しているのでしょう。

 フフフフフッ、ハーッハッハッハッハッハッハッハッ!」


 顔に喜色を浮かべながら凶器を振り回すその様は、正に戦闘狂であった。

 そして、ウルリーカも対面することとなる。

 我を忘れた、暴走する戦闘狂と。

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