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23話 「過去、その4」

「さて、本題に入りましょうか。 

 何故貴方がここに居るのか。

 そして、何故このようなことをしているのか。

 大変興味深いです。


 ――――が、この世界で多くの命を無意味に奪った事で、貴方はこの世界の脅威となりました。

 よって、一国の元首足るこの私、アルドランド・ペンドラゴンが断罪いたしましょう」

 

 アルドは丁寧にお辞儀をすると、腰に下げている剣を抜く。

 しかし、その剣は丁度半分辺りで折れている。

 アルドはその事を気にする様子もなく、巨人に向かって構える。

 そして、剣の穂先から柄の部分になぞるように指を這わせる。


「保護(プロテクション)」


 アルドが言葉を紡ぐと、剣が青く輝く。

 すると、剣の折れ目から先が青い光で形成される。

 それは宝石のように計算された輝きを放ち、一言で言うと美しかった。

 

「輝剣(アロンダイト)の導きの下にぃっ!」

 

 アルドは超人的な跳躍力で身体に跳び移り、巨人の頭部目掛けて走る。

 すると、今まで動かなかった巨人が反応した。

 蝿(はえ)を払うようなしぐさでアルドを叩き落とそうとするが、輝剣で上手く弾きながら疾走する。

 肩まで行くと、首を足場に空中で一回転しながら巨人を切りつける。


「裁きを」


 目にも見えぬ速さで巨人を滅多切りにし、左半身は完全にただの肉塊となる。

 しかし、あまりの速さに巨人の方も理解が追い付いていないようだ。

 少ししてから、右手で左手のあった部分を押さえて叫ぶ。


「ンガァァァァァァ!!」


 巨人の傷口から、止めどなく滝のように血が流れ出るが、その最中にも少しずつ再生していく。

 速さはそこまでではないが、異常なまでの自己回復力の高さだ。

 自分がああなったらと思うと、ぞっとする。


「苦しんでいる場合じゃありませんよ?

 貴方の贖罪は、まだ終わっていませんからね」


 巨人の頭に乗っているアルドは、輝剣を垂直に突き刺した。

 だが、巨人はアルドを狙って頭の上に手を伸ばす。

 脳という概念が無いのか、脳を使用していないのか。

 どちらにせよ、頭が急所とならない事は判明した。


 アルドが輝剣を引き抜くと、巨人が叫ぶ。

 

「ンガァァァァァァ!!」

 

 先程アルドが滅多切りした左半身は、五分の一ほど再生。

 それでも、アルドは諦める様子がない。

 その態度は、淡々と仕事をこなしているだけ、と言わんばかりに無表情で感情がこもっていない。


「聞いた通りです。

 貴方の存在は、この世界の機構(システム)そのものだと」


 ファサッ。

 アルドは、地面に着地する。

 かなりの高所から飛び降りているのに、なんとも滑らかな身のこなしだ。

 少しの砂埃もたてること無く、すっと立ち上がる。

 

「しかし、存在を消すことが出来ないならば封印してしまえばいい。

 そう私達は考えました。

 そして今、勇者様方が封印の用意をしておられます。

 ですので、貴方の残り少ない時間を使い、贖罪を果たしなさい!」 


――――ドゥゥゥゥゥゥン。


 直後、アルドを中心として爆風と轟音が発生する。

 吹き飛ばされそうになったセズイだったが、具現化した剣を地面に突き立て、何とかこらえる。

 もくもくと立ち込める砂埃が晴れると、巨人の拳をアルドの輝剣(アロンダイト)が受け止めていた。

 時間が経つにつれて、輝剣により巨人の拳が血肉を撒き散らす。


「これだと勝負になりませんね。

 それでは、ハンデを付けましょう。

 私は、貴方の攻撃を全て防御せずに受け止めます。

 その代わり、貴方は贖罪のためにその身を用いて天に詫びなさい!」


 アルドは受け止めていた拳をすらりとかわし、巨人の腕に跳び乗る。


「ンガァァァァァァ!」

 

 アルドは、剣でめったやたらに身体を切りつけながら、巨人の全身を走り回る。

 巨人は、身体の大きさ故に俊敏な動きは出来ない。

 そのため、走り回るアルドには手が付けられず、自身の身体を痛め付けることで終わる。


「おーい、アルドくーん!

 そーこまでにしてくれないかなぁーあ?」


 一人の男が、森の中から巨人に向かって走ってくる。

 何も獲物は持っていないので、戦闘は出来ないのだろう。

 服装は、有り得ないほどの軽装だ。

 大きく手を振りながら、アルド、アルドと名前を叫ぶ。


「まだこの者の贖罪は終わっていません。

 いくら貴方と言えど、それを怠るのは死者への冒涜です。

 故に、幾らか時間を頂きたく……」


 アルドは、そこで話すのをやめた。

 男の膨らんでいく気配に圧倒されたからだ。

 目の前にいるように思えるが、実際には距離が離れているという具合に。

 

「いいか小僧。

 今この瞬間も、この世界には助けを求めているやつがいるだろう。

 俺ってのは何人もいるわけじゃねえ。

 だから、手を貸せる奴にも限りがあんだ。

 その貴重な時間を、満足に生きてる奴には使いたくねえ。

 俺が助けてえのは、本当に困ってる奴だけだ。

 だから、死んだ奴をどーのこーの言ってんじゃねえ!

 もうどこにも居ねぇんだよ。

 助けたくても、手を伸ばせねんだ。

 そうなる前に問題を解決出来るのが、本当の<勇者>だと俺は思ってる。

 

 最初はこんな事やりたくなかった。

 傷付いた者を見続けるなんざ、心苦しくてしゃあねえ。

 だけど、今は生き甲斐を感じてる。

 自分が助けた奴が、幸せそうに笑ってて。

 他愛も無い話をして。

 そうやって生きてんだよ。

 気付けばこんなにおっさんになって、婚期も逃しちまった。

 それでも、俺は他人に満足出来る人生だとはっきり言える。


 それに、お前のやってることはただの暴力だ。

 贖罪でもなんでもねえ、そいつの罪をお前が被っているだけ。

 偽善者ほど醜い物はねえぜ?

 だから――――、今すぐどきやがれ」


 男は、アルドに向かって一方的に話す。

 本当は、ただどけろと言うだけで良かったのかもしれない。

 しかし、男は逢えて自分の過去をさらけ出して話したのだ。 

 アルドを納得させるために。 


「分かりました……」


 アルドは、渋々巨人から降りて着地する。

 そして、セズイはその一連の光景を眺めていた。

 二人の実力は彼の遥かに上であるために、話すのを躊躇したのだ。

 攻撃している様も、呆然として眺めていた。


「やっぱり俺がよええから……。

 強ければ、エマだってああさせる事は無かったのに」


 セズイは、悔しさを唇を噛んで紛らわせる。 

 そして、不意に周りの温度が下がってきていることに気付き、異変を覚えた。


「エマが居るのに、全然暑くねえぞ?

 おい、エマー!」


 出来るだけ大きな声で呼び掛けをするが、どこからも反応がない。

 『炎魔人(イフリート)』を使用している状態なので、炎がメラメラと赤く燃えているはすなのだが、そのような影は見えない。

 

「暴走したのか!?

 だから駄目だって言ったのによ……」


 セズイは頭を抱えて塞ぎ込んだ。

 暴走した状態では、エマを止める事は不可能だ。

 自我を失えば、ただ殺戮を繰り返す者となるから。


 そして、このままだとエマを手にかけなければいけなくなる。

 一方的とはいえ、最後にした約束だ。

 内容は不服だが、破るのは気がひける。

 

(心配は要らないのであるぞ。

 あの者はこちらで保護しておるからな!)


 そうどこかから声がする。

 誰にも話していないのに、聞こえる訳がない。

 セズイは幻聴が聞こえて来たのだと一度は思ったが、いやはやまだそんな歳ではない。

 疲労によるものかとも思ったが、精霊融合(メタモルフォーゼ)している風花が意識内で話しかけてくる。


(セズイ様、先程の声は決して幻聴などではありませんよ。

 あれは、古代龍アルヴァス様です。

 お聞きになった事はあるんじゃないですか?)


(古代龍アルヴァス……。

 平和を語る、魔族の異端児であるかの魔王、シモン・リトホルムに唯の友と言わせた古代龍か。

 だが、その実力は大した事無いと聞いたぞ?)


(いいえ、アルヴァス様は…………やはり、まだやめておきます。

 然るべき時に、全て分かるでしょうからね。

 それより、振り返って自分の目で確認して下さい)


 早く早く!

 と風花が急かすため、仕方無く振り返る。

 面倒だが、確かにこの目で確認して損はないだろう。

 本当に古代龍アルヴァスであればだが。


「へ?」


 それを見た瞬間、思わず腑抜けた声が出てしまった。

 そこに居たのは一人の少女と少年。

 しかし、少女は透明な球状の水晶のような物を胸の辺りに持っていた。

 

「初めましてなのです。

 私は、風精霊(シルフ)を取りまとめているエリアーヌです。 

 そして、私の後ろに居るのは配下の旋風です」


 エリアーヌがそう言うと、旋風という者がペコリと頭を下げる。


「私が持っているこれは、アルヴァス様の魂を封じた<個人的聖域>という名の寄り代です」


 エリアーヌは大事そうに球(たま)を擦(さす)り、そっとセズイの方に球を差し出してくる。

 受け取る訳にもいかず、遠慮しながら球を観察する。


(エマと言ったか?

 その者の事なんだが……)


 アルヴァスの声が聞こえる度に、球がチカチカと点滅する。

 しかし、慣れているのかエリアーヌと旋風は平然としている。

  

「どうかしたのか!?」


(巨人と共に、封印をすることとなった。

 勿論、心の声であるが本人にも了承はとった)

 

「エマが、何で一緒に封印されなきゃいけねんだよ!」


(巨人を封印するために張る結界は、そこらの物と全く別でな。

 結界を維持するために必要な魔力の供給源が、封印対象、又は術者となっているのが一般的だ。

 しかし、あれほどの者を封じ込めるとなると、当然要求される魔力量も増える。

 あれを魔力の供給源とすると、魔力が尽きて結界が破られた後、何が起きるか分からない。

 そのため、術者である我が供給源となるべきなのだが……)


「出来ねえと?」


(すまぬ、その通りだ。

 我は精身体さえも失ったため、魂からしか魔力を練り出す事が出来ん。

 しかし、魂から魔力を練り出すということは、死期を速める様なものなのだ。

 我は魂のみで活動をしているため、魔力を回復できない。

 それ故、助けを乞うたと言うわけである)


「助けって……。

 お前は何とも思わねえのかよ!」


(勿論、申し訳無く思っとる。

 しかし、あの者は望んだのだ。

 この手で誰かを傷付けるくらいなら、死にたいと。

 だが、それは我が止めた。

 死んでは何にもならんからな。

 そこで、あやつは言った。

 この命が誰かの役に立つのなら、自由に使ってくれと)


「それじゃあ、あいつが自ら封印されに行くってのか?」


(ああ、そうであるが?)


「――――お前、どんな神経してんだよ……。

 あいつはあいつなりに悩んでたんだ。

 能力を使いこなせないから、落ちこぼれだって。

 自分は命を奪うことしか出来ないのかって。


 それでも、毎日練習してたぜ?

 木を灰や木炭にして、火力を調節したり。

 暴走しないように魔力の流れを抑えてみたり。

 時には、俺と精霊融合(メタモルフォーゼ)をして力の調整をしたり。

 それなのに……。

 お前は何にも知らないくせによぉ……」


 アルヴァスと実際に口に出して話しては無いが、セズイの目から涙がポロポロ出てくる。

 拭っても拭っても、滝のように止まらない。

 雨が降ってるわけでも無いのに、セズイの真下の地面は濡れていく。

 

(あの者は、何を言っても考えを曲げないであろう。

 例えそなたが言ったとしてもな)


 分かっていたが、痛かった。

 現実を目にすると心が痛む。


「止めれない……。

 それなら、俺もその濁流に飛び込んでやるさ。

 どんなに不純物が混じってても、一つ一つ取り除いてやる。

 どんなに流れが速くても、それより速く泳いでやる。

 あいつが困ってんなら、それくらいやってやる。


 だからアルヴァス。

 俺を、――――――――――――」


 セズイは決意を固める。

 旗から見れば間違っていても、彼にはそれが答えだから。

 答えを求めるために必要なのは、それまでの道のりを作ること。

 彼は、その道のりを作ろうと決めたのだ。


(構わぬが、それでいいのか?

 後悔することになるかもしれ

「いい。

 俺はそれを望む。

 あいつが望んだのなら、俺だって望んで良いんだろ?

 それに、見過ごす方が後悔しちまうからな。

 頼んだぜ、アルヴァス!」


(フンッ、そなたも変人よの。

 人の言葉を遮ってまで、と言っても我は古代龍であるが、メリットなど無いのにそこまで人に尽くす姿勢は見事だ。

 しかし、身を滅ぼすでないぞ?

 このことに関してはよろしく頼まれたであるから、安心せい!

 グワァーハッハッハ!)


 アルヴァスが笑う度に、球が悲鳴を上げている。

 キーーーー、キーーーーなんていう具合に。

 正しい表現があるかもしれないが、今はこれでいい。

 その方が、沢山歩けるだろうから。

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