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転生幼女は騎士になりたい  作者: ジャジャ丸
第四章 王立学園入学
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第七十九話 相思相愛(?)の婚約者

 王都、フォンタニエ。

 ストランド王国最大の都市であり、王族の家であり国政の中心でもある城や、この国の軍事力の象徴たる王国海軍の主力艦隊が常駐する港、それにこの国唯一の学園など、数多の重要施設が存在する街だ。

 しかし、港に辿り着いた人間は、そうした施設の存在より何より、街の発展ぶりそのものを見て舌を巻くことだろう。


「……私、知らない内に未来にタイムスリップでもしましたかね?」


 だから、リリィが船から降りるなりそうして呆けてしまったとしても、仕方ないのだ。


 隙間なく敷き詰められた石畳の道、これはいい。

 整然と並ぶ区画整理の行き届いた町並みも、スクエア侯爵領の領都であればまだ見ることは出来る。

 だが、道の要所要所に設置された鉄の棒は、もしや外灯なのだろうか? 先端に取り付けられた魔水晶は今のところ何の現象も起こしていないが、前世で散々見られたそれとよく似ている。

 極めつけは、工事中と思しき倉庫の中を、材木を運ぶために移動している運搬車のような物体である。

 そう、車だ。足は遅く徒歩程度で、見た目は完全に四角い箱そのものだが、トロッコのように連結された荷車を引くそれは紛れもなく車である。

 いきなり時代を百年単位ですっ飛ばしたかのような文明の利器の数々に、リリィだけでなくヒルダやカミラさえも驚きを隠せないでいた。


「別に、未来でもなんでもないよ。あれは魔導車、最近出来たばかりの乗り物で、まだ試験中なんだ。足は遅いけど、馬車よりもずっと維持費は安く済むし、馬力もあるから、こういう物資の大量運搬に向いてるよ。三年前にマリアベルと作った魔道具の技術を使って作ったんだ」


「マリアベルさんと作った時の技術ってことは、これってもしかしてこれって……」


「うん、ランターン商会(うち)の商品だよ。公爵家からの要望で、馬車に代わる次世代の陸路運搬車両が欲しいってさ」


 軽い調子で説明するルルーシュに、リリィはもう開いた口が塞がらない。

 船に続いて、まさか自動車産業(と言えるかはまだ微妙だが)にまで手を出していようとは。

 上手く行けば、濡れ手に粟どころではない、文字通りボロ儲け出来るだろう。何せ、前世の世界でも国一つを支えてみせた一大産業なのだから。


「なんというかもう、ルル君、順調に出世していきそうですね……卒業する頃には伯爵くらいになってるんじゃないですか?」


「いや、陞爵ってそんな簡単にホイホイされないからね?」


「ホイホイされそうなくらい凄いってことですよ」


「……そう、ありがと」


 リリィにそう言われ、ルルーシュは照れたようにそっぽを向く。

 相変わらず可愛らしい姿にくすりと笑みを溢すと、ルルーシュは更に顔を赤くした。


「~~っ、ああもう、行くよ! 今日中にはみんなで寮に入って、明日の入学試験に備えないといけないんだから!」


「はーい」


 大声で無理矢理話題を変えて誤魔化すルルーシュに、リリィだけでなくマリアベルまで思わず吹き出す。


 ともあれ、あまり笑っていては話が進まないということで、自領から持ち込んだ荷物はそれぞれカミラやスクエア家の使用人に任せ、リリィ達は王都の中心にある学園に向かう。

 子供達だけで手続きは大丈夫かと思ったが、事前に入学する旨は伝えてあるし、何かあってもルルーシュが対応するから大丈夫とのことだった。


「へー、学園って、特にクラスで別れてたりするわけじゃないんですね」


 その道中、初対面のヒルダとルルーシュ、マリアベルの自己紹介を終えた後、これから入学する学園について、詳しい説明をルルーシュがしてくれることになった。

 どうやら事前に調べていたらしく、兄や姉が実際に学園に通っているリリィやマリアベル、それに卒業生の兄を二人持つヒルダよりも詳しい。

 ほうほうと、興味深そうな声を漏らすリリィに、ルルーシュは頷く。


「うん、一応、課外授業なんかはその時の成績で班分けされたりするけど、基本的に貴族の学校だからね、五年制と言っても実際は二、三年で卒業資格は得られるし、その辺りは結構緩いよ」


 王立学園は、基本的に貴族全ての入学を奨励しているが、家庭の事情などにより入学が遅れたり、あるいは卒業が長引いたりというのも珍しくない。

 なので、学園のカリキュラムは最初からかなりの余裕を持たせて作ってあり、生徒達は一年のスケジュールから自分が参加する科目を自由に選び、最終的に必要な単位が取れていれば進級・卒業できるという仕組みらしい。


 入学する年齢は十歳からだが、なんだか大学みたいだ、とリリィは思った。


(前世では、大学まで上がる前に死んじゃいましたからね……夢のキャンパスライフ、楽しみです)


 この世界に来て十年、前世で今も生きていたと仮定するなら、とっくに大学を出て働いている頃だ。

 かつての友人達はそれぞれの夢を叶えられたのだろうかと、想いを馳せる。


(茜ちゃんは実家の服飾店の店員さん、土筆ちゃんは図書館の司書さんでしたね。剛毅君は夢なんてないとか言ってましたけど、ちゃんと見つかったでしょうか?)


 一つ思い出せば、そこから連鎖的に彼ら彼女らとの思い出が甦り、寂しさが込み上げてくる。

 これから、かつて卒業を迎えられなかった学校に通うことを意識したからだろうか? どうにも、溢れる涙を堪えられなかった。


「ちょっ、リリィ、どうしたの!?」


「リリアナさん!?」


「あはは、ごめんなさい、なんでもないんです」


 慌てて涙を拭いながら、リリィは誤魔化すように手を振った。

 確かに、彼らと二度と会えないというのはどうしようもなく辛いが、今はそんな寂しさを埋めてくれる、新しい家族や友達がいるのだ。

 こうして心配してくれる人達がいる限り、自分は大丈夫だ。


(だからみんな、元気でね)


 次々と浮かんでくる思い出の山を、大切に胸の内に仕舞い込む。

 そうすれば、またいつものように笑うことが出来た。


「まあ、長い船旅で疲れたんじゃね? 今日は早く寮に入って休むんだな」


「そうですね。さあ、ルル君、マリアベルさん、そんな顔してないで、早く行きましょう!」


「あ、ちょっとリリィ、君は学園までの道知らないでしょ!!」


 先行しようとするリリィを、ルルーシュが追い掛ける。

 いつも通りの元気そうなその姿に、結局はルルーシュも、その涙の理由を聞きそびれるのだった。





 王都の作りは、王城を中心に放射状に広がっていくような形になっている。

 城から順に、貴族街、平民街、貧民街などと呼ばれているが、貧民街は内陸側にしか存在せず、南端の港は平民街という扱いだ。

 このような区切りが存在すると、もっとも分かりやすく表しているのが、それぞれを繋ぐ道に設置された関所だろう。

 平民街に入るには通行料がかかり、貴族街に入るには特定の貴族家の紋章か、それが捺印された紹介状が必要になる。

 要するに、貴族家の一員か、貴族家に身分を保証された者しか入れないわけだ。

 当然、貴族が通うフォンタニエ王立学園もまた、貴族街にあるのだが……。


「こら、そこの子供、ここから先は貴族街だ、平民は立ち入り禁止だぞ」


 他のみんなはすんなり通されたにも拘わらず、なぜかリリィだけ止められてしまった。


「私も貴族ですよ!? ほら、これ、アースランド家の家紋です! 見えませんか!?」


「アースランド……? そんな家あったか?」


「うーん、聞いたことあるようなないような……」


「えぇぇ!?」


 大木を背景に、杖と剣が交差したアースランドの家紋を見せるのだが、いまいち反応が鈍かった。

 一応、大戦の英雄が興した領主家なのだが、どうもオルトスの名や、彼が叙爵されたことは知られていても、具体的にどの地でどのような家名を与えられたのかはあまり知られていないらしい。


 もっとも、相変わらずリリィが貴族の人間に見えないというのも理由の一つだろうが。


「ちょっと待っててくれ、今家紋の一覧を持って来る」


「はーい……うぅ、しばらく待ちぼうけですね」


 ルルーシュの話によれば、貴族街に入った後も、巡回の衛兵に出くわした時や、学園の敷地に入る時などに同じような手続き――普通なら、家紋を見せるだけで済む流れがあるそうなので、下手をすれば毎回足止めされるかもしれない。


「仕方ないです、私はここで待っているので、みなさん先に行ってください」


「え? でも、リリアナさん一人じゃ学園までの道が分からないんじゃ……」


「人に聞いて回れば何とかなりますよ。それより、マリアベルさんこそずっと船酔いでダウンしてたんですから、早く寮に向かって休んだ方がいいです」


「でも、それはリリアナさんだって……」


 リリィの提案に、マリアベルは渋い表情を浮かべる。

 根が優しい彼女にとって、友人を置いて先に行くなど考えられないことなのだろう。

 しかし、結果が見えている調査のために待ちぼうけというのも少々微妙だ。


「なら、ランターン男爵家の名で通して貰っていい? この子、僕の婚約者だから」


「ふむ、そうなのか? まあ、そういうことなら許可しよう、通ってもいいぞ」


 そこで、ルルーシュがリリィの手を取って提案すると、存外あっさりと衛兵からの許可が降りた。

 要するに、貴族だと確認が取れる人間が身分を保証すれば通ってもいいのだから、婚約者というのは十分な証明になるのだ。

 もちろん、それ用の書類は書く必要があるのだが。


「ありがとうございます、ルル君」


「別に、本当のことなんだからこれくらい苦労でもなんでもないよ」


 関所を後にしたリリィはルルーシュにお礼を言うが、いつものように軽く流される。

 相変わらずの態度に微笑んでいると、ふとそんな二人を見ていたヒルダが口を開く。


「ていうか、お前ら二人って仲良いなとは思ってたけど、婚約してたんだな。どこまでやったんだ?」


「へ? どこまでってどういうことですか?」


「そりゃあ、どこまで進んでるのかってことだよ。キスくらいはしてるのか?」


「ぶっ!?」


 一切飾らず直球で問いかけるヒルダに、ルルーシュは噴き出し、関係ないはずのマリアベルは顔を赤くする。

 貞操観念の強固な時代、そうみだりに男女が接触することはないのだ。


「ああ、そういうことはしてませんねー」


 一方、当事者であるはずのリリィは平然としたもので、しれっとそう答える。

 未だに婚約者=将来の家族程度にしか思っていないリリィ、キスをしたことがあるかないかなど、家族の裸を見たことがあるかないか程度の感覚でしか受け取っていないのだ。


「そうなのか? なんかうちの親父がさ、たとえ政略結婚だろうと恋愛結婚だろうと、そういう関係だってことをちゃんと周囲にアピールしとかないと、側室とか押し付けられて面倒だって言ってたぞ」


 だからつけ込む隙がないって思わせるために毎日いちゃついてるんだ、と暑苦しい程に熱々な両親に言われて育ったのだと、ヒルダは少々辟易としながら言う。

 言ってはなんだが、ルードヴィン男爵家は武門の家だが、それ以上でも以下でもない凡庸な家柄なので、わざわざ側室を押し付けようなどとする家はほとんどない。

 要するに、彼女の父親が言うそれは、恐らく愛する妻と公然といちゃつくための言い訳だろうと思われるのだが……その言い分には、頷ける部分がないわけでもなかった。


(ルル君の家、これからもっと伸びそうですしね。ルル君が好きになった子と結婚したくなったのなら私も歓迎しますけど……望まない結婚を強いられる可能性は、減らしておくに越したことはありませんかね?)


 魔導船に魔導車と、これからもっと需要が伸びそうな事業を二つも抱えているランターン商会の今後を思えば、今のうちに結びつきを強め、そのおこぼれに預かろうとする家が出る可能性は高い。

 いや、むしろ、男爵という立場の弱さをいいことに、甘い汁だけ吸い尽くそうというあくどい貴族に目を付けられないとも限らないだろう。

 そう考えると、確かにヒルダの言う通り、偶には婚約者らしいことの一つでもしておいた方がいいのかもしれない。


「んー……ルル君、ちょっといいですか?」


「うん? どうかした?」


 隣を歩くルルーシュに、リリィは一歩近づく。そして、


 ――ちゅっ


 その頬に、小さく口付けした。


「……は? えっ?」


「婚約者らしいことって、こんな感じでいいんでしょうか? あ、そうだ、さっきトビウオたくさん貰いましたし、寮についたら料理して、ルル君のお部屋に持って行ってあげますね!」


「いや、そうじゃなくて。今の、えっ? いや、えっ?」


 混乱するルルーシュだが、リリィは今の行為を何とも思っていないかのようにいつも通りの態度で、手料理について言及しだす。

 何か致命的な認識の齟齬があることは何となく分かるのだが、それを言葉で言い表せない。

 そんなもどかしさから、口をパクパクさせることしか出来ないルルーシュに、リリィは少し先行したところでくるりと振り返り、満面の笑顔を浮かべながら言った。


「ほらルル君、ヒルダさんとマリアベルさんも、早く行きましょう!」


 再び前を向いて走りだしたリリィに対して、顔を耳まで真っ赤にしたまま呆然と固まるルルーシュ。

 そんな二人を前に、ヒルダとマリアベルは顔を見合わせた。


「婚約者って……あんな感じでいいのか?」


「ど、どうなんでしょう……? 一応、相思相愛、なんでしょうか?」


 お互いに好意を向け合っているのは確かだが、微妙に食い違っているようにも見えるもどかしさを前に、僅か十歳ばかりの少女達では、ただ首を傾げることしか出来なかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あっ、これ知識と自覚が身に着いたときに悶絶するやつ…… リリィさんは芸術的な地雷埋設職人(自爆限定)なのですね! [一言] 無自覚なだけにかえって距離が近すぎて誰も入ってこれない関係、実…
[一言] 小学四年生にナニ求めてるんですかねこの世界は。
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