プロップハント 後編
みすずたちは壁際近くの適当な席に座り、荷物を置いて一息ついた。
自動販売機を見れば、飲み物だけでなく軽食まである。
無言で進み出たみすずはフライドポテトとたこ焼きを買って席に戻る。
「半分どうぞ」
「ずいぶんはしゃいだメニューだな……」
「でも美味しいですよ」
雑に強い塩味が少し湿気たポテトによく絡んでいる。
たとえインスタント食品でも、いやインスタントだからこそ得られる多幸感を噛みしめつつ、みすずは言った。
歩き疲れた二人は椅子に沈み込む。胃に食べ物が入ったおかげか、冷静な思考が戻ってきた。
ポテトをつまみつつ、デイブがかしこまった顔で口を開く。
「出口の件は一旦おいとこう。仕事が優先だ」
「ですね……。でもどうしましょう? 依頼人の話じゃ、遊んでいる人たちに呼びかけても相手にされなかったんでしょう?」
二人は揃って考えこんだ。
「やっぱり捕まえるならハンターの方がやりやすいだろうな」
ハンターとは、スポーツに参加している人の内、化けている人を探す者のことだ。依頼者曰く、この建物の中をうろついている姿を何度か見たことがあるらしい。
依頼人自身、何度も捕まえようとしたらしい。そのたびに逃げられ、物に変身されて見失ってしまったとのこと。
「どちらにしても、依頼者が試して無理だったんだから他の方法を考えた方が良さそうですね」
「なら、逃げ道を塞いでしらみつぶしに確認するとか」
「……そもそも、セキュリティの不安があるからやめさせたいだけですよね。逆に言えば誰の迷惑にもならない場所ならやっても良いと思うんです。遺物の管理を信頼できる人に委託すれば――」
みすずは考え込む。できれば全員が納得できる道を探りたい。
「しかし、その話し合いの場を設けるのが難しいんだろう」
なにはともあれ、話し合わなければ問題は解決しない。しかし話し合うためには捕まえる必要があるのだ。
みすずは抑えきれない興奮が滲み出た声で言った。
「やっぱり……狩るしかないようですね」
「依頼を聞いたときからそんなことになるんじゃないかと思ってたよ。でもどうするんだ? 簡単に捕まってくれるわけがないだろう」
「まずは遺物の弱点を見つけましょう。変身する仕組みを突けば見つけ出す手がかりになるはず」
「なるほどな。……見た目が変わるのは光学迷彩じゃあないだろうな。実際に形が変わっているのは依頼人が確認している」
「質量はどうでしょう? 本物と偽物で重さが違うかもしれませんね」
「なるほど。見かけと重さが違うなら、片っ端から持ち上げればわかるかもしれない」
「……他人に化けられるのかな」
「それじゃ化けても隠れられないだろう」
デイブのツッコミを聞いて、みすずは閃いた。
「あ! わかりましたよ。話しかけてみればいいんです!」
「しかし、相手にされないだろう」
「ただ呼びかけるんじゃなくて、変身している物のフリをするんです。マイクとスピーカーをコップに仕込んで適当に置いておけば――」
「同じスポーツを遊んでいる相手だと思って会話してくれる……。なるほど考えたな」
デイブはニヤリと笑った。
みすずが考えた作戦は、変身した人が近づいたときに別室に待機していた人がマイクで呼びかけるというものだ。この方法なら警戒も緩いだろう。
「どう呼びかける?」
「そうですねぇ……」
そこで言葉を切ったみすずは、テーブルに置いてあったポテトを皿ごと顔の前に持ってきた。声色を変えてポテトに成りきってみせる。
「『お前もゲームに参加してるんだろ?』とかどうです?」
「変身しているんなら参加していて当たり前だろう。ここは――」
デイブも腹話術に応じるべく、たこ焼きの皿を顔の前に持ってきて続ける。
「『よう。良いものに化けてるな!』だ」
みすずはフフッと笑う。
「なるほど自然ですね。でも……見つかりそうになったら会話してくれなさそうですね」
「……それ以前に、隠れているやつがどれか見分けられないんだよなぁ。……いや、まてよ」
「なにか思いつきました?」
みすずの問いに、デイブは珍しくいたずらをする子どものように笑った。
「もっと簡単な方法がある」
「おお! なんですか!?」
はしゃぐみすずに、デイブは人差し指を唇に当てて密やかな声で囁いた。
「隠れている人が必ず反応する言葉。なんだかわかるか?」
「必ず? そんなものありますかね」
デイブに合わせ、小声で言ったみすずは首を傾げた。自然と二人は顔を寄せ合っていく。
「自分を見つけた声だよ」
「――なるほど」
それから二人の行動は早かった。テキパキと残ったものを食べ終えて席を立つ。
食堂の出口に向かい、そのまま通路に進んでいく。しかし数歩も進まない内に足を止めた。
「準備は良いか?」
「もちろん」
ニヤリと笑うみすずに、デイブも楽しそうに頷いた。
二人揃って食堂に引き返し、入口で立ち止まる。
「「みつけたぞ!」」
みすずとデイブの声が食堂に反響した。
その余韻の中で、テーブルから落ちるものがひとつだけあった。
小さなスタンドライトだ。テーブルから転げ落ちたそれは、角度を調節するための脚を使って跳ねていく。
「いたいた! ほんとにいた!」
「よっしゃつかまえろ!」
駆け出したみすずとデイブにスタンドライトが捕まるまで、そう長くはかからなかった。
後日、無事に話し合いの場が設けられ、しかるべき会場のもとスポーツ大会として開催されることになった。




