表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ママ友に夫も居場所も奪われるまで  作者: 熊猫ぱんだ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/31

完璧なママ友

 「はじめまして。美月です」


 その一言で、空気が変わった気がした。


 四月。新学期初日の保護者会。教室の後ろに集まった母親たちは、どこかぎこちない距離感で立ち話をしていた。

 その中に、彼女はいた。


 柔らかく巻いた髪に、清潔感のあるワンピース。派手じゃないのに、なぜか目を引く。そして何より、“ちゃんとしている”。


 「真央さんですよね?さっき先生が呼んでましたよね」


 名前を呼ばれて、少し驚いた。


 「え、あ……はい」


 「同じクラスで嬉しくて。うちの子、人見知りで」


 にこっと笑うその顔は、どこまでも自然だった。


 (感じ、いい人だな)


 そう思ったのが、最初だった。

 帰り道、一緒に歩いていたママが小声で言った。


 「ねえ、さっきの人すごくない?」


 「え?」


 「ほら、美月さん。もう何人とも連絡先交換してたよ」


 振り返ると、確かに彼女は人の輪の中心にいた。笑って、うなずいて、相手の話を丁寧に聞いている。

 まるで、最初からそこにいたみたいに。


 「すごいね……」


 思わずそう言うと、


 「でしょ?ああいう人って、すぐ中心になるんだよね」


 どこか含みのある言い方だった。

 家に帰ると、夫の健太がリビングにいた。


 「どうだった?保護者会」


 「うん、普通かな。でもね——すごく感じのいい人がいて」


 「へえ、美人?」


 「……まあ、うん」


 軽く答えたつもりだったのに、


 「いいじゃん、そういう人。仲良くなっとけよ」


 なぜか少しだけ、引っかかった。

 数日後。


 「真央さん、おはようございます」


 振り返ると、美月がいた。


 「今日、お迎え一緒にどうですか?」


 自然な誘い方だった。断る理由もなくて、私はうなずいた。

 それから、距離は一気に縮まった。

 連絡先を交換して、送り迎えで会えば話をして、気づけば毎日のようにやり取りしていた。


 『今日のお弁当、すごいですね!』

 『真央さんってほんと丁寧な暮らししてますよね』


 そんな言葉が、少しだけくすぐったくて、でも嬉しかった。


 (ちゃんと見てくれてる人がいるんだ)


 そう思えたから。


 「この前、美月さんと会ったよ」


 ある日、健太が何気なく言った。


 「え?」


 「スーパーでさ。子どもと一緒にいた」


 胸が、わずかにざわついた。


 「……話したの?」


 「ちょっとだけ。感じいい人だな」


 その言葉に、なぜか違和感が残った。


 (そっか、会ったんだ)


 ただそれだけのことなのに。

 違和感は、小さなところから始まった。


 「真央さんの旦那さんって、帰り遅い日ありますよね?」


 ある日の帰り道、美月が何気なく言った。


 「え、まあ……仕事で」


 「大変ですね。でも、ちゃんと奥さん大事にしてくれてそう」


 そう言って笑う。

 ——なのに、どうして。


 (なんでそんなこと知ってるの?)


 聞こうとして、やめた。気にしすぎかもしれない。

 その日の夜。


 「今日、遅くなる」


 健太からのLINE。珍しいことじゃないのに、指が止まった。


 “遅い日ありますよね?”


 さっきの言葉が、頭から離れない。

 数日後。


 「ねえ、聞いた?」


 ママ友の一人が、声を潜めて言った。


 「……何を?」


 「真央さんのこと」


 嫌な予感がした。


 「なんか、旦那さんとうまくいってないって」


 心臓が、ドクンと音を立てた。


 「……え?」


 「あと、最近帰り遅いとか、いろいろ」


 そんな話、誰にもしていない。


 「誰がそんなこと——」


 言いかけて、止まった。

 頭の中に、ひとりの顔が浮かぶ。

 優しくて、感じがよくて、完璧な——


 「美月さんが、ちょっと心配してたよ」


 その一言で、すべてが繋がった気がした。

 帰り道、足が妙に重かった。


 (気のせい、だよね)


 そう思おうとしても、考えが止まらない。

 その夜、何気なく開いたスマホに見慣れない通知があった。


 ——「おすすめの知り合い」


 そこに表示されたのは、夫と、美月の名前だった。

 すでに「友達」になっている状態で。

 画面を見つめたまま、動けなかった。


 (……いつから?)


 指先が、冷たくなる。

 そのとき、スマホが震えた。

 美月からのLINEだった。


 『今日もお疲れさまでした』


 『無理しないでくださいね』


 ——何を、知ってるの?


 初めて思った。

 あの人は優しいんじゃない。


 “知りすぎている”


 そして、そのときはまだ知らなかった。

 この出会いが、私の人生を全部壊すことになるなんて。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ