表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
83/89

第83話 善と悪

仲間たちが団結する様子を、グラトスは鼻で笑った。


「――ふん、(おろ)かなことだ。太古(たいこ)の昔から、人間は同じことを繰り返す。聞き()きた。」


その口ぶりに、仲間たちは一瞬(いっしゅん)、言葉を(うしな)った。


「ニンフが(かた)ったように、人間が神の似姿(にすがた)として(つく)られたのならば、その“(せい)”が善であるのは自明(じめい)だ。――だがな」


グラトスは、うんざりしたように手をひらひらと振った。


「その善の具体(ぐたい)とは何だ? 人徳(じんとく)か? 仁義礼智忠信孝悌? そんなものを、努力して後天的(こうてんてき)(まな)ぶというのなら――つまり、お前たちは(ぜん)(よそお)っているに()ぎんということだ」


「欲望を悪とする(おろ)かしさよ。()え、(かわ)き、欲望――それがあるからこそ人は前へ進む。満たされぬから、求める。(ほっ)するからこそ、変わろうとする。進もうとする。それの、どこが悪だ?」


そして、グラトスは静かに、だが(ほこ)り高く言い(はな)つ。


(われ)は“悪”を(ほこ)る。なぜなら、()(なか)(いつわ)りは一片(いっぺん)もない。欲望を(いつわ)らず、(いか)りを(おさ)えず、野心(やしん)(かく)さず――それが、()が真の姿だ」


「徳を学べ? 修養(しゅうよう)せよ? そんな不自然なことをするから、かえって“善”がゆがむのだ」


「……もういい。ニンフ、お前が(きん)(やぶ)ってまで呼び寄せた人間どもは、(われ)失望(しつぼう)しか与えなかったな」


ゆったりと玉座(ぎょくざ)から立ち上がるグラトス。その黒衣(くろぎぬ)が、まるで闇そのもののように()れる。


「誰かが“悪”であらねば、お前たちの“善”は(かがや)けぬ。ならば――(われ)が悪であってやろう。お前たちの理想とやらを、徹底的に試してやるためにな!」


その手にした長杖(ちょうじょう)の先端、黒曜石の(たま)(あや)しく光を放つ。


「グラトス!! やめて! 彼らを呼んだのは私。罰するなら、私を!」


ニンフが身を投げ出すように(さけ)ぶ。


「また、それか。アモンに干渉(かんしょう)した罪で無力(むりょく)となったお前から、今度は何を(うば)えという?」


「――私の命を!」

ニンフは懇願(こんがん)するように(さけ)んだ。だがグラトスの眼差(まなざ)しは()ややかだった。


「お前の処分は、こやつらを始末した後だ。引っ込んでいろ」


その瞬間、グラトスは長杖(ちょうじょう)を振り上げた。空間が()け、魔の()奔流(ほんりゅう)のごとく吹き荒れる。


――闇が、()えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ