214. 実験1日目(エーネ視点)
「シュペア、逸れるといけないから手を繋いでおこう。」
「うん。」
この子は国の上層部から大切にされている。
みんなが心配して構っているし、第二王子ほどあからさまではないが、みなが我が子のように思っている様子。
逸れたり、ましてや攫われたりしたら大変じゃ。しっかり手を握っておかねば。
この子の本来の目の色はアイスブルーだという。魔術の練習かと思ったが、よく見かける茶色にしているのは、目立たないようにするためだったらしい。
それに気づいたのは、ついさっき。
王城の食堂へ行くのを嫌がって、目立ちたくないと言った。そして街に行こうと言うと、ローブのフードを深く被った。
子供なんだから、そんなことは気にせず、駆け回って遊ぶ時期じゃろうに・・・。
この子は確かに可愛い。
12歳にしては小さく、言動も幼いが。
しかしダイターの前ではしっかり敬語も使っていたから、マナー教育も受けているんじゃろうな。
「ここじゃ。」
「僕、このお店初めて。」
店に入ると、辺りをキョロキョロと見渡している姿は子供っぽいな。
と微笑ましい気持ちになりかけたが、違うな。店の窓や入り口の場所を確認しているようだった。
避難経路の確認か、または襲撃に備えているのか。この子は一体この歳で何を経験してきたのか。
「シュペア好きな席に座りなさい。」
「うん。」
やはり間違いないようだ。窓や入り口を1番見やすい場所にシュペアは座った。
「ここは肉と野菜のシチューが美味しいんじゃ。ランチはパンとサラダが付くセットがある。それでいいか?」
「うん。エーネさんのお勧めの料理にする。」
「シュペア、どうしてその席を選んだんじゃ?」
「エーネさんを守るのに1番ここがいいと思ったの。エーネさんは王様と仲良しみたいだったから。僕が守るからね。」
これは・・・確かにみなが大切にするわけじゃな。
「シュペア、大丈夫じゃ。こう見えてもわしは結構強いからの。」
「そっか。余計なことしちゃった。ごめんなさい。」
「余計なことなんかしてないぞ。謝ることなんか何もない。わしは嬉しかったからの。」
「そっか。」
料理が届くと、スプーンでスープを掬って一生懸命にフーフーしている。
そんな姿は、まだ子供なんだな。
「美味しい。このシチュー凄く美味しいね。」
「そうじゃろ?」
「午後からはどんな実験するの?」
「午後はトレントの道具を使わずに初級ポーションを作ってみよう。朝と同じ手順で道具だけを変えるんじゃ。」
「そっか。それで願いを込めても初級が出来上がったら、トレントの道具が理由ってことになるんだね。」
「そうじゃ。理解が早いのぅ。」
「ポーションを作ったのは初めてだけど、魔術の実験はいつもしてるから。色々試して、どれが最適か確認したりするの。」
「ん?魔術は誰かに習うんじゃないのか?」
「エトワーレの王都にいるときは教えてもらえるけど、旅の途中は教えてもらえないから、自分で実験するし、教えてもらっても練習は自分で頑張らないといけないから、色々実験してるの。それが楽しい。」
「研究者のようじゃのぅ。」
「そうかな?僕は研究者にはならないけど。」
「そうか。少し惜しいな。まぁ好きなように生きたらいい。シュペアの人生じゃからの。
もうそろそろ戻るかの。」
「うん。」
帰りもしっかりシュペアと手を繋いでいる。
この子がわしを守ると言ったのは本当のようだ。チラリと横目で見ると、その小さな体には似つかわしくないような真剣な目つきで前を見据えていた。
王城の門を潜ると、シュペアはゆっくり息を吐いた。
「街に行くときはいつもそれほど警戒しているのか?」
「僕1人なら結界張ってるだけだよ。仲間とか騎士団のみんなと一緒の時は、みんなが強いから何もしてない。
今日はエーネさんを護衛対象に見立てて、護衛の練習してたの。」
「そうか。シュペアは面白いのぅ。」
練習をしていたのか。いつも息が詰まる思いをしているのかと心配になったが、そうではなかったようだ。
午後には、午前中に作ったポーションの成分をそれぞれ魔道具で分析していった。
そんな気はしていたが、やはりシュペアが作ったポーションの方が効果が高い。
昨日シュペアが作ったポーションも分析してみたが、効果が高い順に並べると、
今日シュペアが作ったポーション、昨日シュペアが作ったポーション、わしが作ったポーション、の順だった。
明日は他の者にも同じ手順で作らせてみよう。
製作者で効果が異なるのは、中級や上級ではよくある話だ。
シュペアが中級の素材と手順で作ったら、非常に効果が高い上級ポーションが出来上がるのではないかと試したい気持ちが湧いたが、まぁそれはわしがそのうち実験してみよう。
この子にそんな重荷ばかり背負わせてはいけない。
トレントではない土器や魔獣でない普通の木で作った道具を用意し、まずわしが初級ポーションを作って見せる。
煮出す薬草は、風で乾かし、水は魔術で出す。
煮出す間に、シュペアも同じように作っていく。
煮出している間はシュペアがトレントの加工をするときの話を聞いた。
「中隊長が、トレントを葉っぱも枝も付いたまま持って帰ってきたから、倉庫の前に邪魔になってて、僕が枝とか葉をカットして、端材をもらったの。」
「そうか。凄いことをするものだ。」
あの子は赤目だから膨大な魔力を使ってこなすんだろう。子供の頃から戦場に置かれてどうなるのかと思っていたが、聞く限りとても真面目で優しい青年に育ったようでよかった。
王城の薬師を引退してからもずっと気になっていたが、安心した。
シュペアは、ペンを完成させるまでに試作を繰り返して1ヶ月近くもかかったのだとか。
シュペアが使っているペンを見ると、名前が彫られていた。
『シュペア・シャッツ』
シャッツ、宝物か。確かにこの子はこの国の宝だ。誰が考えたのか知らんがいい家名だな。
名前を彫るのはすぐにできるということで、わしの名前も彫ってもらった。
ヒュギエーネ・アポテーカー
器用に風を操り、スラスラと彫っていく姿は、一流の魔術師に見えた。
それもかなり高位の。
魔力操作の上手さがポーションの効果に関係してくるのかもしれない。
「エーネさんも貴族なんだね。」
「先王に無理矢理与えられてしまったんじゃ。名誉薬師爵というわししかおらん爵位じゃ。」
「そんな爵位があるんだね。エーネさんだけなんて凄い。」
「シュペアも貴族なんじゃろ?」
「僕はこの前、名誉騎士爵になったばかりだから、まだ何もしてない。
騎士団の身分証の名前が変わっただけ。」
「その歳で身を立てるのは凄いことじゃぞ。」
そんな話をしながら、煮出した液が冷めるのを待った。
鍋の中身が冷めると、擦り潰した薬草を加えて混ぜる。
いつも通り青みがかった透き通る初級ポーションが出来上がった。
やはりトレントの道具が関係していたのか。
シュペアの鍋にも擦り潰した薬草を加えて混ぜていく。
青みがかった・・・?薄っすらピンクが入っているように見えるポーションが出来上がった。
「エーネさん、これは初級ポーション?」
「判断が難しいのぅ。分析装置で確認してみるか。」
一応分類的には初級ポーションに分類されるが、中級ポーションの劣化版と言ってもいいほどの効果を示すデータが出た。
わしの方は少し効果が高い程度の普通の初級ポーションだった。
「初級じゃな。しかし、効果はかなり高い。中級の劣化版として売ってもおかしくないほどにな。」
「そっか・・・。
僕に普通のポーションは作れないのかな?」
これは普通の薬師であれば、大喜びするところだが、シュペアは残念そうに肩を落とした。
「また明日、違う方法を試してみよう。」
「うん。」
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