213. 実験1日目
「おはようございます。エーネさん、よろしくお願いします。」
「おはよう、シュペア。こちらこそよろしくね。」
「あの、エーネさん、これ約束のトレントの道具と、迷惑かけちゃったから、お詫びのペンです。」
「なに!?ペン!!もしかして!」
なぜかエーネさんはトレントの道具じゃなくてペンの方が気になったみたいで、僕がトレントの道具一式を差し出すと、最初にペンを手に取った。
そしてジッと眺めて、それから他の道具も眺めていった。
「シュペアありがとう。この道具もペンも、大切に使うよ。
しかし、このペンは簡単に人にあげてはいけない物じゃよ。
他に何本予備を作っているのか知らないが、もし誰かに渡す場合は、上司に相談しなさい。」
「はい。エーネさんはこのペンのことを知ってるの?」
「昨日陛下に自慢されたからねぇ。」
「そうなんだ。」
そっか。ちゃんと使ってくれてるみたいで嬉しい。何で自慢したのかは分かんないけど、トレントはエトワーレでは生息してないし珍しいからかも。
「シュペアが作ったことも聞いている。トレントの道具もシュペアが作ったんじゃろう?」
「うん。」
僕がペンを作ったことを知ってる王様は、道具も僕が作ったってすぐ分かったんだ。
「それにしても、器用に作るものだねぇ。シュペアが使った道具も持ってきたかい?」
「うん。全部持ってきた。本も。中隊長が全部持っていった方がいいって言ったから。」
「あぁ、あのウィルって子だね。」
「うん。」
「薬草2種類は用意してもらっている。
まずはシュペアが昨日やった通りの方法で再現してもらおうか。わしは見ながら通常の作り方との相違点を確認しよう。」
「うん。分かった。」
僕はまず、乾燥して煮出す薬草を風魔術で乾燥させた。
エーネさんを見ると、僕があげたペンで紙に色々メモをしてた。
さっそく使ってくれて嬉しい。
鍋に手から魔術で水を出して計って入れると、乾燥させた薬草を入れて、コンロの火を1番弱くした。
昨日と同じ方法。
僕はトレントの乳鉢に薬草を入れて、乳棒で擦り潰していった。
このポーションで助かる人が出ると嬉しい。
早く傷が治るように、痛みもすぐ止まるようにと願いを込めながら丁寧に擦り潰していった。
「エーネさん、この後の行動も再現するの?火にかけた薬草が煮えるまでの2時間、本読んでただけなんだけど。」
「本を読むのは関係ないじゃろう。わしもシュペアと同じ方法で作ってみるかのう。」
「僕も見てていい?」
「もちろんじゃ。」
エーネさんは本当に僕と同じ手順で作っていった。葉を乾燥させるのは僕より時間がかかってたけど、風魔術も使えるし、水も出せる。
「擦り潰す時に何を願ったんじゃ?」
「このポーションで助かる人が出ると嬉しい。
早く傷が治って、痛みもすぐ止まるといいって願いながら擦り潰したの。」
「なるほど。治癒の魔術を流したわけではないんじゃな。」
「うん。僕の治癒は効果が弱いから。少しだけ痛みが治まるだけで傷は治せない。だから使ってない。魔力を流したつもりはないけど、魔力循環はしてた。」
「ほぅ、魔力循環をしながら、治癒を願いながら擦り潰すのか。面白い方法じゃな。」
エーネさんはそう言いながら、薬草を丁寧に磨り潰していった。
「あとは煮出すのを待つだけじゃな。」
「うん。」
煮えるのを待つ間は、エーネさんが薬師の修行時代の話をしてくれた。
修行中は自分たちで薬草を採りに行ってたから、作るよりそっちの方が大変だったって。
もう50年以上前の話だって言ってた。
一緒に修行してたってことは、魔女と呼ばれる人もおばあちゃんなんだ。
2時間経って煮てた鍋を見ると、昨日みたいに真っ黒になって変な匂いがしてきた。
火を止めてエーネさんを見たけど何も言わなかったから、これは合ってるみたい。
このまま冷めるまで待つ。
冷ます時に冷気を当てたら早く冷めそうだと思ったけど、今回は昨日と同じ方法でやらなきゃいけないから、試したい気持ちを我慢した。
「エーネさん、鍋の火を止めてから冷ますのは、普通はそのまま待つの?
鍋をお水に浸したり、魔術で冷やしたりする?」
「している者もいるかもしれんが、冷める過程でも薬草から成分が出ていくから、ゆっくり冷めるのを待つのが正解じゃよ。」
「そっか。昨日は冷めるのを本を読みながら待ってたけど、魔術を使ったら時間を短くできると思って聞いてみたの。」
「シュペアが魔術で冷やすなら、どうやって冷やす?」
「冷気を当てて冷やすかな。やったことはないけど、この前、中隊長が燃えた地面を冷やす時にやってて、便利そうだと思ったの。」
「なるほど。それは面白そうじゃの。」
鍋の中身が冷めると、擦り潰した薬草を入れて、攪拌棒で成功するよう願いながら混ぜていく。変な臭いが消えて、色が昨日みたいにピンクの透き通った色になった。
昨日より、少し赤みが強いような、気のせいのような・・・。
トレントの瓶にロートを挿して、濾紙を乗せて攪拌棒に沿わせながら流し入れていく。
今日も10本できた。
「エーネさん、できたよ。」
「あぁ。実際見るまでは半信半疑じゃったが。これは本当にいいものを見せてもらった。
わしもできるといいのじゃが。」
「攪拌棒で混ぜるときは、成功しますようにって願ってたよ。」
「よし分かった。やってみよう。」
エーネさんは鍋の中身が冷えたのを確認すると、擦り潰した薬草を入れて攪拌棒で混ぜた。
少し緊張する。
混ぜていると、エーネさんのも僕より少し薄いピンクの透き通った液体になった。
エーネさんは嬉しそうにそれを普通のポーション用の瓶に入れた。
「多少効果には差がありそうじゃが、概ね成功じゃ。シュペア、お前さんは凄いのぅ。」
「僕は凄くなくていいから、普通の初級ポーションを作りたかった・・・。」
「そうか。後で教えてやるから、そう落ち込むでない。」
「うん。」
コンコン
「エドゼルです。」
「どうぞ。」
「シュペアー、今日も可愛いね。お兄ちゃんが会いにきたよー。実験はどう?」
「エドゼルお兄ちゃん、おはようございます。
実験は今のところ上手くいってる?かな?」
「あぁ、上手くいっている。」
「そっか。シュペアが無理してないならいいよ。私はまだ仕事の途中だから、またね〜」
エドゼル様は少し顔を出すとすぐに仕事に戻っていった。
コンコン
「ウィルバートです。」
「どうぞ。」
「シュペア、実験はどうだ?辛くなってないか?」
「うん。楽しいよ。」
「そうか。それならよかった。
ヒュギエーネさん、シュペアのことよろしくお願いします。」
領主様も心配してきてくれたんだ。嬉しい。
お仕事が忙しいからすぐに帰っちゃったけど、来てくれたことが嬉しかった。
その後、王様と宰相と団長も見に来た。
実験結果、気になるよね。なんか大変みたいな話してたし。
ロドリック王子も見に来た。
将来の王様だから結果は気になるよね。
「シュペア、お前さんは人気者じゃな。」
「そう、かな?」
人気者かは自分では分からない。
でも、みんなが僕に優しくしてくれるのは分かる。
「そろそろ昼じゃから王城の食堂へ行こうか。」
「僕も行っていいの?あ、でも僕目立つから・・・。」
僕は目立っちゃいけないから、行かない方がいいと思う。きっとそこは大人がたくさんいて、子供はいないと思うし。
「シュペアは苦労しとるんじゃな。
よし、今日は外に出て街で昼を食べよう。わしが美味しい店に連れてってやる。」
「いいの?」
僕はローブを着て目深にフードを被ると、エーネさんと街へ向かった。
「・・・。」
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