235 おしっこか? ならすぐに行ってくるのだ。我慢は体によくないのだw
「前を走る痛車トラクター止まりなさい。速やかに左に寄せて止まりなさい」
あー高巡査の声だよ。怒っているだろうなあ。消火用のホースまで持ち出して無届のイベント止めたのに、すぐまた始めるんだもの。
「ん? 誰か何か言っているのか?」
父さん、さっきの女性巡査の人がパトカーで追いかけてきて、すぐ車を止めるように言っているんだよ。
「ん? ん? 何だ? 聞こえないぞ。オキムネ」
父さん、大音量で「魔法少女ラブラブ愛凛」のオープニングテーマ流し過ぎだよ。
◇◇◇
「ほらほら足利先輩。ガツンと言ってやってください。ガツンと。さっきショッピングモールの駐車場で無届イベントをやめさせたばっかりなのに、もう立候補もしていないのに選挙カーみたいのを走らせているんですよ」
「う、うん。そうだな」
「いくら新田さんが学校の先輩だからと言っても、こちらは警察です。注意するべきことは注意しなければいけないのです」
「う、うん。そうだな」
「だからここはガツンと言ってやってください。ガツンと。大丈夫。足利先輩なら出来ます」
あのー高巡査。さっきからマイクのスイッチがオンになったままですよ。パトカー内部の会話が全部筒抜けになってますが……
◇◇◇
「えーえーおほん。そこの痛車トラクターを運転されている新田先輩、いやさ新田さん」
「いいですよ。いいですよ。足利先輩。その調子です」
「速やかにその『魔法少女ラブラブ愛凛』のオープニングテーマのBGMを止めてください」
「いいですねー。BGMを止めたところでガツンと言ってやってください。ガツンと」
父さん、父さん、後ろのパトカーに乗っている交番の足利さんが「魔法少女ラブラブ愛凛」のオープニングテーマのBGMを止めてって言っているよ。
「何? それはおかしい。足利後輩だって『魔法少女ラブラブ愛凛』を激推ししているはずだぞ」
それは……オープニングテーマとは別に話をしたいんじゃないかな?
「面白い。足利後輩め。この俺とオープニングテーマ以外で「ラブラブ愛凛」勝負をしようというのか。ふっふっふ、十年早いわ。この勝負受けて立ってやろうじゃねえか」
認識の違いはあるにしろ、僕は何とか父さんに『魔法少女ラブラブ愛凛』のオープニングテーマのBGMを止めさせることに成功した。
◇◇◇
「お、おおっ、やった。新田先輩がBGMを止めたぞ」
「やりましたね。足利先輩。さあここでガツンと行くのです。ガツンと」
「よしっ、新田先輩。そのまま痛車トラクターを左に寄せて停車してください」
指示とおりに左に寄せて停車する父さんの痛車トラクター。
「ややや、やったぜ。あの『伝説のオタク番長』新田先輩が僕の指示に従って、あの『痛車トラクター』を止めたぞ」
「すごいですよ。足利先輩。あと一歩です。さあここでガツンと行きましょう。ガツンと」
そして父さんは痛車トラクターのコクピットでこううそぶいた。
「ふっふっふ、足利後輩め。この俺に『ラブラブ愛凛』勝負を挑もうとは命知らずな奴め。返り討ちにしてくれるわ。ふはははは」
かくて双方に大幅な見解の相違をはらみながら、本日二度目の邂逅は実現したのだった。
と思っていたら……
「こらっ! これはどういうことなのだっ? 何で我が地球=ケンタウリ帝国国歌演奏が急に止まるのだっ? おまけに車も急に止まったのだ。どうしたのだ? お父上。おしっこか? ならすぐに行ってくるのだ。我慢は体によくないのだ。でも演奏は再開するのだ。その間もあたしは歌うのだ」
そうね。そうなのね。父さんと足利さんも大幅な見解の相違があるけど、エリスのそれは更に上を行っていったのであった。はあ。




