7 襟山彩香③-ⅱ
「あー、うー」
学校の廊下でキャンパスノート胸に抱えて唸る女子生徒が一人、坂島凛である。彼女の胸の内にあるノートは彼女自身、襟山彩香、そして片思い中の相手――大塚利久と行っている交換ノートである。ただ、今日の交換ノートはいつもと違い、最新ページの見開きには、凛が何度も書き直した手紙が一枚入っているのだ。内容は短い物で、ただ放課後に屋上に来て欲しいという旨だけの物である。
「なー、ぬぁにゃー」
「いい加減に入ったら?」
「な、にゃー!」
「日本語を喋れ」
凛の悶える姿に檄を飛ばしているのは襟山彩香である。彩香と利久が同じクラスの為、交換ノートを凛が届けようとするなら、必然彩香のクラスにやって来るのも当然なのだ。凛は猫の様にフシャ―と唸っていたが、観念したのか、しょぼんと項垂れた。彩香はそれに諦めに近い笑みを浮かべて手を差し出す。
「交換ノートだけ私が渡しとこうか? 本番はここじゃないんでしょ?」
「う、いや、でもぉ」
「早くしないと利久来るよ?」
「う、うぅー」
彩香の言葉に諦めを見せつつ、渋々と言った具合で凛は彩香に交換ノートを差し出した。
「ん、確かに」
「お願いね。じゃあ、ね」
凛が自分のクラスに歩いて行くのを見送って、彩香は自分の教室に入る。二人とも早めに登校した為、教室に居る人の数も少なめだ。利久もまだ来ていない。
「さて、と」
彩香は自分の隣の席、大塚利久の席に着くと、交換ノートを机の中に入れようとして――自分の手が震えている事を知った。一度自覚してしまえば他の異変も連鎖的に知覚してしまう。激しく暴れる心臓の拍動、全身に纏わり付く汗、酔った様にぶれる視界、そして――自分がこの交換ノートを、凛の手紙を利久に渡したくないという事実を。自分が利久の事が好きで、凛に利久を取られたくないという彩香に芽生える傲慢な自意識を。
「は、はは」
自覚して、嫌悪して。にも関わらず、自分の中に湧き起こる意地汚い恋心に全てを預けるのに一切の抵抗が無い。その事実に、彩香は思わず乾いた笑いを出していた。
そして――。




