表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

プロローグー「君」ー

 この作品は私の処女作になります。約10年前の私が書いた作品であり、これを書いていたころの私はまだ何も知らない高校生だったようです。スマホもなく、今ほどSNSや動画配信サイトやゲームなんかが発展していない頃。授業中に必死に書いていた思い出があります(よい子はまねしないでね)。いまさら世に出すのは恥ずかしいのですが、生暖かい目で見ていただければと思います。

 また、この作品は私の大好きなアーティストの方のある曲からインスピレーションを受けて作られています。歌詞の直接の引用はありませんが、著作権の観点から不適切だと判断された場合には早急に対処させていただきます。ご了承ください。

 それでは本編のほうへ参ります。大人の方は若かりしあの頃、もどかしきあの頃の少年・少女を思い描きながら、今まさしく青春ですという方は等身大の主人公を身近に感じながら、読んでいただけると幸いです。


 初めからわかっていればこんなことにはならない。後悔先に立たずとはよく言ったものである。僕はまさに後悔にさいなまれている。記憶のかけらはどれもこれも輝かしくて、きれいで、でも辛くて。目を閉じたくても閉じれなくて。今だって大した事じゃないのに全部君に重ねたりして。時がたてばこの気持ちも薄れやがて忘れていくのだろうか。だとしたらどれくらいの時間が必要なのだろうか。君との記憶はまだ鮮明なまま。笑顔も泣き顔もすぐ浮かんでくるから困る。今も…確かに残る…







 毎月5日は少しそわそわする。僕も、君も。最近になると君は何の連絡もなくひょっこり僕の家にあらわれたりする。2月5日。僕らが付き合い始めた日。付き合いたての頃だって記念日だからといってプレゼントを交換したり祝ったりすることはなかったけれど、僕が引っ越してちょくちょく会うことができなくなってしまってからは、この日を言い訳に今まで会ってこれた。それがもう2年も続いているのだから記念日というものも捨てたもんじゃない。それに、この日のことになるといつもは自分から予定を切り出さない君が自分から話を進めてくる。普段は「自分勝手な予定を立てちゃうから…。」と僕に気を遣ってくれているのだ。(だからといって君が予定を立てても自分勝手さは見当たらないが…。)だけどそこがとても愛おしかった。


 君の住んでいる僕らがであった小さな町から、僕の住んでいる君から見れば都会なちょっと大きな街へ。同じ関西圏なので遠距離恋愛というほどの距離ではないが電車で往復5時間はかかる。君はその距離を電車に揺られてやってくる。

 君との付き合いは高校時代からになるけれど、その頃はクラブのきまりでアルバイトもしちゃいけなくていつも金欠だって言っていた。実際クラブの決まりなんて守っているヤツは少なかったけれど、君はバカ真面目に決まりを守っていたんだっけ。しかしあの頃と比べれば今の君はとてもリッチだ。ひどいときなんてお昼ご飯もろくに買えなかった君の財布にこの往復の電車賃となおかつ遊べるだけのお金が入ってるんだから。

「5日のデートのために!節約!」

 その言葉はよく君から聞いた。そのたびに僕は照れてはにかんでいた。小さな幸せも感じていたんだ。君が僕を好きでいてくれている。そんな気がして。


 僕は君の「橘あんず」という名前からそのまま「あんず」と呼んだ。君は僕のことを「ゆうくん」と呼んだ。僕の名前は「椎名 悠」なんだけれどひとつ年上の僕を呼び捨てにはしにくかったらしい。

 君は一言で言うと好奇心旺盛な子どものようだ。何をしてもはしゃいでいて、キュートなんだけれどふわふわしていてどこか危なっかしい。優しいのだけれど気を遣いすぎな気もする。わからないことにぶつかっても人に聞くのは苦手で自分で何とかしようとしてしまう。(いつだったかインターネットを接続するのに3時間ほど悪戦苦闘していたと聞いた。)

 ただ僕以外の前ではこういった姿はあまり見せない。周りの友人たちからすればかなりのしっかり者なのだ。実際僕も高校時代同じクラブに所属していたのでそういわれる所以はよくわかる。外面がかなり変わるタイプだ。それは僕も同じだから、周りからはしっかり者のカップルだと誤認されている。

 実際の僕はというとかなりしっかりしていない。そして気分屋だと思っている。不機嫌になると何も話さなくなるので思えばそれでよく君に当たっていた。冷たく接することもあった。それに、自分がいやだと思うことは絶対にしない。良いように言えば信念があるのかもしれないが、ただの逃げ腰だってこともよくある。大体のことは人並みにできる方だがそれまで。器用貧乏ってやつだ。誇れることといえば今でも続けているギターくらいのものか。それもプロってわけじゃない。ただギターを弾いている時はよく褒められるし、自分でも下手くそだとは思わないのでこれがとりえだということにしている。なにより、君が僕のギターに合わせて口ずさむ時間、その時間が僕の一番幸せな時間だから。


 そして。

 そして今から昔話をする上で紹介しなくてはならないのが君の“癖”だ。ひとくくりにすれば自傷癖といわれるグループに入るのだろう。しかし手首を切ったりするものではない。

「かゆくなるねん。」

 と言ってかきむしってしまう。それが君の癖だ。春や秋になると特に頻発した。気持ちが落ち着かなかったり、ストレスを抱えている時に出てくる癖。(“癖”という言い方は君がそう呼ぶからだ。)アレルギーの類ではないようで、心因性のものなのか…といろいろ僕なりに調べはしたが、これといった対処法はわからない。癖が出ても君は

「大丈夫大丈夫。蚊に刺されたようなもん。あ、花粉症のせいかな?」

 とあくまでも明るく振舞うのだった。その振る舞いからは「心配してほしい。」とか「かまってほしい。」という感じは全く受けなかったので、僕もそれ以上深くは考えなかった。いわゆる“心が病んでいる”ではないと思う。思いたかったのかもしれない。病んでいる女に振り回されていると捉えることもできるかもしれないが、そうではない。そこだけは僕の名誉にかけて否定しておきたい。“癖”なので、爪をかんだり、髪をいじったりすることと大差ないことだと思っていた。

 ただ、気持ちが不安定になると少し強く引っかいてしまう、なかなか厄介な癖だ。僕は君が傷つくのが怖くて少し悩まされた。もともと華奢な身体。凹むともっと弱弱しく見える。抱きしめたら折れてしまいそうな、本当に食べてるの?眠ってるの?と効きたくなるような身体。そうなるたびに君は

「ごめんね。」

 と言った。だけどそれが僕には辛かった。こんなに必死に君はがんばっているのに何もできない僕が悔しかった。ただ救いだったのは、

「ゆうくんと一緒におったらな、癖があんまり出てけぇへんねん。ありがとうなぁ。」

 と言ってくれることだった。それは嘘のようには感じられなかったし、「何もできていないわけではない!」と僕の不安を否定してくれている気がしてうれしかった。

 調子がいいときは全然癖が出ない年もあって、僕はほっとしていた。


 だけどその年は春からあまり調子はよくなかった。僕にはそれがなぜだかわからなかった。ずいぶん後になってわかったのは、僕と合えない不安や寂しさからだったという今更な答えだった…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ