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第11話 守った約束

 西区の倉庫街のエリアに入る。

 両脇にはレンガ造りの倉庫がずらりと並んでいた。

 赤レンガなのでいかにも倉庫街って雰囲気。


 この倉庫街は落命の森から運ばれてきた資源を集積する用途として主に使われているらしい。

 昼間なら出入りする荷馬車が見られるのだろうが、人影を含めて見られない。

 もう暗くなってるしな。


「……本当に居た」


 見覚えのあるモヒカン肩パッドの二人組が居たので、思わず口に出てしまった。

 タボンさんに教えてもらった廃倉庫の入口前で、二人で立って何か話している。


 さすが歓楽街で人気占い師をやってるだけあるな。

 あそこでの接客を通じて情報が集まってくるんだろう。

 酔ってるお客さんも多いだろうから、口も軽くなってるだろうし。


 これが上手く片付いたらお礼に次に店に来た時、お会計をタダにしてあげよう。

 大丈夫、懐が痛むのはナスビル店長だから。


 さて、あいつらをどうするか。

 いきなりぶっ飛ばしたいところだけど、ファナがどうなっているかわからない。

 そもそも本当にこいつらがファナを連れ去ったのかどうかもわからない。

 まずは状況確認だ。

 濡れ衣だったら申し訳ないし。

 もっとも、街の害虫ということで問答無用で駆除してしまっても問題無さそうだけど。

 でもね、一寸の虫にも五分の魂。

 俺は優しいんだ。


 廃倉庫の棟高――屋根で一番高い所は約五メートルといったところだろうか。

 壁に指や足が引掛けられそうな所はあるし、身体強化と何かを踏み台にすれば屋根に登れそうだ。

 倉庫の裏に回るとおあつらえ向きに大きい木箱が積まれていた。

 ほら、このオブジェクトを使って屋根に上がれという天の啓示だよ。


「アポロ兄~、いつまで待てばいいんだぉ」

「お前は本当に我慢が効かないな、ダイヤ」


 真上に回ってゴロツキ二人組の会話に耳を澄ます。


「あんまり待つとエルフ女の薬の効果が切れちゃうんじゃないか?」

「だからさっさとあの男を呼び出さねぇと」


 エルフ女って間違いなくファナの事だよな。

 そして呼び出そうとしてる『男』というのは、状況から考えて俺のことだよな、多分。


「肩パッドを新調したことだしよぉ」


 なんか違和感があると思ったらダイヤの肩パッドの棘が長くなってる。

 長過ぎて頬に刺さりそうになってんだろ。

 どこで売ってんだよ。


「あのクソ野郎をぶっ殺すのが楽しみだぜ」


 あれでどうやって俺を殺すんだよ。

 モズの早贄にしか用途ないだろあれ。


「あの女も単純だよな。詫びを入れて『飲み物を奢る』って言ったらあっさり疑いもせずに飲むんだもんな。薬が入っているとも知らないで」

「おかげで厄介な魔法を気にしないんでいいんだ。助かったじゃねぇか」

「違いねぇ。ハハハ!」


 純粋なファナの性格を利用して何らかの薬を飲ませて無力化し、拉致する。

 そして俺を探して呼び出して昨日の報復を行うつもり、と。

 まったく馬鹿げた事を。

 完全に有罪(ギルティ)だよ。


「兄貴と話してくる。ダイヤ、お前はここで見張っとけ」

「あいよ」


 倉庫の扉は人が通れる程度の隙間で開いている。

 その隙間を通ってアポロが倉庫内に入っていった。


 『兄貴』ね。

 少なくとも中にもう一人いるのは確実だな。

 これ以上、ここで様子を見ても得られる情報は無さそうだ。


「ふわぁ……」


 それに警戒も何もしていない間抜けな見張りが単独でいる。

 俺の方もこの高さならば、身体強化で飛び降りても問題はない。

 つまりは奇襲のチャンスなのだ。

 よし、やるか。


「俺は街のごろつきを駆除する異世界からの使者、スパイダーマッ!」

「――おまっ!?」


 身体強化の状態で屋根から飛び降り、重力を味方に付けつつ全力で踏み付ける。

 むぅ、蹴りなのでライダーの口上の方が相応しかったか?


「ごはっ!」


 肩パッドの棘が踏みつける時にちょっと邪魔だった。

 良かったなダイヤ。少しだけ役に立ったぞ。


「…………」


 あっさりと意識を手放したダイヤを見下ろす。

 簡単には目を覚まさないと思うけれど、本当はロープとかで拘束しておきたい。

 なんなら変態仮面よろしく亀甲縛りで高い所から吊り下げておきたい。

 亀甲縛りのやり方わからんけれど。

 くっ……勉強不足なのが恥ずかしい。


 薄っすらと光って隠密行動には向かない身体強化を解いて倉庫の中を伺う。

 かなり静かで薄暗く、人の気配がほとんどない。

 アポロと『兄貴』だけなのかも。

 だとしたら助かるな。

 慎重に物陰に隠れながら中に入っていくと、ランプの光が点いている一角があった。


「……!」


 そこの明かりの元には、アポロともう一人の男、そしてファナが横たわっていた。

 ファナに着衣の乱れは見られない。

 密かに危惧してた最悪のパターンにはなっていなかったようだ。

 お前ら、運が良かったな。死刑は免れたぞ。

 宝くじはもう一生当らないくらいの運は使い果たしているけどな。


「嬢ちゃん、あの男の家をいい加減教えろよ」


 アポロがファナの顔の近くにしゃがんで話しかけている。


「……教えない……です……」


 言葉が絶え絶えで発せられる。

 意識が朦朧としているのだろう。

 これじゃ俺が囮になってその隙に逃げろ、という手は使えない。


「ライト兄、こいつ口を割らねぇよ」


 『ライト』と呼ばれた男は体格の良いアポロから比べると普通だった。

 そして弟二人と違ってモヒカンじゃなかった。

 世紀末ゴロツキ三兄弟は、長兄だけ超暴利闇金融を経営してそう。

 カタギではない雰囲気は間違いないが、いくらか話が通じそうではあるが。

 あんまり期待しない方がいいだろうな。


「……あんまり時間をかけると薬の効果も切れてしまうしな」

「そしたら俺らこいつに消し炭にされちまうぜ!?」

「先に奴隷商の所に売り込んでしまうか」

「隷属の首輪を嵌めてもらえれば、俺達も安心だしな」

「いいかアポロ。正確には隷属の術式が刻まれてる魔石の首輪だ」

「どっちだっていいんだよ」

「まったく、少しは学を学べ……」


 ライトは呆れたようにタメ息をついた。

 面倒見のいい兄貴……って空気を出してんじゃねぇよ。

 兄貴ならこのアホ弟達の手綱をちゃんと握っておけよ。


「じゃあ、連れてく前に少し味見をするかな」


 アポロの顔が下卑た表情に変わる。

 おい、ただでさえマズい顔が放送できないようなレベルの下品さに変わっているぞ。


「おい、値が下がるから止めろ」

「なぁに、ほんのちょっとだよ。ほんのちょっと」

「……や、止めて」


 力無く両手でアポロ押し、少しでも抵抗しようとするファナ。

 悠長に様子を伺っておけないな。

 攻撃するタイミングを計ろうとした時。


「あー、うっとぉしい」


 ――パンッ


 乾いた音が倉庫内に響く。

 アポロがファナの頬を叩いた。

 あの大きな体格とそれに見合う大きな掌で叩かれたら、ファナからしたらかなりの衝撃だろう。


 ――カチャン


 一拍遅れて何かが床に落ちる音も聞こえた。

 ファナが左耳に付けていた耳飾りだ。

 叩かれた衝撃で外れたようだ。


「アポロ! 値が下がると言っただろうが!!」

「悪ぃライト兄……つい手が出ちまってさ」


 その様子を見ていた俺は反射的に身体強化を使い、物陰から踊り出た。


「土下座しても許されないことをしたぞ、てめぇ」

「お、お前っ!?」


 探していた男が急に目前に現れて驚いたのだろう。

 目を見開いたアポロの脇腹に渾身の横蹴りをお見舞いする。

 そのまま身体を貫通させるつもりで足を振り切る。

 盛大な勢いでアポロは吹っ飛び、壁に叩き付けられた。


 クソッ、壁を破壊して外までぶっ飛ばすほどの威力は出せなかったか。

 それでも確実に何本かの骨を砕いた感触があった。

 アポロは壁から身を崩して倒れ込む。

 その姿で戦闘不能と俺は見積もった。


「…………」


 ライトは身構えてはいるが、俺を警戒しているのか何も行動してこない。

 ならばまずは目の前にいるファナだ。


「おい、大丈夫か?」

「あ……ヒカルさんだぁ……」


 叩かれた頬が赤くなっている。

 白い肌とのコントラストで、その赤みがやけに目立っていた。

 クソ、こんなことしやがって。


「薬を盛られたとはいえ、何でこんな奴ら吹き飛ばさなかったんだよ」

「……街中では攻撃魔法を使わない約束……でしょう……?」

「お前……」


 あんなホイホイ大火力の魔法を使われて、街中で大穴を開けたり、物を壊されたら困ると思った。

 だから禁止したのは間違っているとは思わない。

 だけど、こんな状況でもそれを律儀に守るとは。


「責任を持ってこの場は俺が何とかする」

「……はい」

「意識を保ってるのも辛いだろう。寝ちゃっていいぞ」

「……お、お願いします……」

「目覚めた時にはもう解決してるぞ」

「…………」


 返事はなかった。

 安心したのか薬に抗うのを止めたようだ。

 意識を失ったファナを抱きかかえ、壁際に優しく寝かせてやる。


「さて、待っててくれたのは感謝するが、覚悟は出来てんだろうな?」


 残るライトの方に向き合う。

 少しだけ距離があるが、身体強化中なら一瞬だ。

 右ストレートでぶっとばす。

 真っ直ぐ行ってぶっとばす。


「…………」

「弟には偉そうだったのに俺には喋れないのか? 明日のお触れ板に載ったぞテメー!!」

「弟は……ダイヤはどうした?」

「とっくに外で伸びてるっーの」

「そうか……『覚悟が出来ているのか?』は俺のセリフだ」

「あ?」

「可愛い弟達をやられて怒らない兄はいないんだよ! 俺はお兄ちゃんだぞ!!」


 次のライトの行動に俺は驚愕することになる。

 さっさと殴り飛ばして終わりになると思っていた。

 だが、その予想は裏切られた。


 ライトは両手を俺に突き出して大きく叫ぶ。


「<ナンバー:80―08!!>」


 生成された球状の炎の塊が俺に目掛けて勢いよく射出された。


「こいつ……魔法師かよ!!」

ブックマークされてる事に気付きました。

ありがとうございます。嬉しいです。


次は8/17(月)に更新予定です。

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