第80話 光の問答、静かな気遣いと揺れる視線
澄み汁の余韻が胸に広がる中、楽団の音がひときわやわらかく変わった。
次の皿へ移るまでの、わずかな間。
その静けさの中で――
王妃セラフィーネが、そっと顔を上げる。
リリナへ視線を向け、やわらかく微笑んだ。
「セレフィアの料理は……甘味を大切にされるのですよね?」
その声音は、とても穏やかだった。
「お好きですか? 甘みのあるものは」
リリナは少しだけ肩の力を抜き、姿勢を正して頷いた。
「はい。甘味のある料理は……幼い頃から馴染みがあって。
けれど、ルクヴェルのお料理も、とても丁寧な味がして……」
リリナは少しだけ言葉を選び、それからやわらかく微笑んだ。
王妃はその答えを受け止めるように、満足げに頷いた。
「よかったわ。気に入っていただけたなら嬉しいの」
食卓の空気が、少しだけ和らいだ。
その時――
王妃の隣で、ライゼルが静かに口を開いた。
「リリナ様、学舎での講義はいかがでしたか?
副院長シリウスの講義は……なかなか厳しいと伺っております」
リリナは一瞬だけ驚き、視線を斜め向かいへと向ける。
シリウス・エヴァンデル副院長の表情が、わずかに硬くなった。
「……ライゼル殿。厳しいのではなく、正確さを求めているだけです」
「ふむ。そうでしたか」
ライゼルは楽しげに目を細めた。
まるで、その反応を待っていたかのように。
シリウスは軽く咳払いをし、改めてリリナへ向き直った。
「姫様。講義では、ご負担をおかけしておりませんでしたか」
その問いに、リリナの緊張が少しほどけた。
「いえ……副院長のお話は、とても興味深かったです。
世界の理の見方が広がるようで……毎回、新しい発見がありました」
その言葉に、シリウスの表情がわずかにやわらいだ。
「……そう言っていただけると、教える者として嬉しく思います」
ライゼルは、両手を軽く組んだまま、穏やかに続けた。
「学びを重ねたリリナ様を、この場に迎えられて本当に嬉しく思います。
この国にとっても、今日の修了は大きな意味を持ちますので」
その一言に――
王妃が、静かに微笑んだ。
「まあ、ライゼル。堅いお話は後にしましょう?」
そのやわらかな声に、正面に座るレンセリオンが、わずかに目を伏せる。
レンセリオンは姿勢を崩さぬまま、静かにその場の空気を見守っていた。
「これは失礼」
ライゼルの一言に、場の緊張がふっとほどけた。
そのやわらかな空気の中――
次の皿の金の蓋が、静かな音を立てて開かれていった。




