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第73話 影を断つ光、受け継ぐ静かな誓い

小さな講義室に、穏やかな光が満ちていた。


レンセリオンは前方から一歩退き、落ち着いた声で告げる。


「……以上が、四大騎士団の概要がいようです。

何か質問のある方は、どうぞ」


空気が、ふっと揺れた。


そして立ち上がったのは、アクエリシア第二王子――エリオンだった。


その声は、穏やかだった。


「第四騎士団ルクシオン衛団は、“影の脅威きょうい未然みぜんに断つ”とおっしゃいました。

……それは、他の騎士団の価値観と衝突することはありませんか?」


レンセリオンの目元が、わずかに揺れた。


鋭い問い。

エリオンらしい、核心かくしんを射る言葉だった。


「例えば……」


エリオンは続ける。


「オルディナは対話を重んじ、リュクサードは怒りを禁じ、イグレアは“見つける者”である。


そんな中で、第四騎士団の“断つ”という役目は……時に、重すぎるのではありませんか?」


小さな講義室が、ひそりと息をひそめた。


レンセリオンは一度視線を落とし、わずかに口元を緩めた。


「……衝突は、あります。


秩序ちつじょを守る者と、光を掲げる者。

未知みちを照らす者と、影を断つ者。


考え方は違い、時に互いを理解できないこともあります」


少しの間を置いてから、レンセリオンは続ける。


「ですが――その違いこそが、国を守る“多様な光”になります」


エリオンは目を伏せ、その言葉を受け止めた。


レンセリオンは、さらに言葉を重ねる。


「第四騎士団は、時に“情を挟まぬ者たち”だと見られることがあります。


ですが……影に向き合うためには、

誰よりも強い覚悟かくごと、“揺るがぬ誓い”が必要なのです」


その言葉に、小さな講義室の空気がわずかに張りつめた。


レンセリオンは、まっすぐにエリオンを見つめる。


「影を断つという行いは……確かに重い。

ですがそれは、光が歩くために必要な“静かな地盤”でもあります。


光は、掲げる者だけでなく――

“支える者”がいて初めて届くものです」


エリオンの瞳が、わずかに揺れた。


「第四騎士団は、華やかな称賛しょうさんを受ける団ではありません。

ですが、それでいいのです。


影に立つ者の誇りとは、

光の中に自分の名がなくとも、守るべきものを見失わないことだから」


その声は穏やかだった。

けれど、そこには決して揺らがないものがあった。


エリオンは、胸の内で思う。


(……この人は、強い)


その強さが何でできているのか、すべてを言葉にすることはできなかった。


ただ、胸の奥に、深い敬意だけが残った。


レンセリオンは、わずかに微笑む。


「……答えになっていましたか、エリオン殿下」


エリオンはうなずき、ゆっくりと腰を下ろした。


レンセリオンは、その横顔をしばらく見つめていた。


鋭い問いの奥にあった優しさを、確かに受け取っていた。



やがて、講義の締めを告げるような静寂せいじゃくが訪れる。


その空気を受け取るように、シリウス・エヴァンデル副院長が前へと進み出た。


「……ありがとうございました、レンセリオンさん」


そう言って、シリウスは深く礼をした。


「皆さんも――本当によく学んでくださいました」


その声は穏やかで、どこか誇らしげだった。


「王立学舎の講義は、これで一区切りとなります。

各国が掲げる“光”を学び、互いの違いを受け入れ、ここまで歩んできた皆さんを――私は誇りに思います」


リリナ、エリオン、レヴィアン、ユリウス、そしてレンセリオン。


それぞれの胸に、やわらかな熱が灯る。


シリウスは、穏やかに続けた。


「学舎で過ごした時間は、皆さんの未来にとって……きっと静かな道標みちしるべとなるでしょう」


そして、ゆっくりと微笑む。


「――修了、おめでとうございます」


小さな講義室に、温かな拍手が広がった。


それぞれが、この数日の講義を胸の内で振り返っていた。



拍手が落ち着いた頃、控えめに扉を叩く音がした。


侍従じじゅうが一歩進み出る。


「失礼いたします。

シリウス副院長、ならびに各国の皆さまに伝令です」


全員の視線が集まる。


「ルクヴェル国王陛下より、皆さまを王城にて催される晩餐会ばんさんかいへ、正式にご招待したいとのことです」


リリナの胸が、ふわりと跳ねる。


レンセリオンは一瞬だけまなざしを揺らしたが、すぐに表情を整えた。


シリウスが穏やかに補足した。


「学舎修了を記念し、陛下みずから皆さんをたたえたいとのおぼしです。

どうぞ、心して準備を整えてください」



こうして、王立学舎でのすべての講義は幕を閉じた。


次に待つのは、ルクヴェル王城で開かれる晩餐会だった。

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