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第69話 沈黙の余韻、湖面に落ちた光

エリオンが講義を終えても――

小さな講義室には、しばらく誰の声も戻らなかった。


窓の向こうでは、雨音だけが続いている。


皆が、その静けさの中に残された言葉を受け止めていた。



リリナは、膝の上でそっと指を組んだ。


セレフィアで育ったリリナにとって、光は命を照らし、巡らせていくものだった。


命は失われるのではなく、姿を変え、土へ、風へ、花へ、そしてまた新しい息吹いぶきへ還っていく。


それが、幼い頃からリリナの中にあった“命の循環じゅんかん”だった。


けれど、エリオンが語った水の教えは、それとは少し違う。


照らすのではなく、映す。

外へ広げるのではなく、心の奥へ静かに降りていく。


悲しみを退しりぞけず、涙を弱さともせず、痛みさえも静かに受け止めていく。


アウルの光が命の巡りを照らすものなら、セレーネの水は、魂のらぎを映すものなのかもしれない。


命は、巡る。

心は、流れる。


その二つは同じではない。

けれど、どちらも何かを終わりのまま閉じ込めず、次の形へ還そうとしている。


そう思ったとき、リリナには初めて、アクエリシアという国が遠い水の国ではなく、セレフィアの光とひびき合う、もうひとつの祈りのように感じられた。



そして――


最初に拍手したのは、シリウス副院長だった。


ぱん、と一度だけ響く静かな音。


「――素晴らしい講義でした、エリオンさん」


その一声が、場に満ちていた敬意けいいを形に変える。


やがて四人も拍手を重ね、小さな講義室に、やわらかな音の輪が広がっていった。


エリオンは深く一礼する。

その所作しょさは、真摯しんしで、静かだった。


リリナは、そっと息を吸う。


(……エリオン様の言葉、もっと聞きたい)


胸の奥で、静かな願いが生まれていた。



雨音が、小さな講義室の窓を優しく叩き続けている。


シリウス副院長は手を静かに下ろし、エリオンを穏やかに見つめた。


「エリオンさん、見事な講義でした。

水の国の“静寂せいじゃくことわり”が、しっかりと皆へ届いたことでしょう」


やわらかな声でそう告げてから、今度は前列に座る青年へと視線を移した。


「……さて」


空気が、わずかに引き締まる。


「次回の講義ですが――

ルクヴェル王国第一王子、レンセリオン・レオ・ルクヴェルさんに担当していただきます」


レンセリオンは静かに立ち上がり、胸へ右手を添えた。


「承知しました、副院長。

次回は、我らルクヴェルの“光と秩序ちつじょ”についてお話しします」


その声には、先ほどまでの余韻よいんとは違う、澄んだ強さがあった。


リリナは、そっと息をむ。


水の国の静けさが終わり、

次は――ルクヴェルの光と秩序ちつじょの理へ。


小さな講義室の窓を叩く雨音の中で、次の講義の気配だけが、静かに残っていた。

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